召喚? 帰還?
ああ、落ちていく。召喚は成功なのかしら? こればかりは向こうに着いてみないと判らないわね。
でも、この落ちていく感覚、いやだわ~。前は何ともなかったんだけどなぁ。魂と骨と肉が分離していく感じ?(したことないけどね~)ジェットコースターの落下の時のような。 とにかく体調不全の今の私には堪える! ぐへっ!
ピシリ……
あっ! いつもの音……ってことは……
ごぼぼぼぼぼ……!!! はい、水中~!!
「ぐぶっ……!!」
ぎもぢわるい~~~!! 降下で酔ったのかも……ダメだ……
落下酔い(?)のせいか、私は水中に出た途端にブラックアウトしてしまった。
「……カ……ミカ……ミカ……!!」
あー、ラルクのこえがするー。でもふわふわしててきもちいいから、まだねかせておいて~。
「ミカ!!」
そんなにおおごえでよばなくても、きこえてるってば。
「ミカ……!」
あ、こえのトーンがかわったね。あきらめた? ふふ、おやすみ……
「目を開けてくれ! ミカ!」
え~? あけなくちゃいけないの? もうちょっとねかせてほしかったなぁ。でもラルクのかおもはやくみたいかな。もう、しかたないだんなさまだ。
ぼんやりとした視界に、顔面蒼白のラルクが飛び込んできた。
「……ただ今……ラルク……」
あれ? 声が掠れてるわ。寝起きは仕方ないか。って、ここ、うちのベッドだよね?
見慣れた天井、いつもの布団。
それから顔を横に向けると、窓越しには十六夜のお月さま。
あ~、こっちに無事帰ってこれたんだ。
って、あれれ? いつの間に運ばれたんだろ? キオクニゴザイマセン。
でもってラルクはというと、さっきまであんなにうるさく(!)私の名前を呼んでたくせに、今は黙って眼を見開いている。しっかりと私の手を握りこんだまま。おーい! 固まった??
「ラ、ラルク??」
握られていない方の手を、ラルクの目の前でひらひらさせながら呼んでみる。すると、私の呼びかけにハッとなったラルクは、我に返ったのかぎゅっと抱き付いてきた。
「よかった……気が付いたか!! オレが迎えに行った時には、お前はすでに意識がなかった! 何をしても目を覚まさないから……!!」
私を抱きしめる背中が、何か震えてます?
「今回、ちょっと落ちてくるときに酔ったみたいで……気分が悪くなっちゃったんですよ。ご心配かけてすみません」
ラルクの背中に手をまわし、反省の意味も込めてなでなで。
でもそんなんじゃ誤魔化せないみたいだわ。
「心配どころではなかった!!」
心配通り越して激怒でしょうか?? ひーえー!! お母さんに『迷惑かけちゃだめよ』って言われてきたばっかなのに~~~!
「ご、ごめんなさい!」
「やっぱり、こんな体調が完全とはいえないミカを行かせるべきではなかったんだ。断固として止めなかったオレの責任でもある」
私を引き剥がして、両手で頬を挟まれてしまった。むむ、顔を逸らせられないじゃないかっ!
そしてラピスの瞳が、私の眼をじっと見つめてくる。柳眉が逆立ってますよ?
そ、そんなに自分を責めなくてもいいんだよ?
「きっとね、久しぶりだったから酔っただけなんですよ~! ほら、私絶叫系苦手だし?」
「?」
一応弁解はしておこう。
「スミマセン。こっちにはないですね。あ、シェンロン騎乗とか? そんな感じですよ」
うん、あれは絶叫系に匹敵するわ。
でもそんな言い訳通用しないんだなぁ。しっかり顔を固定されて、真剣な瞳で射抜きながら、
「そんなことはどうでもいい。ミカはもっと自分のことを考えるべきだ」
「考えてますよ~」
「いや。すぐ無理をする」
「はぁ……まぁ……」
憮然と言い返すも、あっけなく撃沈。さすがにお怒りモード発令中のラルク様に向かって「ラルクが過保護なだけだってば!!」とは言えませんて!!
「当分ミカは、体調が戻るまで休養だ」
「ええええ!?」
「異論はないな?」
グッと目力を込めて私の瞳を覗きこんでくるラルク。
こんな至近距離で睨まれたらチキンな私は『YES』しか言えないでしょが!!
