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泉の女神  作者: 徒然花
月の石を求めて
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浦島太郎……は免れた

……はっ!!


気が付いたら、いつもの帰還召喚ポイント・実家近くの公園のベンチに座っていた私。


「ふ……ふぉぉぉぉ!!! 帰還成功じゃん!! うわーうわーうわー!!」


きょろきょろと周りを見渡しながら、現実かどうか確かめる。

鳥は空を飛んでいる。夏の早朝、青空がまぶしいぜ☆ 白い雲もやけに爽やかだ!

そう、一応、周りは動いてる。時が止まっているわけでもない。

公園の時計は午前7時を指していた。


「でも、今日は何年何月何日なんだろ? ちゃんと帰還が成功してるならば、去年より1年進んでて、7月○日のはずなんだけどな。……一回、駅に行って確かめるか」


そこをちゃんと確かめないと、帰還成功とはいえねーよなぁ。

駅前にあったビルの壁面に、日付と時間がデジタルで表示しているところがあったんだよね。そこ行って、ちょっくら確かめよう。

まさか1年でなくならないっしょ?




駅前のビルはちゃんと健在で、そのデジタル時計の表示は『□年7月○日 7:34』となっていた。


「おお! ちゃんと1年後だ! っつーか、浦島太郎とか勘弁だしね~」


オレンジ色の表示をまじまじと見ながら、思わずひとりごちてしまったわ。




駅から公衆電話で実家に連絡を入れる。いきなり帰って留守も困るし、向こうもびっくりするだろう。って、今から帰るって時点でびっくりか☆


『……はい、もしもし』

「あ、お母さん? 私わたし~!」

『……おれおれ詐欺?!』

「違うわっ!! 美華です!」

『あら、美華だったの~! やーねぇ、ちゃんと名乗りなさいよ~』

「娘の声も忘れたか……」

『ほら、電話だと判りにくいし?』

「もういいわ。あ、今こっちに帰ってきてるの。もうちょっとしたらそっちに寄っていい?」

『あんたまた、急ねぇ!! ま、大丈夫よ。あ、昨日からお姉ちゃんたちもこっち来てるから会って行けるわね!』

「あ、そうなんだ?」

秀斗しゅうとも大きくなったわよ~』

「へえ、楽しみだ」

『じゃ、後でね。何時ごろになる?』

「9時頃かな」

『わかったわ』


久しぶりの母親の声に、なんだかジーンときた。

下手すりゃもう一生、声聞くこともなかったんだもんねぇ。『月の石(仮)』の『(仮)』はもう撤廃しなくちゃね!! あ、でもまだ召喚できるかどうかも試さないといけないから、撤廃はまだ早計か。


とりあえず約束の9時まで時間があるから、近くのカフェに寄って久しぶりのお一人様でも満喫しよ~っと。




去年の12月の終わりにあっちに行ったから、7ヶ月か。

駅前も、めちゃくちゃ変わったということはないけど、どこかしこがマイナーチェンジしてて、やっぱり軽く浦島太郎状態だわ。

カフェで雑誌をパラパラめくりながら、「このスイーツ食べたい!」「この店可愛い!」等々思うものの、結局「時間ねぇや」で諦めモードな私。いや、スイーツは向こうでも普及させるべきよね? オーブンみたいなのも工夫次第で何とかなるでしょ!

今回は絶対お菓子のレシピ本を買って帰るぞ! 後はアン、任せた!!(あれ?)




9時ジャスト。


ピンポーン。


我が実家ながらも、一応玄関チャイムは鳴らしてみた。


「はいはーい」


インターフォンごしではなくて、いきなり玄関が開いて、姉の美樹ちゃんが顔を出した。

一児の子持ちには見えない、相変わらず綺麗なままの姉。むしろ前より幸せオーラ倍増?

まだ朝が早いからか、部屋着のワンピース姿だけど、やつれ感がないというか若々しいというか、何ともうらやましいぞ。


「あ~! 美樹ちゃん!! 久しぶりね~」

「美華こそ! 元気にやってる?」

「元気元気!」

「ま、早く入りなよ。秀斗も起きてるわ」


美樹ちゃんの後ろについて、家に入った。


リビングに入ると、そこにはすでに全員集合なわけで。

父母、義兄、甥っ子の秀斗。

でも私を待っていたという訳ではなく、みんなで甥っ子を囲んで、甥っ子の遊ぶ姿を堪能していたようだ。……くっ、相変わらず薄情な家族めっ!

