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泉の女神  作者: 徒然花
番外編
41/79

空白の3日間~嵐が来る

嵐、乱入です。

ミカに質問をぶつけるタイミングを逃して、そのまま午前の診療時間。


オレはダイニングのテーブルに座り、古文書を読んでいた。一応神官見習いの身、色々と文献を読んで勉強することも必要。しかし、ミカの身を守ることが今の最大の使命だと思っている。文献は読んでいるが、気配には気を付けていた。




今日も村人が何人か診察に来ていた。

それをシエルと共にてきぱきと診察していくミカ。

休憩がてら目を上げて様子を伺うが、いつもと同じ光景だな、と思いまた本に目を落とした時だった。


「次の方どうぞ~」

と、シエルが待合に声をかけた途端に、入り口扉が勢いよくあけられた。


バーーーン!!


大きく開かれた扉のところに佇むのは……女? 室内からは逆光になっていてよく見えないが、シルエットからそうとうかがえる。しかし闖入者には変わりないので、そっと腰に帯びている剣に手を伸ばす。ここに乱入してくるということはミカが目当てであるという確率が高い。目の端で彼女の位置は確認済み。後はこの闖入者がどう動くか、だ。

ここにいるみんなが、驚きのあまりじっと動けないでいた。

すると闖入者はそんな空気を感じているのいないのか、ずかずかと室内に入ってくるとぐるりと周りを見回した。

そして、オレのところでぴたりと視線が止まる。

そこでやっと顔を見ることができたのだが、


「ラルク様!! お久しぶりです!!」


闖入者が先に声を上げた。

オレを見つけると嬉しそうに破顔して駆け寄ってきた。


「ルゥ!」


彼女はルゥといって、王都で一緒に騎士をしていたドリィの妹だった。小さいころから懐かれていたのだが、ここまで押しかけられるとは思ってもみなかった。


周りの空気が冷たく感じる。


ふとミカを見ると、シエルとくっついてこちらをじっと見ている。驚きというよりも完全に他人を見る目。シエルはこちらを睨んでいる。周りも同様の視線を感じる。……オレには痛いのだが、ルゥはどこ吹く風。全く感じている様子がない。

「王都にいらしてたと兄から聞きました! なのに会いに来て下さらないなんてぇ~。会いに来て下さらないから、私から来てしまいましたわぁ」

甘ったるい声でまとわりついてくる。正直鬱陶しい。が、小さいころから知っている友人の妹ということもあって邪険には扱えなかった。

しかし、さすがに周りの空気がおかしくなってきた。やばい。これは一旦連れ出さないと。

そう思った時だった。


「あの。ここは診療所で、病人怪我人が来るところなんです。出て行ってもらえませんか」


ミカの冷たい声。

普段は温厚な彼女が、さすがに怒っている。

まずい、この状況、このルゥの発言。


「ミカ、これは違うんだ」

思わず焦った声になる。ただのドリィの妹なんだ……!


「いえ、違うでも何でもいいですから、とにかくお引き取りください。ラルクさんは説得なりなんなりしてください。みなさんが困ってますから」


ピシリと言い切る彼女の声。

こんな冷たい声を聞いたことなかった。それだけ彼女は怒っているということか……

ミカはそう言うと、いつの間にかオレたちの後ろに回っていて、オレとルゥを診療所から追い出すために背中を押して促す。

「ミカ! 聞いてくれ!」

背中を押すミカに顔を向けて懇願するが、

「ハイハイ、また後で。とりあえず話しつけてきてください」

無表情でそう言って、取り付く島もない。オレは諦めて一旦引き下がることにした。今は何を言っても聞いてはもらえないだろう。現に目も合わせてもらえなかったのだから……




ミカに診療所を追い出された。

地味にショックを受ける。

オレがいない間誰が彼女を守るんだ? 彼女に何かあったらどうするんだ?

そう思うとこの状況を生み出した自分に苛立ちを感じる。早くこの情況を何とかしてミカの元に戻らねば。


外に出て、村に向かって歩きながらルゥに問う。

「ルゥ。何しに来た」

苛立ちから、自然と冷たい声色になる。

「だってぇ、ルゥはラルク様のお嫁さんになるって言ってるじゃないですか。いつまでも会いに来て下さらないから、もうこちらに来るしかないと思ってやってまいりましたの!」

そんなオレの気持ちなどお構いなしなルゥは、にこにこと妄想を口走る。


ドリィとオレは同い年で27歳。ルゥは少し離れていて20歳になったばかり。オレが王都で騎士になったのが16歳の時だから、まだほんの子供の頃からルゥのことを知っているが、その頃から『ラルク様のお嫁さんになる!』と言っていた。『妹にしか見てないから』とはっきり言い、相手にしていないにも関わらず、ルゥはしつこくまとわりついてきていた。それ以上拒絶しなかったオレも悪いのだが、いかんせん、ドリィ兄妹は思い込みが激しい。すっかり勝手にオレの嫁になると思い込んでしまっている。

こっちの話を聞いちゃいない。

王都を去る時にしっかりと話をつけておかねばならなかったな、と今頃後悔する。


「お前ね、何度『妹』にしか見えないって言った? それ以上として見ることなんてないんだから」

はっきりとルゥに告げるが、

「まあ、ラルク様ったらまだそんなことをおっしゃってるんですか? もうルゥはすっかり大人なんですのよ? もう待っていただく必要もございませんの!」

まぁ! と大袈裟に驚いてからにっこりと笑うルゥ。




……待ってないし、待ったこともない。なんだ、この会話の行き違いは!!


今日もありがとうございました(^^)

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