空白の3日間~嵐は去った…のに
やっとこラストです!
朝、いつもの時間に目が覚める。
ああ、そろそろミカが薬草を摘みに行く時間だ。ミカにも話ができるだろう。
そう思い、身支度を整えて実家を出たところで、
「おはようございます! ラルク様!」
ニッコリと微笑むルゥが待ち構えていた。
……いつからここにいた?! お前、宿屋に泊ってたよな?! 怖ええって。
驚きで足が止まるが、時間がない。ルゥを無視して泉の奥の森を目指す。
ちょうど森の入り口にたどり着く手前でミカとシエルに出会えた。
いつも一人で(今日は二人だけれど)森へは行くなと言ってあったのに……
そもそも自分のせいなのだが、不機嫌になってしまう。いや、今はそれどころじゃなくて。
「ミカ」
声をかけると二人がこちらに振り向いた。しかしミカがすぐに後ろのルゥに気付いたらしく、
「え~と、話しつけるまで帰ってこなくてもいいですから?」
目を伏せ、素早く視線を逸らせながら言う。そのままくるりと背を向け二人で森に入ろうとする。その背中に拒絶を感じるが、このまま話を聞いてもらえないのもオレとしては困る。誤解は解かないと。
「こいつはルゥと言って、あのドリィの妹だ。ただそれだけ……」
そうミカの背中に向かって言うのだが、
「ラルク様、ただそれだけなんてひどいですわぁ~」
横からオレに腕に憑りついた(!)ルゥの甘えた声に邪魔される。くそっ。
ミカの方から冷気が漂ってくるように感じるのはオレだけか……?
「いやほんと、大丈夫ですから。お引き取りください」
またしても冷たい声。こちらを振り向くこともなく放たれる。取り付く島もないということか。そのまま二人ずんずんと森の奥に進んでいく。
ルゥにまとわりつかれながらミカの背中を見送っていると、
『大丈夫だ、心配するな』
シェンロンの声が意識に響いてくる。
『ああ、彼女のことは頼んだ……』
そうシェンロンに応えてから、ルゥを促し、後ろ髪を引かれる思いで引き返すことにした。
「あんな女のどこがよろしんですの? 地味だし、色気もない。どこが女神様なのかしら。女神様っていうからそれはそれは美しい人かと思っていましたのに」
森から帰り昨日と同じく食堂に入ると、ルゥがぶすっとしながら言い募る。
それは、ミカの事か……?
ただでさえ話が通じなくて手に負えなかったというのに、とうとうミカへの暴言か!
さすがにオレも堪忍袋の緒が切れた。
「……ミカのことをどうこう言うのは許さないぞ。ルゥ。彼女の価値など、よそ者のお前には判るまい」
そう。何の関係もないこの世界に召喚されてきて、いきなり村の病気を癒せと言われて、驚きながらも一所懸命できることをやってくれた彼女は、村人みんなが尊敬し、大事にしている。それをいきなり王都から来たルゥに解れというのも無理というものだが、理解しようともしないのには我慢ならなかった。
「っ!……!」
さすがにオレの怒りに気付いたのか、目を見開いたかと思うと、ルゥが唇をかみしめ、黙り込む。
「王都へ帰れ、ルゥ。ここにはお前の居場所なんてない」
冷たく突き放す。
「……」
テーブルの上に置いた手をぎゅっと握り締めて、それを凝視するルゥ。唇を一文字に引き結び、泣くのをこらえているのだろうが、そんなことでオレの気持ちは揺るがない。
しばらく沈黙が続いていた時、食堂の入り口にアンが現れた。
「兄様、ああ、ここにいらしてよかった」
微笑みを浮かべてはいるが、いつもとは違い若干の翳りが見える。気がかりがあるのだろう。
「どうした?」
ルゥを残して席を立ち、アンの元へ行く。
「あのね、兄様……昨日、女神様が……」
そう言って、憂い顔のまま昨夜のミカの様子を伝えてくる。
ミカが泣いていた?
……それは、うぬぼれてもいいのだろうか?
「このまま誤解されているのもよくない」
「女神様は明後日の満月の夜に、あちらへ帰ってしまう決意をされている様なんです。お帰りになってしまうなんて、耐えられません!!」
瞳に涙をいっぱい溜めて別れを嫌がるアン。アンがミカの事を姉のように慕っているのは見ていてわかる。
「どうか兄様、女神様をお引止めして……!」
オレに取りすがり、懇願するアン。
「ああ、オレもそうするつもりだから」
よしよしとアンを宥めて、一旦診療所に帰す。
「さ、ルゥ。送っていくから王都へ帰れ」
再びテーブルのルゥの元に戻り、帰還を促す。しかしルゥはまだ黙って俯いたまま身じろぎもしない。
無理やり連れだすのも大人気ないかと思案していると、
「ルゥ! 帰るぞ~」
何とも気の抜けた声が入り口から聞こえてきた。
こんな時にも無駄に爽やかさを纏ったドリイだった。
「お前さぁ、こんなヤツ追っかけたって無駄だよ?」
ドリイは食堂に入ってきて、お茶を注文するとドカッと椅子に座りながら妹の方に開口一番言う。いつもの通り爽やかな嘘くさい笑顔。家族・同僚は騙されないが。
「どうして? 私、あの人になら負けてません!!」
仏頂面をして兄に食いつくルゥ。何を根拠にミカに負けないと言ってるんだ? その過剰な自信に呆れてものも言えないオレ。
「ルゥ、こいつと彼女が一緒にいるのを見たことねーからだよ」
ニヤニヤしながらこっちを見るドリイ。ん? 王城でのことか? エスコートはしたが、別に普通だったとは思うけれど……?
