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泉の女神  作者: 徒然花
本編
37/79

決断の時

時が止まったかのように私を抱きしめるラルクに、

「兄様!! 早く御湯に!!」

きびきびと叫ぶ声。あ、これはシエルか。

「ああ」

そう応えると、おもむろに私を抱き上げて家に急ぐラルク。

ラルクだって濡れてるのに。家へと急ぐラルクの表情に、何も言えない私。


あれ? そういえばなんで皆さんの言葉が解ってんの、私??


ふと胸元を見ると、月の雫が煌めいている。うぉっ?! 気絶してる間に装着された?




「兄様! 早く!」

アンの声がする。

家に入り、そのまま勢いよくお湯の中に入れられた私(もちろん服ごとですよー)。あたたかいお湯に体がほぐれてゆく。

「ほうっ……」

やっと人心地がついた。でものんびり浸かっているわけにもいかない。ラルクもかなり冷えているはず。程よく温まったところで手早く体を拭い、ラルクと交代する。


リビングへ行くと、アンとシエルと村長さんがいた。

「女神様ぁ!!」

素早く立ち上がったシエルが美しい顔をくしゃくしゃにして抱き付いてくる。ふわぁぁぁぁ、かわゆいっ!! って、シエル? ちょいまて。あなた魔女様のところへ行ったんじゃなかったっけ?!

「シエルさん?  魔女様のところはどうしたんですか?」

まあまあと、背中をよしよしする。

「修業はちゃんっとしてます! でも今日は満月ですよ? また女神様に会えるかもって、帰ってきたんです!」

いや、あなたたちが召喚しなくちゃ私はこっちに来れないんですけど……?

「気持ちはうれしいんですけどね、なぜ私がこちらに来ると思ったんですか?」

はい、ここ、重要ポイント!

「だって、兄様が……」

シエルが視線をちらりとそらす。ん? ラルクとな?

そこにコトリ、とマグが置かれる。温かい湯気を立てたホットワインが注がれている。う~、そういえば夕方から寒空の下ボケッとしていたし、とどめに池ポチャだから、お湯で温もったとはいえもう少し暖が欲しいところだったから、ありがたい。

「ありがとうございます。……ふう、生き返る」

はふはふしてから一口飲むと、そこから温もりが広がっていくよう。にっこり微笑んで、淹れてくれたアンにお礼を言う。ホットワインと言えば、ラルクがいつも飲んでたんだよね……

「女神様が行かれた後の兄様の落ち込み様ったら、凄まじいものがあったんですよ!」

クスクスと笑いながら、ここにいるみんなに飲み物を配って歩く。まだお風呂にいるラルクには、後からアツアツのホットワインをサーブするんだろうな。

「はあ……」

何だか気恥ずかしくて、マグから視線を上げられない私。

落ち込み様って……。ラルクも、私がいなくなって寂しいって少しは思ってくれてたのかな? ちょっと(いやかなり?)うれしいかも。

でもさ、今回の召喚理由ってなんなのさ? こっちを去ってひと月ですよ? まさかの病気が大流行?!

「えーと、今回こちらに呼ばれた理由ってなんなんでしょうか??」

村長さんに向かって聞いてみる。

ホットワインを飲んで、ご機嫌な村長さんは、

「ええ、約一名、女神様の帰還に納得いってない者がおりまして。話がしたいそうでお呼び奉りました!」

って、


「ええええ~~~???? そんな理由~~~????」


まじすか。

そんな理由でまたこちらへ出戻りですかい。

すっかり私はムンクな叫び。あ~、でもアノヒトだろうね。いくら鈍い私でもそれくらいは薄々わかる(って、薄々かい!)。

「今回は話の次第ではすぐにでもお返しいたしますので、ご安心ください!」

さらにご機嫌で請け負ってくれる。

「はあ……」

すっかり生返事しかできない私だった。



ラルクがお風呂から上がるや否や、村長さん・アン・シエルが一斉に席を立ち、

「「「今日はもう遅いので失礼いたしますね! また明日お伺いいたします。お休みなさいませっ!!」」」

ニッコリと笑顔であいさつすると、そそくさと出て行ってしまった。

「お~いぃ、おやすみなさ~いって、聞いてないよ、アノヒトタチ……」

ひらひらと振った手は行方を失った。


……気まずい。ひじょ~に気まずい。

ただ今ラルクと無言で向き合っております。二人して無言でワインを啜っております。え~と、自然にフェードアウトしてもよろしいでしょうか……?

「えと、ラルクさん、助けていただきありがとうございました」

びみょ~に違うなぁと思いつつも、一応お礼は伝えておきましょう。これ、基本です。

が、ラルクが来なければ少なくとも溺死寸前にはならなかったよな? いや、冷水で心肺停止の危機には変わりないか。まあいいや。って、おっと、人工呼吸を思い出しちまった! 挙動不審になっちまいます!

かすかに頬を赤らめながら視線をきょろきょろと彷徨わせる私。ラルクを正視できねーよ!!

「いや、オレも悪かった。……このまま少し、話したいんだが?」

ラルクの頬も、お風呂上りということとワインのアルコールでほんのり赤らんでいる。おお、色っぽいっす! 私には皆無な色気です!!

「はあ」

男の色気に当てられた私は、何とも間抜けな生返事を返してしまった。ああ、今日は生返事ばっかしてるなあ。

「ありがとう」

フッと笑い、そう言うと席を立ち、キッチンに行ったと思うとワインのボトルを片手に戻ってきた。自分のマグと私のマグにも注いでくれる。

「アリガトウゴザイマス」

オツマミホシイと思う私は現実逃避?


