空白の3日間~嵐の前の……
本編とえらいテンションの差が出てしまいました(^^;)
「ミカ! 行くな!!」
入水するために飛んだミカに手を伸ばしたが、彼女に触れることは叶わなかった。
水面に消える前にオレを認めたようだけれど、彼女の表情からは何も読み取れなかった。
ただ驚いたような表情。
ああ、オレは間に合わなかったのか……
ミカがこの頃たくさんのことを一時にこなそうとしているのはわかっていた。
アンやシエルを始め、村人たちにも自分の持ちうる知識を伝授している。余すところなく伝えようとしているのだが、焦っているようにも見えた。
こちらに召喚されてからこれまで、むしろこちらの人間、もちろんオレも含む、に流されてきたミカ。自分の意志よりも村人の意志を尊重してくれていたミカが、自分の意志をしっかり持って行動しているようだ。
知識を伝授するだけではない。彼女の居た世界から持ち込んできた薬草の本。それを一所懸命翻訳する。
昼間、診療所で目一杯診察した後、漢方講座をしたりアロマ講習をしたり、動き回った後にとどめの翻訳。疲れないわけがない。前のように疲労で倒れたりしないか心配になる。
こちらが止めないと無理をすることが分かっているから。
自分のことよりも周りのことを優先する、自分のできることを精一杯やろうとするミカに感謝の念を超えて愛しさを感じたのは、かなり最初の頃からだ。
そんなに無理してまで周りの期待に応えることはないのに、とオレは思う。が、彼女はそうは思わないのだろう。ミカがセーブできないのなら、オレがしてやればいい。そう考えて、彼女に負担がかからないように守ってきたつもりだけれど、ミカはどう思っていただろう?
今日も翻訳中にぼんやりとしている。そろそろ限界か?
「ミカ?」
名前を呼んでもぼんやりしている。
「ミカ? どうした?」
もう一度名前を呼んだ時、やっと目の焦点が合ったようだった。
「ふわっ!! ぼ、ぼーっとしてました!!」
焦った様子で、みるみるうちに顔が赤くなっていく。一瞬のうちにころころよく変わる豊かな表情。それも見ていて飽きない。ミカの可愛いところだと思う。無表情と言われるオレとは対照的。
そんなミカに自分の表情筋が緩むのがわかったが、それよりもミカが疲れてきているのではないかという心配が先立つ。
「最近疲れがたまってるだろう。頑張りすぎだ。……何をそんなに焦ってる?」
そろそろ作業を切り上げて休もうか、と言おうと思った時。
「ええ。そろそろちゃんと帰る準備をしなくちゃと思ったら焦ってきて。ほら、満月まであと3日じゃないですか。もう泉に飛び込むにも限界の冷たさだと思うし……」
平然と言ってのけるミカ。
その平然さにショックを受けた。
こちらになんの未練もないのか。こんなにも多くの人間に必要とされているのに。
ああ、そう言えば「ここは自分の居場所ではない」と言っていたな。……そうだよな。ここに自分の居場所を感じてくれていないのなら、当たり前か……。
眼を閉じて、ふぅ、とひとつ深呼吸をして自分の気持ちを落ち着かせてから、次の言葉を紡ぐ。
「帰るって、向こうにずっとっていうことか……?」
それから眼を開けて、ミカの様子を観察する。
さも当たり前のように、小首を傾げて不思議そうな顔をしている。そして、
「はい。まあ、そのつもりです。だから頑張ってるんですよ。これ、終わらなさそうだけど……できるだけ頑張りますね」
微笑みながらそう言うと、また本に視線を落とした。
向こうの世界から持ち込こまれたランプの光に照らし出されるミカの顔。同い年には見えないあどけなさを残している。影ができるくらいに長い睫。時折瞬きをしながら、それでも真剣に本を読んでいく。読まれた言葉をこちらの文字でオレが紙に書いてゆく。
ミカが向こうに帰ることにこんなにもショックを受けている自分を悟られたくなくて、無言になってしまう。
疲れているだろうから作業を切り上げるはずだったのが、なぜかそのまま没頭してしまった。
ラルク。ふたを開ければ美華ちゃん病でした ∑( ̄□ ̄|||)
……ごめんなさい(笑)
またよろしくお願いします!




