空白の3日間~暴風域突入
王都に送っていくにも、まったく話の通じないルゥ。とにかくこいつを説得するしか先に進めないオレは、道端などでは目立って仕方がないので村の食堂にルゥを連れて行った。今の時間ならば食事の時間を外れているので人目を気にせずに話もできるだろうから。
お茶を注文して、向かいあって席に着く。
「まあ、かわいらしいお店ですこと!」
ニコニコと珍しげに店を見渡しているが、オレの渋面にはお構いなし。
「なあ、ルゥ。何度も言うようだが、お前のことは妹にしか見ていない。だからさっさと王都へ帰れ。ドリィだって心配してるだろう」
ルゥをしっかりと見据えて言ったのだが、ルゥは、
「兄さんにはちゃんと言ってきましたのよ? だからご心配いりませんわ!」
ときた。
異常に会話が成り立たない。
前からこんな感じだっただろうか?
「そういうことではなくてだな。どうしてここまで来た?」
何か本心は違うところにあるのかと思い、またきちんとルゥの目を見て質問する。
するとルゥはオレの目をまっすぐに見つめ返しながら、
「ただただラルク様にお会いしたかっただけですわ。それに、ラルク様に恋人ができたなど、この目で確かめなければ納得もできませんし、ふさわしいかも見極めたいですからね?」
は? 恋人? まさかミカの事か?
「恋人?」
思わず気の抜けた声になる。ミカは恋人とは呼べないだろう。実際そんな関係でもないし。
「ええ。ラルク様に『恋人が出来た』って、王都では噂が持ちきりですわ」
王都で? なんでオレごときが噂になる?
オレの怪訝な表情を見て、ルゥが微笑む。
「ラルク様、王都でのご自分の人気をご存じないですものね? ラルク様をお慕いしている娘など掃いて捨てるほどおりますのに」
気にしたこともなかったし、今初めて聞いたぞ。
「そんなこと初めて聞いた。いや、どうでもいいことだが」
「だって、みんな私がラルク様の恋人だと思ってましたからね」
そう言いふらしてましたもの~、と不敵に笑うルゥ。勝手なことを……! 女って、怖ええ。
「……それよりも。なぜオレに恋人ができたことになってる?」
「ええ。騎士様を辞めて村に帰られたと思っていましたのに、急に王都に現れたかと思えば知らない女連れ。しかも親しく腕など組んで歩いていたなどと聞きました。まさか、ラルク様がそんなことするはずもございませんよね?」
「……」
確かにしていた。間違いない。思わず目が泳ぐ。
「それをたくさんのものが目撃しておりましたから、たちまち噂になったのです」
「……」
先程から無言になってしまったオレ。
「私は、王都に置いていかれた時点で『別れた』ということになってしまっていたようですから、悔しくて……!!」
「……別れるも何も、付き合ってもいないものがどうしてそうなる?」
「みんなの中では『ラルク様はルゥのもの!!』だったのです!!」
グッと身を乗り出してきたルゥ。目に力を込めてオレを見つめてくるが、ものすごい勝手な理論に驚き呆れる。
「それは勝手すぎるというものだろう?」
「いいえ、いいんです!!」
よくねぇ。
「そんな噂を払拭すべくルゥがここまで参りました! おかしな女にたぶらかされてはいけませんよ?」
それまでの勢いはどこへやら、また勝手なことを言いだしニッコリとオレに笑いかけるルゥ。おかしな女って、ミカの事か? ありえねぇ。
こいつがミカの事をどこまで知っているかもわからないし、どうするつもりなのかもわからない。
「どうするつもりだ?」
自然、声が低くなる。
「ラルク様の恋人が誰か、ちゃんとわからせてあげるだけですわ!」
ニコニコしたまま言い切るルゥ。
もはや頭が痛くなってきた。
どうやって説得というか納得させたらいいんだよ? テーブルに突っ伏さなかっただけ褒めてほしい。
「さあ、ラルク様? 村を見て回りたいですわ!」
そう言って店の外に連れ出される。
支払いの時、店の主に、
「女神様はいいのかい?」
と、こっそり耳打ちされた。
ここの店はオレの幼馴染の親がやっている。小さい頃からオレのことを知っている親父さんには、オレの気持ちなんてバレバレなんだろう。いや多分、村のみんなにもだ。
「よくはない、な」
また渋面で応えるオレ。そんなオレをニヤリと見て親父さんは、
「まあ、がんばりな」
と一言応援してくれた。
ルゥの気の向くままに村を案内させられたオレ。
気が付けばとっくに日が暮れる時間。今日の説得はさすがに諦めた。
「今日はラルク様の家に……」
「宿を取ろう」
言いかけるルゥの言葉にかぶせるオレ。
今のオレの家は、ミカの居る診療所。そんなところにこいつを連れて行くわけにいかない。ましてや実家にも。
すぐさま村の中の宿屋に向かう。
宿屋はさっきの食堂に隣接している。もちろん例の親父さんが経営しているのだ。
今は閑散期で、部屋も空いていた。
そこにルゥを押しこめると、今日は実家へと帰る。
さすがにミカの元へは帰れなかった。
今日もありがとうございました(^^)




