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泉の女神  作者: 徒然花
月の石を求めて
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お披露目

体調不良のまま帰還・召喚をやってのけたせいで、さすがに今回は疲れたよ。

懐妊発覚もあるし、そのまま静かに寝かせてもらうことにした。明日の朝にでもいろいろ報告に行けばいいし?




でも。


「ぐへ……気持ち悪い……起きれない」


起き抜けから目が回ってる。それはもう、ぐるんぐるんと。

意識って恐ろしいわね。昨日まではそこまでつらくなかったのに、いざ『懐妊』で『悪阻』ってわかった途端にこれだ。

目覚めた瞬間から枕に突っ伏して呻いてる。本当はそろそろ起き出して朝の薬草摘みに行かなくちゃならない時間なんだけど……無理っぽいぞ。


「ミカ。具合はどうだ」


先に起きだしていたラルクが部屋の扉を開けて入ってきた。


「世界が回ってます」

「回らないだろ。めまいが激しいのか。薬草摘みはいいから、寝てろ」


きゅっと眉間を寄せ、険しい表情で私に近付いてきたかと思うと、起き上がろうとした私を押さえつけ、またベットに逆戻りさせた。

逆らう気力もない私。されるがままに寝ることにした。




昼ごろに義父母とアンがやってきて、それはそれは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

あれからラルクは一人で実家に行き、懐妊報告をしたからね。みなさん、浮かれまくってたみたいよ?

少し気分が楽になってきたので、私もベッドから起き上がり、ダイニングで腰かけながら応対する。

私も何かおもてなしした方がいいかなぁ何て思うんだけど、いかんせん、立って何かしようとしたらみんなに全力で押しとどめられる。えーと、そこまで過保護にならなくてもいいんですけど?

仕方なく座ったまま、されるがままに世話されておく。お茶の一つも出さなくてスンマセン。


キッチンにいたアンが、お盆を手にこちらへやってきた。


「お兄様だけでは気が利きませんものね。ご気分はどうですか? お義姉さま」


あ~、アンの超絶カワイイ微笑だけでもかなり気分は晴れるよ☆

少しでも食べないと、と、以前から力を入れていた病人食なんかを作ってくれたみたいだ。うん、上達してるね! ちょっと匂いがキビシイけど、お姉ちゃんがんばって食べちゃう!!


一方、お義父さまとラルクはというと。


「オレが使っていた部屋を子供部屋に改装したらいいと思うんですが」

「そうだな。で、ここにベビーベッドを置いてだな……」


私たちの寝室の隣、元はと言えばラルクの部屋だったところのドアを開けて検分している。かーなーり気の早い話を真剣にしている。……鬼が笑うわ!!


その側でお義母さまも、


「かわいい服をこしらえないと! 男の子でも女の子でも着れちゃうデザインにしないとね☆ お布団やその他にもいろいろこしらえなきゃね! ああ、忙しくなるわぁ」


なんて、ぽちゃぽちゃとした体躯をウキウキとはずませてはしゃいでいる。


あの。懐妊のことでぶっ飛んでしまっている感が否めないのですが、みなさん『月の石』のこと忘れてないかい?


