さあこい病魔
村人を問診したその日から、私はせっせと薬作りに励んだ。
なんしかたくさんの量を作んなきゃだめだからね。
神様でも、特殊な能力持ちでも何でもない一般人の私は、おばばさま(私もそう呼ぶことにした)も酷使しながらせっせと作業する。
大体、異世界に呼ばれるような人って『なんか特殊な能力持ってる~』とか『ここ来て備わった~』とかじゃないの?まったく元の世界のまんまなんすけど、私。
せいぜい最初に渡されたペンダント(『月の雫』というらしい。なんか神殿の宝物で、異言語でもコミュニケーションを可能にする能力があるらしい)くらいでしょうか?非現実的な力っちゅーもんは。
沸々と湧いてくるやるせなさを、薬草すり潰しにぶつける。
ガッシガッシガッシガッシ。
・・・くそう。地味な作業だ。
出来た薬から、村人に配っていく。
あっという間に初日に摘んできた薬草はなくなってしまった。
おばばさまのところにも、もはや備蓄などもないらしいので、私が朝早く起きて森へ行き、摘んだ薬草をそのままおばばさまのところに持ち込み仕上げていく。
やはり一人だと大変なのと危険だからと、村長さんが男手を付けてくれることになった。
村長さんの息子さん、ラルクさんという名前だった。
最初に付いてきてくれた例の無愛想美形さん。最近まで王都で騎士をしていたらしい。
このところの村の流行り病騒ぎのために、今は長期休暇を取って帰ってきているということだった。
美少女ツインズの兄ちゃんだけあって、やっぱ美形だわ。
村長さん、そんな美形じゃないんだけど・・・?あ、奥さんがめっちゃ美人とか!昔はすげイイオトコだったとか?ま、そんなことはどうでもいい。
とにかく、ラルクさんは美形だ。背も高いし、村長さんの息子さんだからモテモテだろう。騎士団でも実力を認められて出世しているらしい。
しかし、何度も言うようだけど無愛想だ。スゲーとっつきにくい。硬派っつーか、私になんて興味ありませんよーってか。
まあ、いいんだけどね。
しかし一緒に行動するには気分が重い。
薬草採りに行くにしても無言。「こっち行ってもいいですか?」「ああ。」とか、「疲れてませんか?」「大丈夫だ。」とか。相槌と言われる部類の言葉しか発してくれない。
空気だ。結界だと思うことにする。外敵から一応守ってくれる結界。
イケメンと一緒にいるのに、なにこの殺伐感。
袋に一杯薬草を採り、帰途に就く。
初めて薬草採りに出た日は村長さんも一緒だったから「女神さまに荷物なんて滅相もございません!!」的な感じで、護衛の男の人に割り振ってくれた。けど、もう村長さんはいない・・・うう。(あ、死んでませんよー。ここにいないだけですよー。)
薬草、ごっつ重いが、ラルクさんに「持ってください。」なんて怖くて言えない。
こう見えても私は小心者だ。小市民だ。
重くても頑張る。我慢する方が楽だから。
えっさ、ほいさ、と心の中で掛け声を掛けながら歩き出すと、ふっと荷物が軽くなった。
「ほへっ!?」
間抜けな声が出てしまう。
まさか、袋に穴が開いていて撒き散らしながら移動してるとかないよねっ?
私が振り返り袋を確認すると、ラルクさんが袋を持ち上げていた。
「あっ・・・と、私、持ちますから?」
おどおどしながら言う私。なんでビビる必要がある!?
「いや、大分重くなっているから、これはオレが持とう。」
うわ、長文しゃべったよ!幼児が二語文しゃべったみたいな感動がきたよ。
私、今、間抜け面してるだろうな。
「だ、大丈夫です。」
持ってくれるって言ってんのに、なに辞退してんのよバカ美華!
そんなあわあわしている私なんかお構いなしで、ラルクはさっさと荷物を私から取り上げてしまった。
少々ビビりながらも、ラルクの後を小走りで追う私だった。
おばばさまの家に行き、私とおばばさまはまたせっせと薬作りに励んで、出来たものから村人に配布。
薬作りと並行して、まだ感染していない村人の対策もしていく。
巫女ツインズがせっせと量産してくれるマスクの配布と着用の義務付け、手洗いうがい薬を作り、これまた配布、励行。
食事も、回復段階によって細かく指示を出し、自炊できない人には村から給食を配膳したりした。
まるで野戦病院ですかい!って、経験したことないけどねー。
でも、この怒涛のような忙しさは、元居た職場を彷彿とさせた。
夜遅く、仮設宿泊所(神殿ね☆)に帰り、供物(!)を食べ、朝早く起き薬草を採りに行き、その足でおばばさまのところへ行き、また怒涛の一日を過ごす。
そんなことを続けて2週間。
私はすっかりヘットヘト~だったけれども、村人はほぼ快癒していた。
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