めでたし めでたし
最終話です!!
ラルクにぎゅううって抱きしめてもらっていたら、
パアアアアン……!!
という音が外から聞こえてきた。
「なに?!」「なんだ?!」
お互い「?」な顔を見合わせてから、ドアの方を見遣ると。
バァァァン!! ドザザァーッ!!
玄関扉がいきなり開き、「きゃー!」とか「うわー!」とか「押すなっ!」とかいう声とともに村長さん、アン、シエル、そして村人さんたちがそこから雪崩れこんできた。
唖然となる私とラルク。
あんたたち、さっき帰って行ったんじゃなかったの?! 驚きのあまりまたラルクにしがみ付いてしまったじゃない。
「……何やってるんですか?」
地を這う声でラルクがみんなに問う。うわ、ブリザードでたよ! 久しぶりに見たよ?
「や、ま、まあ、ラルク! これにはいろいろ訳があってな。――あ、そうじゃ! そうじゃった!! さっき石が割れたんじゃよ!!」
ラルクのブリザードに凍死寸前だった村長さんが慌てて月の石を私たちに見せた。
村長さんの手のひらの上に広げられたシルクの包み布の上で欠片になっている『月の石』。元は村長さんのこぶし大の石だったものが、大きな欠片や小さな欠片、大きさはまちまちだが、きれいに割れていることには変わりない。
「えっ?」
静かにラルクの腕をほどき抜け出すと、村長さんの元へと歩み寄り欠片を確認する私。
欠片の一つをつまみ取る。
「月の石……割れちゃった……」
目の高さまでつまみ上げ、呆然とその欠片を見つめる私。
これでリアルワールドと私を繋ぐものがなくなっちゃったんだ……
…
……
……??
……あれ? なんかすっきりしたかも?
退路が断たれた方が未練なくていいもんね? うん、さっぱりしたよ。これで完全に腹がくくれたっていうか。
「ふふふ」
呆然と欠片を見つめていたはずの私が不意に笑ったのに驚いたのだろう、ラルクが、
「ミカ? ……大丈夫か?」
と、心配そうに尋ねてきた。いや、ショックでトチ狂ったとかちゃいますよ。ええ、全然。
「全然大丈夫ですよ。いやね、吹っ切れただけです」
ニッコリと微笑む私にほっとするラルク。
「そうか」
「女神様が『……私も、このひと月ラルクさんを思い出さない日はありませんでした。ルゥさんと仲良くしてるのかなって思うだけで心が痛くなりました。……向こうが上手くいかないからではなく、私を必要としてくれるこちらの世界を、前向きにこちらを選んでもいいですか? こちらでやり残したこともあります。ここで、また頑張ってもいいですか?』とおっしゃった時に最後の亀裂が入り、先程とうとう割れてしまったのでございます!!」
得意満面になって割れた時の状況を説明する村長さん。
……おい、オヤジ。何故そのセリフを一言一句正確に再現できる?! 今ので立ち聞きバレバレですな。
「父さん……?」
ほら、ラルクのブリザードが一段と激しくなりましたよ? 私、知ーらなーいっと。
「あわわわわ……!! わっわしは、ほら、なんか心配でなぁ!! あはははは!!」
おっさんが笑って誤魔化しても効かねえっつーの。
だけど。
「ああもう、女神様ではなくて『お義姉さま』ってお呼びしていいですかぁ?」
「きゃー! 私も私も!! こんな無愛想な兄様よりも優しい姉が欲しかったんですもの!」
「「ねー!!」」
最後の『ねー』を、お互いの顔を見合わせ見事にハモらせて、きゃっきゃとはしゃぐアンとシエルには負けました☆
貴女たちに免じて立ち聞きはなかったことにしてあげるぅ!! 姉しかいなかった私には永遠に手に入れられない称号『お姉さま』!! しかもこんな美少女ツインズからきゅんっきゅんの超絶スマイルをもらいながらその憧れの称号を呼んでもらえるなんて、私、もう、しあわせぇぇぇぇ!!
……いや、まて。冷静になれ私。『義姉』ってさぁ……
「ちょっと、あの、気が早すぎるかと思われるのですが? 冷静になりませんか。アンさん、シエルさん?」
こっちにいるとは言いましたよ? ラルクを選ぶとは言いましたよ? でも『義姉』になるような法的契約を結ぶようなことはまだ何も言ってないのですが……?
ああ、焦ってきた。外堀ガンガン埋め立てられてます!!
