古文書は読めません
地下書庫に続く階段は、人が一人通れるほどの幅。まあゆったり目ではあるけどね。二人は並んで通れそうにはないね。
「じゃ、オレが先に行くから。ミカは足元に気を付けて」
「は、はい」
ラルクはソーラーランプの電源を入れて、階段を下りて行く。数段降りたところで私を振り返り、手を差し伸べてくれた。
有難くその手を取り、恐る恐る階段を下って行く。
手すりとかあったらいいのになぁ。いや、そんな贅沢は言うまい。ラルクにしがみついとこう。
そんなに地下深くまで潜ることなく、あっさりとB1階に到着。あんまり深くまで潜ると、閉所恐怖症・暗所恐怖症になりそうだ。
ま、そんなこたーどーでもいい。
眼の前には扉。
一応鍵がかけられているみたい。でも、だからってめっちゃ重要な文献が入っているとかそう言う訳ではないらしい。ラルク曰く。
じゃ、何のための鍵だ??
カチャリ。 キィ……
「ほら、開いたぞ」
ラルクが開錠し、扉を開いてくれた。
私がイメージしてたのはごくごく普通の本だったんだけど、ここは製本技術がないのか、総てが巻物だった。
う~。背表紙欲しい……。ちゃんと分類されてるのかなぁ? スタッフゥ~スタッフゥ~!
うわ~~~!! ふっるいギャグ言っちゃったわ!
もちろんスタッフなんているはずもなく、一応分類(『歴史』とか『地理』みたいな?)はされているようで、ラルクの案内で『歴史書』のあたりを探してみることにした。
って、言っても私にゃ読めませんから? ラルクの横でランプを掲げてるだけだけどね☆
しばらくあーじゃないこーじゃないと探していたんだけど、ようやくそれっぽいものを見つけ出した私たち。
真剣な顔で書物を探すラルクの横顔ってば、ちょっと(いやかなり)きりりと凛々しくてカッコイイ。ぶは~。これが私の旦那様なんだなぁ~、としょーもないことを考えながら、その横顔に見入ってたんだけど、
「なんだ?」
不意にラルクがこっちを向いたからびっくりした。
「えっ? あっ、あの~。難しそうな本だなーって思って見てました!」
しどろもどろになって言い訳したわ! まあ、信じたのかそうでないのかはいいとして、ラルクは手に持っている書物を私にも見せながら、
「ふうん。……多分、これだろう」
ラルクがくるくるくる……と広げていく。けどさぁ、いつもにもまして読めないよ。私の異世界語読解レベルは現代語(?)でやっとなんだからさっ☆
「ふ~む。ご期待通り、私には読めませんです。はい」
横から覗き込みながら、私は一応申告しておいた。
「ああ、大丈夫だ」
すぐさま理解を示されても、なんか複雑だわ。
「とりあえず、これを家に持ち帰って読んでみよう。ここじゃ暗くてよく見えないしな」
というラルクの一言で、私たちはその書物を持って、一旦帰宅することにした。
家のダイニングテーブルに書物を広げ、ラルクが読み進んでいく。
ずっと音読してもらうの悪いから、必要な個所にきたら音読してもらうことにした。
黙々と読み進むラルク。隣で手元を覗きこむ私。
……文字がミミズにしか見えねえ。
ミミズが一匹、ミミズが2匹……
……
……
ぐぅ。
「ミカ?」
「はっ!!」
いかん!! 居眠りこいてもた。
「だ、だ、大丈夫です! 隊長!」
慌てたついでにおかしなことを口走ってもたし~! 隊長って誰ね?! 自分でつっこんどきます!
「……」
そんな私を可哀相な目で見ないでね! 旦那様!
「あ、ごめんなさい」
「いや、いい。疲れたのか? これは明日にしてもう寝るか」
ふと私を見遣り、手元を片付けそうな素振りを見せる。
あ、過保護ラルクが顔を出したぞ! このままでは作業が中断されちゃう。
「いやいやいやいや! ちょっと退屈になったていうかなんて言うか、あはっ☆」
「なら……。ここだ」
一瞬疑わしげな視線をよこしたけど、すぐに書物に目を戻し、書いてあるという個所を指差してくれた。でも、何度も言うように、「読めませんから」。
「ああ、そうだな。ここには『新月の夜、地下に潜った時に偶然見つけた』とある」
「……ものっそい抽象的ですね」
抽象的っつーかアバウトっつーか。
「そうだな。この書物は大体500年ほど前のものだ。多分、地下というのは坑道だろう。この村は鉱物資源も豊富だから、昔から鉱物の採掘は盛んだったみたいだしな」
「あ~、そんなこと、こちらに来てすぐお義父様が言ってましたね」
農産物や鉱物資源が豊富で、財政は豊かだとお国自慢してたよね。
「問題はどのあたりか、だな」
「そんなにたくさんあるの? その坑道ってやつは」
「採掘の歴史は古いから、結構あちらこちらに開いてるぞ」
「ふおうっ! ラ○ュタの世界だ!!」
「?」
「いや、ごめんなさい。でっかい独り言です。気にしないで☆」
「……まあいい。大体石が産出する場所っていうのは決まっているから、『月の石』と同じような鉱石の産出場所を鉱山の奴らに聞いてみるか」
「そうですね」
餅は餅屋だ。
水晶ってのは石英だから、大きな結晶は珍しくても存在自体は珍しいものじゃないはず。
石英がよく産出するところを聞いてもらおう。
「……あ、待て。続きがある。そこはそれ以来『神域』という扱いになって、掘り進めることがなかったらしい」
「ほほう! じゃあ、鉱山の方に神域のことを聞けばいいんですね?」
「そう言うことだな。へえ。一般にはあまり知られてなかったな。オレも今初めて知った」
「ラルクでも知らなかったんだ?」
「まあな。そこまで興味もなかったし」
「お義父様は知ってるのかしら?」
「どうだろ?」
何だか知らなさそうに思えるのは、私だけ?
今日もありがとうございました~ (^^)




