ただいま……
今回も実家の近所の公園に出現。すっかり私の召喚帰還ポイントになってしまいましたね☆
しかしまあ、なんですなぁ。ほんとにリアルワールドに帰ってきたのかなぁ? こればっかりは今夜一晩越してみないとわからないか。
これからどうしよう? そう思いながら大きく伸びをした途端、右手に違和感。
……はうっ!? 私、ラルクの指輪を持ってきちゃったよ!!
そうだ、最後の瞬間しか会えなかったから、すっかり忘れてたよ。すっかり月の雫のことしか頭になかったわ。あわわ……!! 一人指輪を見てアワアワしてるけど、ここで慌てたって持ってきちまったものは仕方ない。
「ごめんちゃい、ラルクさん! カリパチの私を許してください……」
アーメン。
返す当てはないけど大事に持っておこう。記念にもなるしね。
公園でひとしきり慌てた後、その足で実家に向かう。姉の出産予定日、そろそろだったはず。
がばっと実家のドアを開けて、
「ただいま~! おかーさーん、美樹ちゃんはどお? 予定日に合わせて休暇貰ってきたよ~」
と、玄関で靴を脱ぎながら奥にいるはずの母親に向かって声をかける。
「あら、ちょうどよかったわ! 美樹ちゃん、昨日から陣痛が始まってて、さっき病院に行ったところなのよ」
リビングから顔を出した母親は、いそいそと病院へ行く用意をしている。
「わぁ! もうすぐだね!」
私はうれしくて笑顔になる。リビングに入りよいしょっとソファに座って、いそいそ動き回る母親を眺める。
「そうよぉ! 美華もちょっと休憩したら病院いらっしゃい? あ、奈々子ちゃんのとこの産院にしたから」
支度が終わったのか、リビングのドアに手をかけながらこちらを振り返ってくる。
「うん、わかった」
まだどっかりとソファに座ったまま返事をする私。
「ごはんも、適当にして適当に食べてて」
「はぁい」
「じゃあね?」
そう言うと、母親は慌ただしく出て行ってしまった。
ああ、放置プレイです。いいです。自分でしますよ。食材勝手に使わせてもらえるだけありがたいです。
閉じられたドアに向かってひらひらと手を振ってみる。
「……ふぅ。さて、まずは腹ごしらえしよっか」
ソファから立ち上がり、キッチンに向かう。そういやここ数か月、一人でご飯食べることなんてなかったなぁ。一人メシ、淋しいかも……くすん。……いや、いかんぞ私!! これしきの事で淋しがってちゃこれからどーすんだ?!
一人淋しく腹ごしらえをしてから産院に向かう。
待合室のようなところに母親を見つけた。
「おかーさん、きたよー、って、まだ?」
私を見つけて来い来いという風に手招きした母に近寄りながら聞いてみると、
「ええ、まだみたいなの。もうちょっとかかるみたい。佐藤くんが傍に付き添ってるから私は遠慮しちゃった」
分娩室と書かれたドアを指さしながら『あはっ☆』と笑う母。いい年したオカンでしょ、アナタ。
「そーなんだ? じゃあ私は奈々子のところに顔出してくるね?」
そう言って母親と別れた。
「お姉さん、まだかかりそうよ?」
奈々子といつもの院長応接室。
「あら~、そうなんだぁ。微弱? にしても痛そうだよねぇ。願わくばつるんと産みたいものだ」
未経験だからワカリマセン。
「早くても明日……くらいじゃないかなぁ? お姉さん、がんばれ~!」
「がむばれ~!」
『お姉さんに乾杯☆』と、奈々子と二人、他人事でお茶をすする。
「で。今回は長く帰ってきたの?」
奈々子が話を振ってきた。
「う~ん、美樹ちゃんの出産に合わせて2週間。だから生まれてくるのには会えるけど、またちょっとしたら出ていくわ。薄情な叔母さんです」
あは~っと笑って誤魔化す。ほんとはいくらでも居れるんだけど、海外ボラ行きました~とか言ってたくせに3か月も経たないうちに帰ってくるなんておかしいもんね。辻褄は合わせとかないと。
「そっかぁ」
「奈々子の方こそ、産院は相変わらず繁盛してるみたいでよかったじゃない。アロマサービスはどお? 順調?」
「おかげさまで美華の後から来た子も好評でね、今じゃ週3で実施してるんだから!」
「まじすか!」
「ええもう! このままだと定番サービスになりそうだわ」
「まじすか!」
驚くしかない私。なんと、私のいない間に発展してるじゃないですかっ!! ああ、ナンテコト……。いや、こんなとこで地味に衝撃受けてる場合ではない!
「じゃあ、スタッフ拡充とか?」
ビジネスチャンスは自分で創るべし!! ほとぼり冷めたころにねじ込む余裕はあるのか?!
「うーん、今のところは無理だから、まだ当分週3のままだわ」
がっくり。
「……ソウデスカ」
結局姉は一晩唸って、翌朝玉のようなおのこを産みもうしました。
とーちゃんかーちゃん義兄ちゃん、みなさんそりゃあ大喜びさっ☆ あまりの浮かれように乗りそびれた私。その輪に入れず、そんな家族を一歩引いた目で見てしまいましたとも……
万歳三唱しそうな3人をちょっと離れたところで他人のように見ていた私だけど、
「お姉さん、がんばったね!」
ポンッと、奈々子に肩を叩かれてハッとした。
「ああ、奈々子。うん、みんなあの通りだよ……」
視線だけで家族の方を指す。
「ものすごい喜びが伝わってくるわ……」
奈々子も生暖かい笑顔です。
一旦一人で実家に帰ってほっと一息。
3か月ぶり?いや、4か月ぶりか。リアルワールドで満月の夜を越したのは。ここのところとんぼ返りで向こうに行ってたもんね。
昨日は意識して水を避けていた。これってトラウマになったりしないよね? 満月の日は水に触れないとか?!
紅茶を入れてゆっくりと飲む。
マグを包む手にラルクの指輪。自然と目に入る。
「見る度にオレを思い出すだろう?」
はい。思う壺です。ついでにあの時の笑顔まで蘇りますよ。重症です。
「……違うって言ってたよねぇ。最後まで話聞かなかったよねぇ。……ごめんね?」
ほうっ……とため息が漏れる。
右手を目の前に持ってきて、まじまじと見つめる。
あの場では仕方なかったんだよ。彼女もくっついたままだし、仕事の邪魔にしかならなかったし。つか、ラルクも空気読めよ。って、八つ当たり? ごめん。
「最後は『ミカ』しか判んなかったし。あ~、何て言ってたんだろ? 気になるわぁ。モヤットだ」
月の雫がなければコミュニケーションもとれない私たちだったんだね。
ぼふん、とソファーの背もたれにもたれる。
「ふふ……。なんて儚い絆」
いやいやいやいや。もうあちらには行けないんだから。行くことのできない世界の人のことをくよくよ想っていても仕方ない。
グビっと温くなりつつある紅茶を飲み干すと、次の行動に移ろうと立ち上がる。
「とりあえず、家を探しますか。今度はちょっと遠いとこにしよう」
なんの意味もないけどね。違う街で心機一転頑張りますか。
ラルクの指輪をしっかりと握り締める私。って、未練がましい??