「……ゴザイマセ……ん?」
しおらしく(決してラルクの勢いに押されたからじゃないからねっ☆)返事をしようとしたところで、なんだか違和感。
さっきからラルクに顔を固定されたままだったんだけど、急に気持ち悪くなってきた。ムカムカする。うっ、まだ酔いが醒めてなかった??
「どうした?!」
急に顔をしかめた私に驚いて、ラルクが手を離し、私の顔を解放した。
「うう、気持ちが悪くて……!!」
ここでリバースはまずい!!! 後始末すんのヤダ~~~!!!
と、とっさの判断でトイレに駆け込んだ私。
「ミカ!! 大丈夫か!!」
扉の向こうから心配そうなラルクの声。
ん~。すっきりしないんだよねぇ。
これってさ。
「一応大丈夫なんですけど、えーと、私があっちから持ってきた荷物って、今どこにあります?」
ひとしきりリバースしたところで、よろよろとトイレから出てきた私は、リアルワールドから持参した荷物の在り処を訊ねた。
「それならダイニングのテーブルの上にあるが……」
「あ、ありますね!」
今、必要か? と書かれたラルクの顔をスルーして、荷物のところへ行き、念入りに施したパッキングを解いていく。
その様子を怪訝な顔で見守っているラルク。けど、私が目的を持って何かを探していることに気が付いているのだろう、何も言わずに傍で支ええくれている。ありがとう! 今めっちゃめまいがしてるんだよ!
「あった! ……ぐふっ! ……またトイレ!!」
気分の悪さとめまいと戦いながら目的のものを取り出すと、またトイレに向かった。
数分後。
さっきのブツを確認する。
……陽性!!
そう。向こうから持ってきた荷物の中には『妊娠検査薬』もあったのだ~!!
って、じゃあここのところの体調不良は悪阻だったのかぁ。
もともと不順な方だから、びみょ~だったんだけどね。
だけど。
『夏バテ』だの『体調不良』だの言い訳をして、認めたくなかったんだなぁ。
妊娠してるっていうのが発覚したら、ラルクは絶対に『月の石(仮)』のお試しをさせなかっただろうから……。
「あの~、ラルクさん?」
トイレの扉を少し開けて、そこからちょびっと顔を出しながらラルクを呼んでみる。
「どうした?! まだ気分は悪いか? 王都の魔女様を呼んでくるか?」
トイレの前でやきもきしていたのだろうラルクがすぐさま寄ってきた。思いっきり心配そうな顔してる。う~。これは早く安心させてあげたいけど、恥ずかしいのもあるんだよなぁ~。
しかも村のおばば様を飛び越えて王都の魔女様呼ぶって、どんだけ大袈裟ですか!
まあ、私を心配してのことだし。ふふふ、普段は冷静沈着なラルクのこの取り乱し様。
「いやいやいやいや、魔女様はいいですから! ……あのですねぇ。できたようです」
「できた?」
「はい。えーと、そのー、体調不良はどうやら悪阻のようです」
「……」
「ラルク?」
「……本当か? またこないだみたいなんじゃないだろうな?」
「太ったって?! 違うしっ!! ……こほん、ちゃんと調べましたから。ほら、検査薬。向こうからいざって時のために持ってきたんですけど、こんなに早く使うとは思いもしませんでしたよ~!」
ラルクに検査薬を説明しながら見せた。
「ミカ……」
「はい?」
ラルクの顔を見上げると。
そこには満面の笑み。
うわっ! 初めて見たかも?! 美形の満面の笑みってキラキラしてるのねっ!! お星さまが見えちゃったわ!!
美華さん、キュン死にしちゃうじゃない!!
打ち抜かれた(?)胸を押さえながら、その場にしゃがみこんでしまったわ!!
「どうした?! また気分が悪いのか?!」
笑顔を引っ込めて、おろおろしながら私の肩をつかみ、ラルクも膝をつく。
「いえ、笑顔にやられました」
「なんだそれは?」
「大きな独り言です」
「よくわからんが、とりあえず横になるか? みんなへの報告は、明日にすればいい」
「そうですね」
返事をした私を抱き上げるラルク。
今からこんなに甘やかされてたら、太っちゃうじゃない!? 太りすぎはダメなんだからね?
今日もありがとうございました(^^)
……やっとここまで来ましたよ!(笑)




