がんばれアン!
王都での修業が決まったシエル。
君ならできる! おねーさんは信じてるよっ!
次はアンだ。
アンは料理に興味があるらしく、リアルワールド料理もよく教えてあげた。
って、私のできるような料理なんてたかが知れてるけどね☆
和食は出汁とか無理があるので洋食中心だったけど、アンはすぐさま上達していった。
アンには料理の才能があると思うんだよね~。だからそこを活かして栄養学的なことを伝授していきたいと思うのだ。
ほら、病気したらご飯とかも大事になるじゃない?
でも、栄養学とか料理って私の範囲外のことだから、簡単なことしか伝えられないけど。
それでも「識っている」というのと「識らない」というのでは大違いだと思うんだ。
ほら、ポジティブシンキングっ!!
という訳で、私はアンの前に栄養学の入門書とレシピ本を広げる。
「これはね、料理の延長みたいなものなんだけどね、病気を防ぐ食材とか食べ方とか、病気になったらどんなものを食べたらいいのかとかが書かれてる本なんです。アンさん、勉強してみたいと思いませんか?」
眼の前に広げられた本を食い入るように見つめていたアンは、本から視線を上げると、私にラピスの瞳を向ける。
「ええ、とても興味深いです。できることならぜひやってみたいですわ」
きらきら瞳を輝かせる。
「よかった! シエルさんが薬師で、アンさんが栄養管理をしたら、この村の健康状態は飛躍的によくなると思うんです」
ほっとしながらアンに向かう。
「素晴らしいです。こんなに村のことを考えてくださるなんて……。私、頑張りますね!」
感激したのか、うるうると瞳を潤わせてから、にっこりと微笑むアン。
かわいすぎる!! 抱きしめちゃいたいよ!!
「では、この本は一緒に翻訳していきましょうね」
「はい!」
そうして、アンと私の翻訳も始まった。
しかし、帰還準備を急ピッチで進めているせいで毎日めっちゃタイトでハードだ。
「ふわっ?! 寝てしもたっ!!」
がばっと顔を上げる。どうやら机に突っ伏して居眠りしていたようだ。
がっ!! よだれ!!
いやいやそれより、えーと、私は何してたんだったっけ? 居眠りする前の記憶をたどる。
「起きたか?」
ふいに後ろからラルクの声がした。まだ寝ぼけていたから、マジ飛び上がるかと思ったわ!
「ふわっ!! あー、ラルクさん。私、寝てましたね。ごめんなさい」
きょどきょどと、視線をさまよわせる私。そうだ、いつものラルクとの翻訳中だったんだ。
「ミカ、疲れているだろう。今日はもういい、寝るぞ」
そう言って私の腕を引き、立ち上がらせるラルク。
ああ、過保護兄ちゃんがでてきました! ここ、逆らったら怖いので素直に従うことにするわ。ほんとはまだやりたいんだけどね。
立ち上がった拍子に、肩にかけてあったブランケットがはらりと落ちる。
あれ? 私こんなのかけてなかったよな?
ぽけーっと落ちたそれを眺めていると、ラルクが拾い上げた。
あ、そっか。ラルクがかけてくれたんだね。
「あ、アリガトウゴザイマス」
「いや、さ、行くぞ」
さり気なく流されてしまったけど、その優しさにジンと来てしまうわ。
ほれてまうやろ~~~~!!
美形でさり気なく優しいって、どんだけポイント高いんですかあなたは!!
最近は診察に来る村人の数が落ち着いているから、早目に店じまいしてアンと栄養学&料理の勉強。夕飯はその延長だ。
「……で。お粥か」
「そうです。お粥です」
ラルクが手元の椀を見てぼそりと呟くのに、私が応えた。
今日は基本の『き』のお粥だ。ま、確かに健康な成人が夕飯に食べるには味気なさすぎるけどね☆
「これが10倍粥で、これが5倍、3倍、2倍です☆ どれでもどうぞ!」
ひとつずつ指差しながら、アンがにっこりと目の前のお粥オールスターズを勧める。
「って、お粥ばっかりってどうだ?」
ザ・お粥バリエーション!! やっぱダメか。
ラルクが渋い顔をしてる。
「大丈夫ですよ! 食べ放題ですから!!」
私は両手に拳を握り、力強くラルクに言った。何が食べ放題だ。問題はそこじゃないとは知りつつ。
「……」
もはや無言になってしまったラルク。
「ま、ま、いただきましょう?」
シエルが慌てて繕ってくれた。
「じゃあ、明日はオートミールの粥にしましょうか」
相変わらずにっこりと言い放つアン。
「……いや、やめてくれ」
渋い顔のままラルクが言った。
さすがにお粥だけっていうのは不評だったけど、それ以外はおおむね好評(でも病人食☆)。
翻訳の方も必要な所だけを端折って読んでいったから、思っていたよりも早く作業は終えられた。
「ここに書いてあったのは、基本的な考え方だから、こっちの世界の料理や食材を上手く組み合わせてね」
翻訳できたものをトントンとまとめながら、私は言った。
「こちらの料理は素朴でしたから、とても刺激になりましたわ! 普段のお料理のレシピも、もっともっと知りたいです」
訳し終えたレシピ本の写真を眺めながら、アンがうっとりと言う。
「うん、じゃあまた持ってきますね」
つい可愛くて、そんな約束してしまう。
「ありがとうございます!!」
途端にキラキラと目を輝かせるアン。
って、おい!! 次の約束しちゃダメじゃない!! 何やってるんだ私!?




