満月
あれよあれよという間に2週間は過ぎ、今宵は満月。
体調は……正確に言うと完全じゃないんだよね~、これが。なーんか疲れが取れてないっていうか? 体が重いっていうか? ……まさか、また太った?! いや、最近は買い食いもしてないし、ダイエットに励んでるから大丈夫なはずなんだけど?
まあ、おそらく夏バテだな。こりゃ。
リアルワールドではほぼ冷房の中で快適生活を享受してたから、エアコンなしのこちら生活でちょっとバテてるんだわ。ウナギ食っとく?
……って、まあそれはいい。
でも、私ごときの体調で、せっかくの月に一度のチャンスをふいにするのはもったいない。
だから最近は務めて元気なフリをしてきたしてきたわよ! 私ってば健気じゃない?
いや、それもこれも、私の良心の安寧の為でもあるからね。
私の良心の安寧=『月の石』の発見=こっちの世界も安寧だからね!!
でも、『無暗に召喚とかしてはいけない』っていう掟でも作っとかなきゃ。
「今夜、ちょっとお試しするね?」
ラルクと朝ごはんを食べながら、私は宣言した。
「体調はいいのか?」
ラルクは私を伺いながら聞いてくる。あんまり見ないでほしいなぁ~、顔色は大丈夫だと思うんだけど……なんか見抜かれてる気がするんですけど? ラルクってば、私のことになると敏感にレーダー作動させるからなぁ。おもにフィジカル面だけど。
「はい! もうすっかり! 美華さん特製薬汁で元気ハツラツゥですよ!」
「……」
ああ、もう、見抜かれてる気がバンバンするっ! けど押し通せ!
「ね? 大丈夫ですよ? それにちゃんと帰ってきますから」
きっとラルクの懸念はここ。
もう、私って信用ないのかいっ!!
いや、でもここはしおらしく。ラルクの手をそっと握ってみたりして☆ きゃー☆
げほっげほっ……あまりのキャラの違いに、自分でびっくりするわっ!
「……わかった。まあ、まだ水も温いことだし……」
「そうそう! 冷たくないから体にも悪くないですって! ほら、逆に暑いくらいだから、いい水浴びになりますって! それに、早く『月の石』としての機能を確認して、村人さんたちにお披露目したいじゃないですか?」
やっぱり渋々なラルク。そこを言いくるめようと頑張ってるよ、私!
「帰ってきたら、いつもみたいに迎えに来て下さいね?」
ダメ押しで、ラルクのラピスをまっすぐに見つめながら笑ってみた。げふっげふっ……キャラが……。
「もちろんだ」
そう言って、諦めたような溜息をひとつついてから目を細めた。
タンスの奥に仕舞い込んであった、紺色の半袖ワンピース。
こちらでは着ることもなかったけど、一応念のためとっておいたんだ。うん、捨てなくて正解!
去年こちらに来る直前に買ったばかりだし、まだ流行遅れになってないよね? そんなに流行り廃りのないデザインだから大丈夫なはず。
それを引っ張り出してきて着込んでいる私を、複雑そうな顔で見ているラルク。
「どうしました?」
「いや。まだ向こうの服を持っていたのかと思って」
「?」
「向こうに未練が……」
「あ~、違いますね~。これ、高かったから、捨てるのが忍びなかっただけですよ~」
「……」
あら、がっくり項垂れちゃったよ? あけすけに言いすぎた?
身支度を整えて、後は泉へ行くばかり。
「さ、行くか」
そう言いながらもラルクはじっと私を見るばかりで。ん? なんかおかしなとこあんの?
パタパタと顔や体を手で触ってみたけど、特に異常なし。
「ラルク?」
「大丈夫だから……」
と言いながら、私を引き寄せぎゅっと抱きしめる。何が大丈夫なんですか~? 石か? 石の事なのか??
「はい、きっと大丈夫ですよ! だってシェンロンが見つけてくれたんですから!」
「そうだな。違ってても、すぐに飛び込んで助けに行くから」
「はい。もちろんでしょ?」
ラルクの背に手をまわし、ぎゅっと抱きしめ返す。
心配しないで? ここが私の帰る場所だから。
気持ちを込めて、さらにしがみつく。
泉のほとりには、お義父さまとお義母さま、アンと鉱山の親方さん。
今のところ『2代目月の石』のことはこの4人しか知らないからね。本物かどうか証明された後で、村人さんたちにはお披露目しようということになったのだ。
泉の水面に、満月が揺れる。
お義父さまが、柔らかな布に包んであった『月の石(仮)』をそっと取り出した。
それは掘り出した時は自身から発光していたのだが、今夜は月の光をその身にまとい、キラキラと輝きを増している様だった。
傷一つない、美しい姿に、みんな息をのんだ。
「では、浸します。ミカ様、ご準備はよろしいか?」
「ハイ。大丈夫です」
しっかりと手を繋がれていたラルク共々、泉の淵に立つ。
心配そうに私を見下ろすラルクに、安心させるかのように微笑みかけ、それから、そっとラルクの手を撫でてから、それを解く。
ちゃぷ……
石が水に浸かったと同時に、私は泉へとダイブした。
今日もありがとうございました (*^-^*)