「見たくもありませんけどね」
半眼になり、反抗的に言い放つルゥ。
ドリイが何を言い出すのか見当もつかず、怪訝な顔になるオレ。
「だってなぁ、このラルクがだぞ、わざわざ自分から腕組むために腕を差し出したんだぞ!」
「まあ!!」
半眼でブスッとした顔だったのが、あまりの驚きからか目を見張ったルゥ。
「だけじゃないぞ。陛下に謁見するのに不安になってる彼女を宥めたんだぞ!」
「うそ!!」
……いや、普通宥めるだろ。緊張している人間を放置するほどオレは鬼畜じゃないぞ。コイツらの中でオレはどんだけ冷たい人間だと思われてるんだ??
まだネタはあるんだぞとばかりにドリイは続ける。
「街中では彼女の視線を追って、欲しいものを先に買ってやろうとするんだぞ? それにだな、他の男に見とれたら不機嫌ブリザード吹きまくりなんだぞ!」
「そんな~!!」
ルゥはもはや両頬を手で押さえて驚愕している。
……待て。なんでそんなこと知ってる?
「おい、ドリイ。なんでそこまで知ってる?」
頬を上気させて、王都でのオレたちの(いや、むしろオレの)行動を力説するドリイをじと目で睨みつける。
「あ? 尾行した!! こんな面白いモン見逃せるかってな。他にもムトゥとムズカもいたぞ! 証人はバッチリだ! お前の溺愛っぷりはみんなで証言してやるぞ!」
バチン、とウインクしてよこすドリイに頭が痛くなった。お前らどんだけ暇なんだ!!
ミカが聞いたら真っ赤になってしまうんだろうな……
先程から感嘆詞しか発していなかったルゥが、
「……もういいです。わかりました。諦めます。」
先程の勢いはどこへやら、しゅんとしおらしくなる。
「だろ? お前の入り込む隙なんてないんだ。さ、帰ろう」
立ち上がり、ルゥに手を差し伸べるドリイ。その手を取りながらもしかしルゥは、
「じゃあ、最後に王都まで送ってもらえませんか。それできれいさっぱり諦めますから」
オレの目を見て言う。それくらいなら聞いてもいいだろう。
「……ああ、わかった」
オレは甘かった。
あまり早く馬を飛ばせないルゥに付き合ってゆっくりと王都へ向かっていると、すっかり日暮れ近くになってしまった。
王都に入ったあたりで、騎士宿舎に帰る途中の、例の尾行同僚の残りムズカとムトゥに遭遇した。
「久しぶりじゃねーか! ラルク!!」
「会いたかったよ~!」
満面の笑みを浮かべる元同僚二人も、ルゥ宅への道程に加わる。いやな笑顔だ。まったく。
ルゥの家に着くと、
「せっかく来たんだし、夕飯食べてけよ~」
とかドリイがぬかしやがって、そのままなだれ込む羽目になった。一刻も早くミカの元に帰りたいのに、こいつら、絶対わざとだ。
不機嫌になるオレにお構いなしに、3人はぐいぐいと家の中にオレを引き込んでいった。
容赦なくミカの話になる → 不機嫌になる → 不機嫌を酒でごまかす → 飲みすぎる → 潰れる
きれいにこの図式に則ってしまったオレはすっかり潰れてしまった。滅多に潰れることなどなかったオレが。
目を覚ますと、なんと次の日の昼下がり。驚きすぎて声も出なかった。確かにかなり遅くまで飲んでいたのは覚えているが、ここまで眠り込んでしまうとは……!!
周りを見るとまだ潰れたままのドリイたちが転がっている。お前ら、非番か? いや、こいつらのことはどうでもいい。今から村へ飛ばして、夜の儀式に間に合うのか? 今の時期はもう日暮れが早い。ヤバい、間に合わなかったらミカに何も言えないまま……!
慌てて身繕いし、ドリイを叩き起こし、まだ寝ぼけ眼のドリイに「帰る!」と一言言い残して表に飛び出る。繋いであった馬に飛び乗り帰路を急ごうとした時、
「ラルク様! お気をつけて!!」
後ろからルゥの声。一瞬振り返り、
「ああ」
一言だけ発してすぐさま馬を駆る。
間に合ってくれ。
村の中は閑散としている。
そのまま泉へ向かう。
ああ、人だかりができている……間に合うか?
馬から飛び降り、泉のほとりに向かうがすでにミカは入水のために地を蹴ったところ。
「ミカ!! 行くな!!」
そして冒頭の言葉になりました。
ペース配分がいまいちで長くなったり短くなったりごめんなさい m( _ _ )m
最後は酒のせいでした(^^;)
酒は飲んでも飲まれるなデス!←私に言われたくないセリフ(笑)
お付き合いありがとうございました!
次もがんばります(^^)




