頭がプリンになってきた
やっと王都から帰ってきました。
王都からの帰りもシェンロンに乗って浪漫飛行☆
って、そんな優雅なもんじゃないけど。
まあ、往路よりはスピードダウンしてくれたけどね、それでも景色なんて見る余地ナシ!
相変わらずラルクにしがみついたままの私。
「また景色を見ないのか? ほら、夕日がきれいだぞ」
ラルクが笑いながら言う。いや、笑う余裕もないって。
「今はいいです! 地に足着いてから見ますから!」
ラルクの胸にぎゅーっとしがみつきながら言う私。
「着いてからじゃ見れないぞ」
まだ楽しそうなラルク。からかう余裕があるのがむかつくぜ。
「見なくていいです。明日見ます」
「ははは。まあ、もうすぐだ」
そう言うと、ぎゅっと私を抱えなおすラルク。
「ミカは、帰りたいとまだ思っているのか」
しばらくして、ラルクが静かに聞いてきた。
「う~ん、帰してもらえるなら帰りたいですけど、迷いが出てきているのも事実です」
「迷い?」
「はい。こちらに私の居場所がどんどんできていくのに反比例して、向こうになくなった気がしてるんです」
「そうか」
「いえね、またイチから築けばいいことなんですけどね、何だかセンチメンタルになってるっていうか、ナーバスになってるて言うか」
あ~、柄じゃないけど。
ネガティブかつ守りに入ってるとは思うんだけどね、急激な身辺変化についていけてないからそう思うのだろう。
「……なんだかんだと流されながらも頑張っているミカは凄いと思う。疲れて倒れたお前を見て、守ってやりたいとも思った」
疲労で倒れ……あ、あれ演技でした。ごめんなさい。
つか、そんな風に思ってくれていたのか。
って、こんなところでそんな心情を吐露されたらですねぇ、オトメゴゴロはズキュンなわけで。惚れてまうやろ~~~!!てな感じで。
ますますこちらに足枷ができてしまうじゃないですかっ!!
さらに抱きしめる腕に力入れるのも反則です!!
「あ、アリガトウゴザイマス……」
ここはお礼を述べとこうか?
「帰りたいという意思は尊重したい。が、帰ってほしくないというのが本音だ。自分でもどうしようもないジレンマだ……」
頭のてっぺんからラルクの声が響いてくる。
ちょ! 頭に口づけないでくださいぃぃぃ!! むきゃ~! 顔が赤くなる!!
「は、はぁ……」
ようやく絞り出した返事は生返事。フガイナイ。
つか、顔があげれません。
「それから、月の石の寿命が近づいている。もうそんなに向こうとこちらを往復することもできないだろう」
さり気なくラルクが言う。
って、はい、ここ重要!! 月の石の寿命~?! ナニソレ聞いてないよ!?
「石に寿命があるんですか?? ……!!」
思わずガバリと顔を上げた。
あまりのラルクとの近さに絶句しちゃったけど☆
「ああ。召喚を行う毎に石にひびが入っていく。もうかなり脆くなっているのが現状だ。いつ割れてもおかしくない」
「そう言えば、いつも何かが割れるような、というかヒビの入るような音がしていました。水中に放り出される前に」
そう。『ピシッ!』という音が聞こえてたんだよね、いつも。
そっか、石にひびが入る音だったんだ。
「そうか。ミカには聞こえていたのか。だからもうすぐ決断の時が来る」
「……そうですか」
コテン、とラルクの胸に頭を預ける。
無事に帰れるようにますます努力せねば!!
王都から帰ってきて数週間。
また診療所しーの、アロマ講習しーの、漢方講座しーのと、すっかり忙殺されてしまった。
ああ、一般人と認めてもらえるどころの騒ぎじゃなかった!! やばい!
時間だけが刻々と過ぎていく!
「ふぎゃぁ!! 時間がない! どうしたらいいのさぁ!!」
夕食後、ダイニングテーブルに突っ伏して頭を抱える私。
そんな突然発狂したかのような私の姿に、
「どうしました? 女神さま?!」
心配そうにアンが訊ねてくる。
「まだ誰にも私が普通の人間だと認識してもらえてません! それに焦っているんです!!」
突っ伏したまま悶える私。
「女神様は女神様です! 何をおっしゃられることやら!」
そこに割り込んできたのは村長さん。
腰が痛いとかで湿布薬をもらいに来ていたのだが、ついでに一緒に夕飯まで食べて、こうして一緒に寛いでいたのだ。忘れてた。
「だって普通の人間なんですもん! 女神様女神様って言われてたら、荷が重いんですっ!」
相変わらず頭を抱えたままの私。
そこに、
「あの~。全然関係ないんですけど、女神様の髪の毛、根元の方だけ色が違いません?」
何とものほほんとした声が響いた。
ほへ? と顔を上げたら、シエルが私の頭を興味深げに見ている。
「ほら! 全体は明るい茶色なのに、根元の方は黒いですよね?」
ニコニコしながら付け加える。
「あっ!!」
またハッとして頭を押さえる私。
「そう言われたらそうねぇ? 今まで気づいたことなかったですけど……」
アンも、しげしげと私の頭を見つめて言う。
そうです。今私の頭はいわゆる『プリン』になっているのですぅぅぅ!!
こちらに来て約3か月。
美容院なんてないわけだし、リアルワールドに帰ってもそんな時間もなかったし。
その前からのもあって、すっかり茶髪の根元が5cmほど地毛が見えてるわけなのです。
地毛は黒髪。
うわ、かっこわる。
「ええと、これはですね。向こうでは髪の色を染めたりすることが出来ましてですねぇ。私も茶色く染めていたのですよ」
説明する。
「それは魔術か何かですか?!」
キラキラお目目で村長さんが食いついてくる。
好奇心はいくつになっても衰えないのね☆
「いえ、魔術でも何でもない『技術』です。逆に、白髪を染めたりもできるんですよ」
ファンキーな紫に染めてるお婆ちゃんとかいるしねぇ。
「「「さすが、女神様のいらっしゃった異次元!!! 髪の色まで自由自在に操れるのですねっ!!」」」
ラルク以外の3人のお目目がキラキラする。
「―― 違うしっ!!」
あーもう、石が割れようがなんだろうが、来週は帰らせてもらう!!
今日もありがとうございました!