「あの~みなさん? 『月の石』のことはいいんでしょうか?」


おずおずと口を挟んでみた。


「『月の石』の発見のことでしょうか?」


それまで真剣に子供部屋の相談をしていたお義父さまがこちらを振り返り聞いた。


「はい、そうです。この朗報を早く村人さんたちに披露しなくてもいいんですか?」

「そうれはそうなのですが」


曰く、『月の石』を女神様、もといミカ様が発見してくださった。

すると、めでたい事なので村人はきっとミカ様の元へ殺到するだろう。

しかし、悪阻で体調不良なミカ様。

そうなると、心配する村人。

だが、まだ安定期ではないのであまり公表はしない方がいいのでは。


ということで、


「ミカ様が安定期に入ったところで『月の石』のお披露目と懐妊の発表をした方がいいかと思われまして」

「えええ~~~?! 懐妊の発表までしちゃうんですか?!」

「それは、村長であり神官の家の子孫誕生でございますからね。村の一大事でございますから」

「はぁ……」

「それだけではございません。『ミカ様』のご懐妊でございますからね」


ニッコリと笑って言ってのけるお義父さま。

あまりの衝撃に思わず立ち上がり、ふらついたら、慌ててラルクが支えに来てくれた。

えーと、私フツーの妊婦でいいんですけど……。まあ、そうはいかないかぁ。




結局それから3ヶ月ほど経ってから、『月の石』のお披露目と私の懐妊が発表されたのだった。


ダブルの慶事に沸き立つ村。

う~ん、自分の妊娠がこんなに大事になるなんて、数年前の私には想像すらできなかったよ……。いや、つーか、干物まっしぐらだったから、結婚することすら想定してなかったけどね☆

妊娠発覚の時はおそらく2ヶ月目くらいだから、今は大体5ヶ月目くらいかな。悪阻も大分落ち着いてきた。ホッ。


時に季節はすでに秋。


今年の実りと収穫の感謝祭は例年よりも盛大なものになった(らしい。過去をよく知らんからね)。


その収穫祭のフィナーレ。


月が上る頃に『月の石』のお披露目がある。

あ、祭りの最中は神殿――元からあったやつね――の奥に設えた祭壇の上に、柔らかな布を被せられて鎮座してたのね。


いよいよお披露目の儀式が始まる。


ここに初めて来た時に見た、古代ギリシア人のような神官長の衣装をまとったお義父さまが、厳かに祭壇に跪き、恭しく布を取り払う。

そして、台座ごと祭壇から持ち出して踵を返し、村人が今か今かと待ちわびる神殿前の広場へと運んでゆく。

私たち――お義母さま、アン、ラルクと私、このために王都から呼ばれたシエル――は、祭壇横に設えられた席に着いていた。

お義父さまが静々と運ぶそれを、私はじっと見つめていた。


う~ん、あの石私がすでにキズ一個入れちゃったのよね~。お試ししたから仕方ないんだけど、もったいないわ~。ごめんなさいね。まあ、遠目には見えないから良しとするか。ホントは傷一つない状態でお披露目したかったけど、性能試しとかなくちゃダメじゃない? 偽物だったらどえらいことになっちゃうし。


なんて思いながら。


お義父さまの後ろについて広場に出ると、『月の石』は月光に照らし出され、その光を乱反射させてさらに神秘的に輝いていた。

石の登場に、それまで静まり返っていた広場がざわめきだした。


「あれが発見されたという『月の石』か……」

「前のにも劣らぬ美しさ……」

「きれい……!」


ほう……というため息とともに、口々に囁きが漏れた。

お義父サマの後ろからそっと村人さんたちの表情をうかがえば、どの人も、とっても嬉しそうで、私はホッとした。あ~、これで割ってしまった罪悪感は楽になりましたとも!


ホッとしたついでに、最近ちょっとふっくらしてきたお腹に手を当ててみる。


「??」


あれ?


「どうかしたのか?」


お腹に手を当てたまま小首を傾げた私に、隣に並んで立っていたラルクが気付いて声をかけてきた。ラルクよりも30cmは小さい私の顔を見るために、少し屈んで。

そのまま動かない私を訝しんで、


「お腹が張るのか? 立ちっぱなしはよくないな。先に退出させてもらおう」


心配そうに柳眉を下げながら言ってくれるんだけど。


そうじゃなくて。


「今、動きました! ピキピキって感じですけど」


顔を近づけてくれたおかげで届いた耳に、そっと囁いた。

一瞬目を見張ったラルクは、すぐさまその眼元を和らげて、


「本当か?」


私にだけ聞こえるような小さな声で囁き返してきた。


「ええ。まだ微かなものですけどね」


それに気付けたことにうれしくて、笑みがこぼれる。


「そうか」


ラルクも秘かに笑みを返してくれる。




『月の石』のお披露目の後ろで、そんなことを囁き合っていたなんて、誰も気付いていなかった。


今日もありがとうございました(^^)


いつも応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!

ちょっと(いやかなり)開いてしまってスミマセンでした!!

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