月の石の寿命は?
とりあえず、今月も戻してもらおう。
はい、ちゃんと帰ってきますよ。(諦めが早くなりました!)
しかしもう10月。
さすがに夜の泉に飛び込むには勇気が要る。
準備体操はしっかりやっとこう。
帰還以前に心肺停止とかシャレなんねぇ。
帰るっていっても、実家にいきなり帰れないよなぁ。
だって、先月海外ボラに行ったばかりの娘がひと月やそこらでもう帰ってくるなんておかしいもん。
「あの、村長さん」
とりあえず横に控える村長さんに聞こう。
それまで篝火の横、一人せっせとラジヲ体操第1からの第2を踊っていた私は、疑問を解消すべく村長さんに向き直る。
ラジヲ体操をする私をボーゼンと見守っていた村長さんは、私の呼びかけでハッと自分を取り戻したようだ。
「は、はい、なんでございましょう?」
「向こうの世界での出現場所っていうのは、選べるんですか?」
前回・前々回と、自室のベッドの上だったけど、もうそんなものないからね。
「強く念じる処に出現するはずでございます」
「ほほ~、そういう仕組みになっていたのですね。前回もその前も自分ちのベッドだったから、じゃあ、無意識にあのベッドを欲していたわけですね、私は」
そうか。
「そういうことでございましょう」
「では、飛び込む時に念じればいいのですか?」
「はい」
「了解です」
あ、そういえば前回、飛び込む前にみんなの前でラルクに抱きすくめられたから、恥ずかしくなってえいやって飛び込んだんだったわ! うわ、思い出しちゃったよ!!
……ふぅ。
心を決めて、飛び込もう。
一歩、二歩。静かに泉のふちに佇む。
篝火が映りゆらめく水面をガン見しながら、集中、集中、集中……
「ミカ」
って、集中してるところに声かけられたよ。
ラルク~! 空気読んでよ~! いっつもあなたは間際なんだから。
「はい」
振り向くとラルクが真後ろにいた。
驚きで泉に落ちるか思ったわ!
「これを、お守りに持って行け」
驚いている私にお構いなしに、そう言って手渡してきたのは騎士の指輪。
いつぞやのドラゴン除けとかしたやつ。
確か、騎士の退職記念の大事なものよね?
「えええっ? これって大事な物じゃないですか!! 持って行けませんよ!」
あまりの驚きに、目を見開く私。
手をぶんぶん振りながら猛烈に遠慮する。
「いいから」
ぶんぶん振る手をお構いなしに掴むと、おもむろに指輪をはめた。
男性用なのか、かなり大きいのでぶかぶか。落とすのがオチだ。
「これ、大きすぎます! 落としちゃいます!! それにほら、ドラゴン出たらどうするんですか!?」
「シェンロンがいるだろう」
まあ、シェンロンならラルクも助けてくれるだろうけど。
一番太い右手の中指でもゆるゆるで。
「でもですねぇ……」
焦って言い募る私にラルクは、
「落とさないように、指輪を気に掛けるだけでもオレのことを忘れないだろう?」
って、微笑みながらいいますか?!
瞬殺ですわ。
完敗です。
「……ワカリマシタ」
くらくらと、キュン死に寸前の私。片言でしか返事できません!
そんな私にラルクは、
「待ってるから」
って、また先月と同じパターン。
はい、飛び込みましたよ。すぐさま。
強く念じた先は、実家近くのあの公園。
気が付くとベンチに座っていた。
公園の時計で時間を確かめると午前7時。
こんな時間からこんなとこにいるって、どんだけ怪しい子だよ……? 乙女心がしくしく痛むわ。
そういや先月、ここでお団子食べようとして手を洗った瞬間に向こうに召喚されちゃったんだよね……がっくり。
くそう! 私のお団子っ!!
美容院終わったら、絶対お団子食べてやるっ!!
行きつけの美容院は、ド平日と言うこともあって飛び込みですぐにOKだった。
これから先、どうなるかわからないから染めるのはやめて元の髪色に戻してもらう。
肩の下くらいでこざっぱり揃えてもらい、終了。
若干栗っぽい黒色が、地毛の色。サラサラの、何の変哲もないストレートヘア。
地味になりました。
美容院が終わったのがお昼過ぎ。
おひとり様ランチを楽しんでから、出現した公園に戻る。
手には先月食べそびれたお団子。
もはや月見団子ではないけど。
しかし、こんなド平日の真っ昼間に公園でお団子食べてるって、どこのリストラ親父ですか?!
せっかくリアルワールドに帰ってきたのに、どこにも行く当てがないって、ひしひしと虚しさが込み上げてきた。
奈々子のところも行けないし。
実家にも帰れないし。
まあ、退路を断ったのは私自身だけど……
ぶかぶかの指輪を見つめる。
それに引き替え、あちらにはずいぶんと私の居場所が出来てしまったよなぁ。
快適マイホーム、充実ワーク。知り合い。
それから、多分、好きな人。
あ~。
本当に私はリアルワールドに帰る気あるのか?
そして、帰ってきても社会復帰できるのか?
「どーすんだぁ? 私」
にわかに不安になってきた!
それに、月の石の寿命も近いって。
こんな美容院ごときに一回分費やしてしまってよかったのかしら……?
ちょっと短かったですねぇ m( _ _ )m
またよろしくお願いします。




