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泉の女神  作者: 徒然花
本編
36/79

……ただいま?!

実家から1時間ほど離れた隣の県でマンスリーマンションを借りた私。


1週間ほどで退院してきた姉と甥っ子と、それらにくっついてきた義兄の世話にかかりきりになる母。孫がかわいくて早く帰ってくる父。かわいそうに私はすっかり忘却の彼方。お~い!

あまりの居心地の悪さに『2週間しか休暇貰ってないから、そろそろ帰るね~』と、2週間経たずに実家を出てきたのだ。


そして現状は。

自分の蓄えを食いつぶしながら仕事を探しているというところ。

このご時世、なかなか仕事は見つからないけど、諦めないへこまない落ち込まないだ!! なんとなればコンビニバイトか?!




リアルワールド帰還からひと月経った。もう12月も半ば過ぎ。

もはや街中クリスマス一色。しかも夕暮れ時のこの時間は、イルミネーションも点灯しだしてロマンチックなムード満点。どこもかしこもカップルだらけ。どこから湧いてきた? くそう。そこのカップル、いちゃつくなっ!!

ラブラブなカップルを横目に、イルミネーションがきれいに見えるベンチに腰掛ける。ふん、カップルになんて譲ってやんねーよっ! 挟まれたって気にしないんだよっ! そして背もたれにもたれて空を見上げる私。ふんぞり返っているともいうけど。

ぼんやりと夕暮れを眺めていたら、あっという間に夜の闇にとって代わってしまった。

今年の冬は厳しいらしい。つか、もう十分さみーんですけど。


今夜は満月。因縁の満月。でも朝から雲に覆われていて、見られるかどうかは疑問。雨か雪か。

予報では夜更け過ぎには雪になるらしい。サイレンナーイ、オーイエー、ホリーナーイ♪だ。

でも、『クリスマス』と聞いても『雪』と聞いてもちっとも気分は浮上しない。何をするにつけても右手の指輪が目に入ってしまうから。その度に思わずため息をついてしまう。あ、未練がましくつけてる私が悪いのか。

「……ラルク、元気にしてるかなぁ。彼女さんと仲良くしてるのかなぁ」

ぐはっ! 自分で自分の傷口に塩塗ってしもた!!

「ううう……」

自分のイタさに頭が痛くなるわっ!

一人ぶつぶつ言ってる私がすでにイタイ人なんだけどねっ☆

周りの白い目だって気になりません! だってここは知らない街だもん! 昔からの顔なじみもいないし、気楽気楽。泣き顔だって気にならないんだから……


ずびっ。


盛大に鼻水をすする。

こっ、これは泣いてるんじゃないからねっ! 寒くて鼻水が出たんだからねっ!! ……って、誰に向かって弁解してるんだ、私?!


しかし、結構な時間ここでこうして固まってたから、身体も芯から冷えてしまった。風邪をひいてもつまらん。

「6時、か」

腕時計を見て時間を確かめてから、家に帰ろうと腰を上げた。

その時。


ひらり


ひとひら、白いものがふわりと舞った。


「あ、雪だ」

夜更け過ぎの予報だったけど、もう降ってきたのか。

ふと空を見上げる。

ひらひら、ひらひら、増えてゆく白い結晶。

柄にもなくロマンチな気分になって手のひらを差し出したら、ふわりと一片、掌の上に落ちた。冷たいとも感じられないほどのささやかな一片。あっという間に融けたと思った途端、


「はいぃぃぃぃ?! うっそ!!」


足元に穴が開いた。




えっ?! まさかの召喚ですか?! 何?! 召喚アイテム持ってないよ?!


そう思いつつも落ちる落ちる…… Down down down. Alice went down a big hole.な気分です!


ピシッ……


あ、いつものあの音。……そして。


ゴボゴボゴボゴボ……


「ガフッ!!(ちべたいっ!!)」

いつものようにいきなり水中に放り出された。そしてあまりの冷たさに声が漏れたよ。声が漏れたってことは息が漏れたんだよ!! いつもギリしか持ってない息なのに! 貴重な酸素なのに!! はやく水面にたどり着かなきゃ溺死だよ!! 慌てたいところだけど落ち着いて水面を探して。そしたら、水面の方から人影。


「グフッ!!(ラルク!!)」


はい、再び息が漏れましたよ。ラルクです。ひと月ぶりにラルクです! って、こんな冷水に飛び込んできたの?! 自殺行為だよ……?


私に触れた途端にぎゅうっと抱きしめてくるラルク。

「グフッ?! ゴボゴボゴボゴボ……(ラルク?! うわぁぁぁぁ……)」

息を吐き切ってしまいましたっ!! こんなとこで抱きしめないでよ!! って思ったけど後の祭り。


私の意識はそこでブラックアウトしてしまった。




眼の前をサラサラと流れる川。

あれ? 私、泉の中にいたんじゃなかったっけ? そんなことを思いながら川向こうに目をやると、そちらには花畑が広がっていた。一面の花畑。色とりどりの花が咲いている。

「綺麗……」

思わず声が出る。

花畑の中には、歌い踊る子供たちが見える。

「あはははは」

「うふふふふ」

バカップルか。(いや、違う。こほん)……あー、楽しそう。私もそっち行く~!


……カ、……ミカ……ミカ!!


誰か呼んでるー。うるさいなー。せっかく子供たちの仲間に入れてもらおうって思ったのに~!!


そう思いながら重い瞼を開けると、ラルクのどアップ。

「ふぐぅ?!」

声にならない叫びは、私の口がラルクの唇にふさがれているから。ついでに鼻もつままれてますよ? 何故に?

……って、おい!! 塞がれてるぅ?!

びっくりしてラルクを押しやると、

「「「「息を吹き返したぞ(ましたわ)!!!」」」」

というざわめきが聞こえてきた。


はいぃぃぃ???


ちょっと!! 公開でキスされてたぁ?! って、冷静に考えたら人工呼吸ですな。これ。

あー、キスと人工呼吸間違えた。恥ずかしいわ。でも、

「ミカ、ミカ! よかった!!」

ぽかんとする私をぎゅうっと抱きしめてくるラルク。いや、そもそもあんたが水中で抱きしめるから溺死しかけたんでしょうが!! 危うく三途の川渡るとこだったじゃないの!!

一人脳内ツッコミ大会を開催している私だけど。


「ミカ、みんながミカのことを必要としている。居場所ならここにある! ミカの居場所はオレが作ってやるから、オレのところに……! だから、ここにいてくれ!」


ぎゅうううっと抱きしめられたまま、ラルクの懇願を聞く。




蘇生した途端に殺し文句ですかい。生かしたいのか殺したいのかどっちだコラ!!


また帰ってきてしまいました(笑)

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