しかし甥っ子。もう8ヶ月にもなるのか。すっかりでかくなってる。ハイハイしてるよ。

私が知ってるのは、生後1週間のフニャフニャの猿もどきだったからなぁ。ものそい成長だ。


「おかえりー。もう、美華ったら急だったのね!」


お母さんが私にお茶を淹れながら話しかけてきた。


「うん、まあね。自分でもこんなに急に帰ってこれるとは思わなかったし?」


はい、これ事実です。失敗したら泉で入水しただけだったしね。でもここはまるっと飲み込んでおく。

私はダイニングの椅子に腰かけて、父や義兄、甥っ子の様子を眺めながら返事をした。


「ふうん? で、向こうの仕事は忙しいの?」


自分のマグにお茶を淹れてもらいながら、美樹ちゃんも話に加わってきた。


「うん、ぼちぼちかな。かなり落ち着いてきて、色々と楽しんでるところだよ」


買い食いとか~、買い食いとか~、買い食いとか~。……あれ? 他にはやってないのか?

買い物はした。勉強もした。なんと結婚までしてしまった!! わわわ!!

でも、これって言えないよねぇ。さすがに。


「そう。ならいいのよ。皆さんとはうまくやれてるの?」


お母さんも、自分のお茶を淹れると、椅子に腰かけた。


「大丈夫よ! すっごくいい人ばかりだから!!」


それは太鼓判。『女神様』って呼ばれて奉られたりもしたけどね……遠い目。

だんな様もそれはそれは大事にしてくれるしね。向こうの家族も。


「だからって、ご迷惑ばかりかけちゃダメなのよ?」


お母さんがくぎを刺してきた。どきーーーっ。キヲツケマス。


「はーい」


ラルクには迷惑かけっぱなしだわ。お土産奮発で誤魔化すか!


「でもさ、」


美樹ちゃんが、私をニヤニヤしながら見ている。なんですかぁ? こんな顔をする美樹ちゃんは、黒い時だ。


「何? その顔!」

「あんた、好きな人できたでしょ~」

「んなっ……!!」

「はい、図星~☆ なんか雰囲気変わった」

「はいい?」

「前はもっとギスギスしてた。枯れてたっていうか~」

「枯れてたって……」

「それが何よ、瑞々しくなっちゃってるじゃない!」

「……人を植物みたいに言わないでよ……」

「あら、綺麗になったって言ってんのよ? 若返ったというか?」

「……はっ! 玉手箱?!」

「何よそれ?」

「あ、ごめん、妄想」


玉手箱は持ってきてない! ……そもそもそんなの関係ないし。

また自分で顔中ペタペタと触って確認する。あ、ここのところのすっぴんライフがお肌に良かったのかしら?

そんな私の行動がおかしかったのか、美樹ちゃんもお母さんも吹きだした。


「何やってんのよ~! 美華ったら!!」

「じゃあ、美樹ちゃんが言うとおり、好きな人できたんだ~!」


キャッキャキャッキャと浮かれる母と姉の若さについてけないわ。


「まあ、このまま干物になっちゃうんじゃないかって心配してたのよ! 頑張んな!」


美樹ちゃんは笑顔で応援してくれたけど、はあ、もう結婚してますから……とは言えないので、


「はいはい。がんばります」


と、適当に返事をしておいた。




それから、甥っ子と遊んでみる。

人見知りはしないらしく、むしろとっても人懐っこくてびっくりした。

義兄も美樹ちゃんも美形だから、甥っ子もなかなかかわいい顔をしている。うん、将来はイケメンになるだろな。

抱っこしたり、転がしたり。ボール投げたり。

ひとしきり遊んでみた。

姉夫婦が出かけるというので甥っ子を預かり、昼寝も寝かしつけてやった! できるんだぞ!


すやすやと眠る甥っ子の寝顔を見ながらぼんやりと考える。

そのうちできるのかなぁ。子供。そーいやこないだは妊娠騒動でびっくりしたけど。ラルクは欲しそうだったな。お義父さまは「まだ?まだ?」だし。村中みんなでウエルカムな感じで怖いわっ!

ま、その内ということで、スルーしとこう。

ぐっすり眠る秀斗のほっぺたをぷにぷにとつついてみた。




夕方には実家を出て、買い出しに出かける。

医療器具を補充したり、本を買ったり。


「う~、でもちゃんと帰れるのかしら? 召喚失敗とかだったらやだなぁ」


いつもの公園で満月を見上げながら、不安を口に出す。

いや、大丈夫だ! ラルクが大丈夫って言ったもん!!




ラルクの顔を想いながら、しっかりと防水パッキングした荷物を持ちなおして、水に触れた。


今日もありがとうございました(^^)

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