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先頭にいたオッチャンは、この村の村長さんで、神官さんでもあるらしい。
話をするにあたって椅子を勧められたが、みなさん莚の上で正座しているのに私だけが椅子にふんぞり返るわけにいかない。
折衷策で、椅子の上に正座しながら話を聞いた。
煌々と満月の輝く中、いくつか焚かれた篝火の元、
「最近、原因不明の病が流行り出しまして、なす術もなく困っておりました。」
静かに村長さんが切り出した。
「高熱が続き、重くなると死に至ることもあるのです。」
「はぁ。」
それだけじゃよくわからないから、私は生返事になってしまう。
「体力のない老人や子供から、被害が拡大してゆきました。」
悲痛な面持ちの村長さん。
まあ、病気ってもんはそんなもんだね。なんかのウィルスかしら?
「その病は非常に感染力が強く、若者も相次いで病に倒れて行っているのが現状でございます。幸い、若者は体力があるゆえ、重篤にならずに済むものも多いのですが、病の間働き手が少なくなるのも困った問題でございまして。」
「お医者様や薬屋さんはいないのですか?」
神頼みじゃなくて、医者頼みする問題と違いますかー?
「もちろん、診てもらってはいるのですが一向に良くなる気配もないのです。」
ああ、ヤブなんですね。
「で、神頼みってことになったんですね?」
「そういうことでございます。」
村長さんは困った顔で私を見た。
「私、神様でも何でもないので、もうちょっと詳しく病状を聞かせてもらわないと何とも言えないんですけど・・・」
神様だったら説明もなしでさっさと理解しちゃうと思うんですが。
悲しいかな、私ってば普通の人間だし?特殊な能力が身に付いた風でもないし。そんなんで解りっこないんですけど。
とりあえず、私の知識で何とかなるんだったら力を貸すのもやぶさかではない。
「わたくしめの説明が至りませんで、申し訳ございません!罹ったものをこちらに呼びますので、その者の話をお聞きください。」
慌てて村長さんはそう言うと、後ろを振り返り「ミュウ。話を聞かせて差し上げなさい。」と、さっきの双子美少女と同年代だろう女の子を呼んだ。
日によく焼けて健康そうに見えていたミュウと呼ばれた少女は、近くで見ると遠目の印象とは違って少しやつれたように見えた。まだ完治してから間もないのかもしれない。
「最初はすごく寒気がしたんです。」
ミュウが話し始めた。
「そしたらすぐに熱が上がり、身体の節々や筋肉が軋むように痛み始めました。もうその頃には意識は朦朧としてきていました。喉も腫れて痛く、高熱による頭痛で食べ物も受け付けません。幸い、私は母が熱の時に受け入れやすいと言って、水にレモンと蜂蜜に少し塩を入れた飲み物を作ってくれたので、それで喉の渇きや体の渇きを潤すことができました。」
それ、お手製スポーツドリンクじゃん。高熱の時は基本だよね。おかーさん、エライっ!
「その飲み物から少しは栄養が摂れたのでしょうか、少しずつですが回復していきました。結局、1週間ほど熱に苦しみました。発症から完治するまで、2週間ほどかかりました。」
それって・・・
「・・・インフルエンザじゃん。」
ミュウの話はどんぴしゃインフルエンザの症状だ。
現代で、医療従事者じゃなくても誰でも知ってる、病気の基本知識みたいな?
『謎の流行り病』って言うくらいだから、ここでは未知の病気なのね。
インフルエンザなら、なんとかなるかなぁ?
ワクチンとか、タミ○ル、リ○ンザとかいう特効薬は、ここにはないかもしれないけど。
そもそも、ここがどんな文明かもわかってないんだけどねっ!
生活水準も文明の水準もまるっとワカラナイ。
う~ん、現場を見るしかないか。
でも丸腰でウィルスむんむんのところには行けないし、行きたくない。
空気浄化にいいハーブとか、マスクとか、消毒効果のある薬草とか、そんなので武装したいなぁ。
「えーと、薬草とかが自生しているところってあります?」
こちらの武器(?)を調達しなくては。
薬師もいるっていうんだから、薬草はあるはず。
私は村長さんに向かって聞いてみた。
「はい、もちろんございます。この泉の裏の森は薬草の宝庫と言われております。しかし、今は夜なので入るには危険すぎます。」
当たり前だ。夜の森なんて、オバケ出たらどーすんの?!オバケコワイ。
「そうですね。野獣なんかもいるでしょうし?」
「野ドラゴンや魔獣などは主に夜活動しますので。」
・・・『野』ドラゴンですか・・・。野獣ではなく魔獣ですか・・・。ねえ、ドラゴンに野生も家畜もあるんでしょうか??ああ、想像レベルをはるかに超えて行ったわ・・・。しかも、村長さん、事もなげに言ってるし・・・。
「明日の朝、案内していただけますか?」
「かしこまりました。ありがとうございます!助けていただけるのですね!!」
また村長さんがウルウルお目目になった。だーかーらー、いい歳したオッチャンがウルウルしても気持ち悪いんだって。
「えーと、何度も言うようですが私は神様でも何でもないので『ちちんぷいぷいっ』って治せるわけじゃないですよ?薬草でお力になれるかやってみます。それに必ずしも効くとは限りませんよ?」
とりあえず、出来ないかもしれないってことは最初に言っとこう。
こんなはずじゃなかったとか言われても困るしー。保険はかけとくべし!
「いえ、女神様の辞書に『出来ない』という文字はございませんから!大丈夫です!心を強くお持ちください!」
・・・保険になってねえ。
「村は今、あまりいい状態ではございませんので、このすぐ近くに『泉の神殿』がございます。今宵はそちらでお休みください。」
という村長さんたちに連れてこられたのは、まさしく神殿。
これ、パルテノン神殿?どこに部屋あんの?柱しかなくて、壁がないんですけど・・・?
ちょっとボーゼンとする私。
これじゃあ休めませんがな。
そう思っていると、さっきの双子美少女が衝立のようなものを運んできて、四方を囲みだした。畳で言うと3畳分くらいのスペースが囲われた。
その中にマットレスみたいな物や寝具なども運ばれてきて、あれよあれよという間に簡易宿泊場所ができたのだった!
「おおっ!これなら寝られますね!」
こんなことにも感動できるくらい、私は疲れていた。
「今宵はこれくらいしかご用意できませんが、ごゆるりとお休みください。私たちも隣の囲いにおりますので、なんなりとご用があれば申し付け下さいませ。」
双子美少女が言った。
双子美少女は『アン』と『シエル』といって、村長さんの娘さんで18歳。そして巫女さんでもあった。ちなみにあまりにそっくりなので「どうやって見分けてるの?」って聞いたら「笑った時に、向かって右の頬にえくぼができるのがアン、左にできるのがシエル」という回答が返ってきた。・・・わかりにくい。
「じゃあ、おやすみなさい。」
とりあえず、寝ることにした。
明日は明日の風が吹く、だ。