そんな私の焦りなんてお構いなしなツインズは、
「いやですわ! アンとお呼びくださいませ!」
「そうです! シエルですわ!」
「「お義姉さま(はーと)!!」」
もう、どうでもいいです。アンとシエルに乾杯☆いや、完敗か。 河童の川流れ(だから違うて)決定。こんな怒涛の濁流に勝てる強さなんて、私持ち合わせてないったら。
すっかりアンとシエルの可愛さに持って行かれた感のある私とラルク。
大騒ぎする村長さん以下村人たちを苦笑交じりで見ていたのだけれど、
「ミカは、いいのか?」
ラルクが私に視線を戻して聞いてくる。
「ラルクさんこそ、いいんですか?」
私もラルクを見上げて聞く。
「もちろんだ。ああそうだ。オレのこともラルクと呼べ」
微笑みながら言ってるけど、それ、命令形ですよ? 普通「呼んでくれないか?」とかじゃね? って、ラルクらしいけど。そう思うと、プッと吹きだしてしまった。
「わかりました。なんだかアンさんとシエルさんに『お義姉さま』って呼んでほしいがために結婚するみたいで申し訳ないんですが」
えへへ、と笑って誤魔化す私。
「まあ、オレはそうじゃないと判っているから」
ラピスの瞳を細めて笑うラルク。
「なら、いいです」
肩を抱き寄せてくれるラルクに寄り添う私。そしてお祭り騒ぎをする村人たちを『ちょっと前にもこんな光景見たな』と思いながら見ているのだった。
それから。
「お義姉さまに教えてもらった料理をこちらの食材で応用して作った料理なんですよ! ぜひ食べて感想聞かせて欲しかったんです!!」
アンが嬉しそうに料理を並べる。
「うわぁ! 美味しそうです!!」
私がいない間に考えたものらしい。新鮮で美味しそうな魚に、こちらのトマト(のようなもの)を使ったソースがかけられてある。見た目も鮮やかで、にんにく(のようなもの)の食欲をそそる香りもたまらない。見ているだけでもよだれ出てきたわ。
「お義姉さま! 他人行儀な話し方はやめてください! 悲しくなります」
ピシリと叱られる。
「はい。ごめんなさい。で、いただきます?」
「はい、召し上がれ! 他にもレパートリー増やしてるんですよ! それもぜひご賞味くださいな」
シエルはまた王都に修行に旅立った。
「月に一度は帰ってきますから!」
私の手を握り締めて言うシエル。ウルウルしてるところがなんてかわゆいの!! 思わずむぎゅーってハグしちゃうじゃない!
「待ってるから、頑張って来てね? 私もそっちに行くから」
むぎゅーっとしてるとラルクに引き剥がされた。ちっ。
今回はシェンロンとラルクと一緒に王都まで送って行った。魔女様に永住することも伝えないとね。
「シェンロン、ただ今」
シェンロンの首にしがみつき、帰還の挨拶をする。
『ああ。おかえり。また一緒に過ごせるのか』
柔らかい声が意識に響く。安心する声。
「はい、そうみたいです」
『また楽しくなるの』
「そう言ってもらえればうれしいです。で、早速ですが、王都まで送ってください」
『……早速ドラゴン使いが荒いの……』
あれ? じと目になってる? 気にしない。
「あ、スピードは控え目でお願いしますね?」
ニッコリシェンロンの瞳を覗き込みながらお願いしてみた。
『要求も多いの……』
「明日から、また診療所を再開しないといけませんね」
少し落ち着きを取り戻した、帰還後3日目。リビングで寛ぎのティータイム。今日はアンが美味しい紅茶を淹れてくれた。手作りクッキーなんかもある(もちろん私が伝授した)。
「もう再開するのか?」
お茶を飲んでいたラルクが反応する。
「はい。働かざる者食うべからずですよ!」
拳を握り力説する私。
「働かざる者……?」
ラルクが首を傾げる。おっと、これもリアルワールドのことわざでしたねっ☆
「まあ、そのままの意味です。私が皆さんの役に立てることってこれだけですしね。ひと月放り出してたから、またがんばらないと。ほら、本の翻訳も未完のままですしね」
それに、月の雫がなくてもちゃんと日常会話と読み書きはできるように学ばないとね。
「そうか。でもほどほどにするんだぞ?」
「はい! あ、また薬草摘み、手伝ってくださいね?」
「もちろんだ」
もはや『女神様』ではなく『ラルクの嫁』と認識が変わってしまった私。『神様』からちゃんと『人間』に降格(?)したんだからよしとするか。
ああ、また明日から忙しくなるぞ。がんばれ、私!
これにて本編は完結です!!
最後までお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!
読んでくださる皆様がいたからこそ書けたものです。
感想をいただいた方々にも感謝しています。反省や学習は自分なりにしたのですが、いかんせん、反映されているかどうか……。でも、今回戴いた貴重なご意見はしっかりと頭に刻んでおきます。
あと少し、番外編を書く予定ですので、興味があればお付き合いくださいませ
(^^)




