親方さん
鉱山で働くラルクの友達に『神域』のことを訊ねると、あまりに古い事なので『言い伝え』として、鉱山労働者の間で受け継がれているらしい。
「あくまでも言い伝えだから、本当かどうかは定かじゃねーけどさ。でもそこは今でも掘り進めちゃいねーよ。入るのは親方に言ってからにしろよ~」
ラルクのツレさんはそう言った。
親方さんていうのは、鉱山の仕事を取り纏めている人だそうだ。
ラルクはその親方さんをご存知なんだろう、
「ああ、わかった。ありがとな」
そう言うと、私の手を引き村外れの方へと向かって行った。
ラルクに手を引かれながら歩いてんだけど、あんまりサクサク歩くから『ランデブー』っていうより『連行』に近いんですけど~。
結構早足だから、ハヒハヒ、と、息が上がってしまうじゃない! ああ、疲れてきて酸欠かしら? めまいまでしてきちゃったじゃないの!
「ラルクぅ~! 疲れました~! ハヒハヒ……しんどいです~! フウ……ゆっくり……歩いて……」
「あ? 悪かった。大丈夫か?」
立ち止まり、私を見下ろしてくるラルク。
「は……はひ……」
息が上がってるから、『ハイ』が『はひ』になっちゃったわ!
ちょっと手を離してもらい、膝に手をつき肩で息をして呼吸を整えさせてもらう。あ~でも早足くらいで息が上がっちゃうなんて歳かしら? いや、単なる運動不足だわ。早朝ジョギングでもしよっかな。
そんなことを考えていたらようやく呼吸も元に戻ったので、
「もう大丈夫。さ、行きましょう」
私はにっこり笑ってラルクを見上げることができた。
それまで息を整える私を、すまなさそうに見、背中を撫でていてくれたラルクが、今度は自分の腕に私の手を絡めて、
「ゆっくり行くから」
と、私に歩調を合わせて歩いてくれた。
ふふ。なんか特別っぽくてうれしいぞ☆ これでこそランデブーだよラルクくん!
「ここだ。こんにちは、親方、いますか?」
村外れの一軒家。
といっても昔ながらの長屋のように、ずら~~~っと家がくっついて建っているのだけれど。その端っこの一軒が、どうやら親方の家みたい。
ラルクはその玄関前に立つと、おもむろに扉を拳でドンドンと叩き、先程のセリフを述べたのだ。リアルワールドと違って、こっちにはピンポン(インターホンだろ!)なんてないからね~。
「ああ? 誰だ? ……おう、ラルクじゃねーか。久しぶりだな」
そう言って、頭をぼりぼり掻きながら出てきたのは、180㎝はゆうにあるだろう厳ついガタイのおじさま。THE☆ガテン系ですな。
お髭ものびて、ワイルドだろぉって感じ。日焼けも半端ないし? 地下世界で労働してるはずなのに、ナゼアナタハソンナニクロイノデスカ~??
あまりのワイルドおやじ加減に、思わずラルクの後ろに隠れてしまったわ。
「お久しぶりです。あの、急なんですが、坑道のことでお願いがあるんです」
ラルクが丁寧にお辞儀をして、今回の訪問の趣旨を伝える。ラルクの挨拶って、やっぱり騎士さんやってただけあって、どこか優雅なのよね~。惚れ直しちゃう。
「坑道? なんだ? ……おや、奥さん連れか。お初だよな? 初めまして女神様」
「女神ちゃいます!!」
後ろに隠れてたのに、ささっとラルクの横に出てきて、激しくツッコんでしまったわよ! 初対面の人だけどねっ! しかし、久しぶりに呼ばれたわ。
「ぶっ……! がはは! そうらしいな! ミカ様だっけか?」
「様は要らないんですけど!」
「いや、呼び捨てはできねえよ。オレんとこの娘も助けてもらったしな?」
豪快に笑いながら言う親方。おや。それは知りませんでした。っつーか、あの時に誰を診たとか全く覚えてません!! ほら、混乱の極みだったし?
「え? そうなんですか?」
「そうなんだよ。で、ラルク、坑道についてって何だ?」
ここでようやく本題に戻ってきた親方さん。それまでニヤニヤ笑っていたのが、ちょっと顔を引き締めてラルクに向かった。
「実は『月の石』を探したいと思いまして。……ミカが、割ってしまったことをひどく気に病んでいましてね。気に病むことはないと皆も言ってるんですが、どうにも落ち着かないみたいで」
「ふーん。なるほどね」
「古い文献を調べたところ、どうやら坑道の一つで偶然見つかったようで。しかも鉱山にはその昔『月の石』が産出したという場所が『神域』として言い伝えられていると聞きました。そこを探せば新たな『月の石』を見つけることができるんじゃないかと考えたのです」
ラルクが、親方の眼をまっすぐに見ながら説明した。
親方もラルクの目を見返しながら、まじめに聞いてる。
う~ん、『神域』だから、一般人が勝手に出入りしちゃ、やっぱり駄目なんだろなぁ。
違うところを探すにしても、広大すぎてどこを探せばいいかわからんしなぁ。
ラルクの横で二人の様子を見ながら、ひとり悶々と考え込んでた。
すると、静かにラルクの話を聞いていた親方さんが、
「そうだな。神官であるラルクや村長様が『神域』に入ることは問題ないしな。『月の石』も、見つかればそれに越したことはないだろう」
そこまでは真面目な顔で言っておきながら、
「それで嫁さんの気を晴らしてやれるならいいんじゃねーの?」
って、にやりと笑いながら言ったよ、親方!!
「……ありがとうございます」
あ、ラルクがほのかに赤くなった?
「ぶくく……堅物ラルクが嫁さんに甘いなんてなぁ! 変わったなぁ! お前!」
「ほっといて下さい」
「はいはい。じゃあ『神域』の場所、案内してやるよ」
面白そうにラルクをからかっていた親方さんは、「ほれ、ついてこいよー」と言いながら、私たちの横をすり抜け、鉱山の方へと歩き出した。
今日もありがとうございました! (^^)




