お料理
アンちゃんはお料理担当です(^^)
「~♪~~♪」
ふんふんと鼻歌を歌いながらキッチンに立つ私。後ろのカウンターには、異世界のお料理本。時折それを覗きこみながら、手早く調理してゆきます。
最近、お料理が楽しくて仕方がありませんの。
アン 18歳。村の巫女 兼 調理師見習い。
村を突然襲った謎の病魔を退治してもらうべく、異世界からお呼び申し上げた女神様。
村外れ、森の入り口にある神泉から姿を現された女神様は、小さくておかわいらしくてびっくりしてしまいました。
思い描いていた神様というのが、すらりと背が高く、ほのかに微笑んだ、慈悲深いのかそうでないのか判然としない表情(いわゆるアルカイックスマイルというやつか?)、ゆるゆるとした動き、耳にではなく精神に直接語りかけてくる、そういったものだったので、目の前に現れたかわいらしい人が女神様だなんて、ちょっとほっとしたりしていました。だってとっても好感のもてる人だったんですから。
小さいながらもエネルギッシュに、私たちの無理なお願いを聞いてくださり、ご尽力くださったことに、私たち村人はすっかり心酔してしまいましたとも!
得体の知れない流行り病を鎮圧したにもかかわらず、ちっとも威張ったりせず、謙虚な所も惚れてしまいました。私が男ならばすぐさまプロポーズしてますわよ!
もうほんと、この時ほど兄様をうらやましいと思ったことはないですわね。
まあでも、そんな兄様のおかげで(?)、女神様は名実ともに私の『お姉さま』なんですけどね。うれしいですわ。
ああ、こほん。女神様の話からずいぶんと脇にそれてしまいましたわ。
で、その女神様が、ご自分のいらした世界からお取り寄せ(実際に行って持ってきたんだが)してくださったのが、あちらの世界の料理の本。栄養学の本もあります。
文字はまだたくさんは読めませんが、『ひらがな』というものと『カタカナ』というものはかなり読めるようになりました。お姉さまが教えてくださるんですもの、張り切らずにいられますか!
そして、お姉さまはあちらの料理のことも教えて下さりまして、私に『栄養を考えて料理を作る人になってはどうですか?』と勧めてくださいました。
私もそれに異論はございません。
それ以来、料理や栄養に関して、お姉さまに翻訳してもらいながら勉強してまいりました。
「で。最近のアンのお流行はこれ?」
夕飯は、以前からの通り私が作って、兄様とお姉さまと一緒にいただいています。
だって、お姉さまは診療でお忙しいんですもの。私がやらずに誰がやるのです!
新婚さんの邪魔をしないとか、そこ、言わない!
で。今日も張り切って作りましたよ~。
リニュウショク。
「ええ! どうですか? これなら病人の方も食べやすいと思うんです」
「病人……」
あら、お姉さま! お疲れになったのかしら? なんだか引きつってません?
ゴン。
まあ! 大変! テーブルに突っ伏してしまわれましたわ!!
「ミカ、どうした?」
ほら、すぐさま兄様が反応しますよ! 椅子からさっと立ち上がり、お姉さまの元へまわります。
「お姉さま! お疲れになられたんですか?」
私も心配です。お姉さま、働きすぎなのでは?
「……いえ、疲れでも病気でも何でもなくてですねぇ」
兄様に引き起こされながら、涙目でおでこをさすっています。ああ、おでこを盛大にぶつけていらっしゃいましたものね。
「じゃあ、どうしたんだ?」
「アンの料理に……」
「……私の料理に?」
気まずげに頬を赤らめておられますが、私の料理がお気に召さなかったのかしら……!
我知らず青ざめていたのでしょうか。勝手にショックを受ける私に、お姉さまは慌てて、
「違うんです! 離乳食っていうのは、赤ちゃんの食べ物なんですよ!」
……まあ、私ったら!
「あら! そうなんですね!」
「そうです! ちゃんと教えましたよね?」
まだ赤い顔をされているお姉さま。これはこれでおかわいらしいですけどね。
「あ、間違えてしまいました!」
あはっ☆
兄様もなんだかビミョーな表情。
「あら、でももうすぐしたら必要になるじゃないですか! その時のためにも私、いっぱいレパートリー増やしておきますね!!」
そうです! これこそ私の使命ですよ!!
「いや、まだないですから!!」
「ふむ、それは一理ありだな」
「ラルク!!」
ますます顔を赤らめるお姉さまと、ニヤリと笑う兄様。
ふふふ、あながち遠い未来ではなさそうかと。
アンちゃん、こういう人だったのか……(笑)
今日もありがとうございました!




