魔女様のおうち
王城の正門を出て、少し歩く。
そこは王城にほど近いが、大通りから外れた民家がひしめく中にあった。
看板もなにもない、古びた扉。
とっても趣のある、言い換えればふっるーーーい家が、魔女様のおうちらしい。
「これが魔女様の家ですかー。」
ほおおー、と感激しながらその建物を見上げる私。
「そうだ。入るぞ。」
そう言って、ラルクは扉を開ける。
カラン、と、扉に付いたベルが鳴る。
ラルクの後から恐る恐る顔を出してみる私。
ドロドロした液体を大鍋でかき混ぜてたりするのかしら?
そんな好奇心ばかりは押さえれない。
「魔女様、参りました」
ラルクが胸に手を当てて恭しく挨拶する。さっきも見たけど、騎士さんの挨拶かな?
慌てて私もラルクの後ろから出て、同様に挨拶する。
王様にしたように跪いたりはしないんだね。
「早かったね、ラルク。街見物はしなかったのかい?」
ふふふふふ、と笑い応える魔女様。
魔女様こそ早くね?
あ、移動の魔法とか使ったりするんだよね?
間接照明の、ほの暗い部屋。
魔女様は、奥のテーブルに、こちらを向いて座っていた。
瞳だけは少女のような魔女様。
パッと見、上品な老女にしか見えないが、秘める力は凄いらしい。
普段は怪我人や病人の治癒をしているが、大事の時には国を守る中心になるらしい。
やっぱ、実力ある人は凄いんだよ。
「こんなにかわいらしいお嬢さんが女神様だってね?」
私を見た魔女様が言う。
う~ん、かわいらしいお嬢さんていう歳でもないんだけど……あはっ☆
「改めまして、魔女様。江藤美華と言います。ミカ・エトウ。いつもお世話になっております。」
ぺこり。
とりあえず、あいさつは大事。もう一度、魔女様に自己紹介する。
「それと、私は女神ではありませんから。ただの一般人です」
これは必ず告げておかねばならない事実!!
すると魔女様は、すっと目を細めて、
「面白いお嬢さんだねぇ。召喚されてきたらしいけど、それはまた厄介なことに巻き込まれたもんだねぇ。」
おほほほほほ、と笑う。
あれ? なんだか今までとは反応が違うぞ?
やっと理解者に出会えた?
「そうなんです!! 帰りたいんだけどなかなか帰してもらえないし、女神様とか神様じゃないと言ってるんですが、信じてくれないんです!!」
両手をグーにして、ぶんぶん上下に振りながらここぞとばかりに訴えた。
「そうかいそうかい。それで、ミカは流行り病を治すのにどんなことをしたんだい?」
優しげな瞳に見つめられると、心が凪いでいく感じがする。ん? これも魔女様の魔法?
「ええと、薬草を調合してお薬を作って患っている方々に投薬しました。健康な方にも予防策を施しました。」
これだけだよ? どこに女神様の力なんて不思議なものが存在します??
「それで、村の病は完治したんだね?」
「ええ……まあ……。そうみたいです」
「ところで、その薬草の知識はどこで学んだんだい?」
また好奇心でキラキラ輝きだす魔女様。
「えーと、私が元居たところでですね、お医者様のお手伝いをする仕事をしていたのです」
リアルワールドでの私のことを、時折説明を入れながら、話して聞かせた。
「へへぇ、それはまた面白いねぇ。私にもその知識を披露しておくれよ? よかったら今日はうちに泊まっていきな」
私の薬草ヲタ話を聞きたいの?? 語るよ~?
あ、でも明日にはまた診療所があるじゃない。
そう思い出した時、
「それは無理でございます。明日にはミカは村での仕事が待っておりますので」
それまで黙って私たちのやり取りを聞いていたラルクが言った。
「あら、それは残念だね。じゃあ、また日を改めておいで」
「ありがとうございます!」
にっこり笑顔で言われるから、つられてこちらも笑顔になる。
「今度は私が召喚術で瞬間移動させてあげるよ?」
ニヤリという笑顔に変わる。
慣れないドラゴンで来たのが分ったのかしら?
それ、ぜひお願いしますぅって言おうとしたら、
「いや、オレが連れてきますから」
なぜか憮然とした顔でラルクが答えてるし!!
またジェットドラゴンかぁ……
「せっかく魔女様が魔法で呼んで下さるんですよ? ラルクさんも楽できる……」
と、言葉途中で絶句を余儀なくされた。
ラルク、ブリザード出てます。ゴーゴーです。
凍死しました。
「オレはミカの護衛でもあるんだ」
氷のように冷たい冷凍ビームで瞬殺ですー。
「ラルクさんにお願いします……」
また負けました。
「おほほほほほ。ラルクも面白くなったねぇ」
今度はラルクをニヤニヤと見つめている魔女様。
「せっかく来たんだから、ミカの運勢でも視てあげようか?」
そう言いながら、横においていた水晶玉を正面に寄せる。
うおおお!!The水晶玉占いじゃないですか!!
って、結構リアリストだった私は、そんな占いに行ったことないけどねっ☆
タダなら視てもらおうかしら?
あ、ちょっと怖いかも?
「え……と、いいんですか?」
「いいんだよ。少しだけだしね? さ、手をこの水晶の上に置きなさい」
そう言うと、私の手を取り、水晶の上に置かせる。
それから魔女様は自分の手を水晶玉を包むように翳す。
「ふ……ん。ふん」
じーっと水晶を見て、一人納得してる魔女様。
おーい、何か解説してくれませんかー?
しばらく「ふーん」とか「ほお」とか言ってから、おもむろに顔を上げると、
「普通の子のミカにはいろいろ大変だろうけど、最終的にはいいようになるさ。自分の選択を信じて進むがいいよ」
・・・・・・・・・・・・。
「……自分を信じろ、と」
「ま、そゆことだね」
パチンとウインクする魔女様。じと目になる私。
……それ、ちょっと前にも自分に言い聞かせたとこだったような……
やっぱ、占いなんてこんなもんなんだ!
ま、タダでよかったよ。
お金払ってこれだったら、暴動起こすわっ!! ちゃぶ台ひっくり返すわっ!!
……落ち着け、私。
よくきいたら、魔女様「普通の子のミカ」って言ってくれてたじゃない!
ちゃんと私が『タダモノ』ってわかってくれてたじゃないか!!
それだけでも良しとしよう。……いいのか? いや、いいんだ! タダだから。
「魔力がなくても、ミカの知識があれば治癒魔法に匹敵するよ」
魔女様が水晶玉を脇に片づけながら言った。
「そんなもんですか?」
「そんなもんだよ」
ふうん?
「これからも、私の手に負えない患者さんはよろしくお願いしますね?」
これはお願いしとかないと。今回きた意味がない。
「ああ、まかしときなさい。」
それからしばらくお茶をいただいたりしてから、ラルクと私は帰途に就いた。
今日もありがとうございました!