「言い訳にしか聞こえないだろうけど、話はしておかないといけないと思ってる。聞いてくれるか?」

ラルクが真っ直ぐに私を見ながら言い出した。そう言われちゃ聞かないわけにもいかないでしょ。

「はい」

私もラルクの目を見ながら返事をした。私もなんだかもやもやとした時間を過ごしてきたんだから、いいかげんスッキリしたい。ここで一度ピリオドを打っておきたい。

私が返事するのを聞いてから、ラルクは静かに話し出した。

「ありがとう。……ミカの帰還に間に合わなくて、悔しかった。ルゥを追い出すのに時間がかかってしまって。ルゥは言ったと思うが、王都に行った時に会ったドリィの妹だ。ただそれだけだ。王都で騎士をしていた頃から異常に懐かれていたんだが、放置しておいたオレが悪かった。何も言わないのをいいことに、勝手に彼女になってて、オレも驚いた。全く相手にしてなかったのにな。ほんと、あの兄妹思い込みが激しくて……。本当にただそれだけだ」

ルゥさんて、ラルクのおっかけ? ストーカー?

「で、ルゥさんは納得したんですか?」

そこですよ。問題は。ちゃんと和解したのか?

「ああ、まあ、なんとか。この間の王都でのオレの様子をドリィからも説明されて……」

おや? 顔が赤くなりましたね? 何故ですかね?

「ドリィさん?」

「ああ。ルゥを迎えに来たんだ。で、ついでに説得に協力していきやがった」

赤い顔が、苦虫をつぶしたような顔に変わる。

「していきやがった?」

なぜそんなに憎々しげに言うんですか。

「ああ。王都でのオレとミカのことを話していった。どうやらずっと尾けてたらしい」

相変わらず赤い顔のままのラルク。いや、ますます赤くなった?

ん? ……ちょいまて。今なんか気になる言葉があったぞ? ずっと尾けてたってか? ずっと尾けてたってことは、腕組んで『王都deデート☆』まがいを見られてたってことよね?! おーまいがー!!

「ひぃぃぃぃ!!」

私も真っ赤になってしまったよ。なんてこったい。

「さすがにそれを聞いたら納得したみたいだった。今までのオレを知っていたら……まあ、当然の反応だが……」

眼を泳がせるラルク。

「そ、そ、そ、そうですか!」

慌てすぎて噛んでしまいました。


「で、だ。本当は満月の前に伝えるつもりだったんだけど、ルゥが来たことで言えなくなってしまったんだが……」

「はい」

「ここにいてくれないだろうか。ここにミカの居場所がある。必要とされている。ミカはたくさん頑張ってきた。でももう頑張らなくても、充分ミカは受け入れられている」

受け入れてくれてることは充分承知している。頑張りを認めてくれたのも正直うれしい。リアルワールドで私の居場所がなくなっているのをひしひしと感じたひと月だったし。

「……でも、それは、あちらで上手くいかなかったからという『逃げ』と取られませんか?」

居場所を作る努力を放棄したみたいで。

「ここに逃げてくるんじゃない。ここを、意志を持って『選ぶ』んだ。それは『逃げ』ではないだろう?」

上手い。山田君、座布団10枚!

「ああ……」

感心してる場合ではなかった。次に繰り出された言葉は波動砲並みの破壊力だった。


「それに何より、オレがミカを必要としている」


心臓直撃、心拍数異常上昇!!

「オレは騎士だったからな。常に守る対象を必要とする癖がついてしまってな」

ニヤリと笑うラルク。あ、今悪い顔しましたよー。

「というのは冗談だけど、ミカを近くで見てきて、初めて守ってやりたいと思った他人なんだ」

ニヤリ顔を引っ込めて、まじめな、でも、優しい顔で言うラルク。うわ、キュンってしちゃったよ。

「お荷物と思われていると思ってました」

正直に告げる。いっつもいっつもブリザードだったじゃない。

「そんな風に思ったことはない。もっと頼りにしてほしいくらいだった」

うっそ。そんな風には見えませんでしたけど……

「……私も、このひと月ラルクさんを思い出さない日はありませんでした。ルゥさんと仲良くしてるのかなって思うだけで心が痛くなりました。……向こうが上手くいかないからではなく、私を必要としてくれるこちらの世界を、前向きにこちらを選んでもいいですか? こちらでやり残したこともあります。ここで、また頑張ってもいいですか?」

ラルクが告ってくれたんだから、私もちゃんと心情を述べないとね。こんな告白何年振りよ?

たぶん、一生で一度の大告白だと思うわ。

感極まってポロリと涙まで出てきちゃったじゃないの。

「オレのことは……選んでくれないのか?」

ラルクがさみしそうに問う。

「いえ。ラルクさんのところに私の居場所があるから、みんなのところへも飛び込んでいけるんですよね?」

てへへ☆ と泣き笑いの顔でラルクに告げる。

それを聞いて初めは驚いた顔をしていたラルクだったけど、おもむろに立ち上がり私のところへ寄ってくると、

「ありがとう」

と言って、ぎゅうっと抱きしめてきた。



今回は、私もちゃんとラルクの背に手をまわして抱きしめ返せた。


あれー? ラルクがへたれになってしまった……?!

おかしーなぁ……? (@ ̄□ ̄@;)!!


見捨てないでやってください!!(笑)

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