王様と魔女様と女神様
「お久しぶりでございます、陛下」
そう言うとラルクが片膝をついてしゃがんだ。右手を胸に当てて恭しく礼をする。
「ミカは両膝をついて」素早く小声で耳打ちされる。
言われた通り、わたしは両膝をついてしゃがんだ。
そっか、突っ立ってたままじゃ失礼だもんね。
ラルクに倣って礼をしてみた。
うん、こんな感じかな?
謁見の間、奥の王様椅子に鎮座するお方に挨拶するラルクと私。
「ああ、久しぶりだなラルク。二人とも、面を上げよ」
思ったよりもテノールな声に応えて、二人とも顔を上げる。
顔を上げて王様を見たら、ばっちり目が合った。
「そなたが『泉の女神』とな。村人を病から救ってくれたそうな。私からも礼を言おう」
威厳はあるが、ゆったりと親しげな口調で礼を述べられるけど、なんだかピンとこないなぁ。普通にありがとうでいいんじゃないの?
まあ、王様だもんね、そんな砕けて『ありがとう』なんて言わないか。
「ありがたきお言葉、恐悦至極に存じます」
こんな受け答えでいいのかしら? 気分は時代劇だ。
「この方は村の病を治した後も、村人の治癒に当たってくださっております」
ラルクが付け足す。
「ああ、そうみたいですね。以前よりもラルクの村からの患者がぐっと減りましたからね」
そう横から言葉を挟んだのは、白髪のお婆さん。
小柄だけれどしゃんと背筋を伸ばして段の手前の椅子に座している姿は、華道や茶道の先生のよう。優しい笑みを浮かべている。
その微笑みを見ているだけでも癒される気がするわ。
これが本物の魔女様の癒しの力かぁ?
「それは大いに礼を述べねばなるまいな。褒美もとらそう」
王様はずいっと乗り出してくる。
「い、いえ、け、結構でございます!」
あくまでも素人の治療ですから! 働かざる者食うべからずで診療しているだけですから!
首をぶんぶん振って辞退する私。
「女神殿はずいぶんと謙虚であるな。ところで名はなんと申される?」
ハハハ、と笑いながら王様が訊ねる。
「ミカと申します。ミカ・エトウ」
「ミカか。ふむ。女神とあって、なかなか美しい。どうじゃ、王宮付きの薬師にならんか?」
はい? リクルートですか?
思わぬ話の流れにキョトンとなってしまう私。
「何をおっしゃってるんですか、陛下。彼女は村に必要なお方です。そんな彼女を取り上げるのですか?」
じと目で王様をねめつけながら言い放つラルク。
あ、ラルクからブリザードが吹き始めたよ?
「ま、まあ、ラルク。そう怒るなよ。ハハ、ハハハ」
にわかに顔を引きつらせる王様。慌てて椅子に腰かけなおす。
さすがの王様もラルクのブリザードは怖いか!
って、なんでラルクは王様にも強気なのさ?
「そうですわ。こんなに国家に尽くしてきた私を捨てて、若く美しい女神様に乗り換えるなんておっしゃられるとは……! これは呪わなければなりませんねぇ」
ニコニコしながら怖いことを言い放つ魔女様。
呪いて!
「いやっ! そうではない! 魔女様あっての国家!!」
王様はすでに冷や汗だらだら。
あ~。残念な王様だね。
「では、側室に……」
そう言いかけた王様の言葉はラルクの言葉に遮られた。
「王妃様をここへ!!」
ラルクが後ろに向かって冷たく叫ぶ。
「はいはーい!」
と、私たちの後ろに控えていたドリイが軽快な足取りでお妃様を呼びに走る。
「ぎゃ~~~!!」
王様はすでにムンクの形相。
「冗談だ、冗談! ラルク、お前えらく変わったな!」
王様がラルクをびっくりした表情で見る。
「なんとでも」
しれっと答えるラルク。
どうでもいいけど、王様ってばいじられキャラなの?
しばらくして王妃様がご入室。
あ、角が生えてる。
「陛下。また若いお嬢さんにご迷惑をおかけしたんですって?」
顔はもっそい笑顔です。でも声は地を這う低さです!
般若だ! 般若登場!
すごい美人さんが起こると半端なく怖いですね☆ 美人は激怒しても美人ですけど。
「あの、その、つまり、だな、ハハハハハハ」
もはや眼も泳いでしまっている王様。
さっきまでの威厳はすっかりなくなっちゃいましたね!
王妃様は私に向き直ると、表情をやさしくして、
「陛下がご迷惑をおかけいたしましたことをお詫びいたしますわ。これでも人は悪くないのですが……」
と言って、また王様を睨みつける。
すっかり小さくなってる王様。
この姿、国民には見せない方がよろしいかと……
「あ、はい。大丈夫です。あわわ、違う。大丈夫でございます?」
こんな感じ? 疑問符ついちゃったわ。
「うう……すまなかった。なかったことにしてくれ。でも、いつでも遊びに来てくれ!!」
未練たらたらな王様。
「「「陛下!!!」」」
ラルク・魔女様・王妃様から一斉に睨まれる。
さらに小さくなる王様だった。
王城からの帰り際。
玄関までお見送りに出てきてくれた魔女様が、
「この後で家にも寄っておくれ」
と言ってくれたので、
「わかりました」
と答えてから、王城を後にした。
「あ~、びっくりしました。王様、確かに変わった方ですねぇ」
二人で正門までの道を並び歩きながら、先程の出来事を回想する。
いじられキャラな王様。ちょっと笑える。
思い出してクスクス笑っていると、
「すぐ口説こうとしてしまうのが悪い癖でな。そしていつもお妃様にこっぴどく叱られる」
呆れたように言うラルク。
「ぶふふふ!!」
思わず吹き出してしまった。
「即位してまだ2年ほどだけど、政はなかなかしっかりしていらっしゃる」
「ほほう。ラルクさんは陛下をよくご存知なんですか?」
ラルクを見上げながら聞く。
なんだか親しそうな気がしたけど。
「ああ。王太子時代はよく騎士に混じって鍛錬しておいでだったから。俺たちともよく剣や組手の練習をした。即位してからもすぐに執務室を脱走して鍛錬してたな」
「あ~なるほどです。仲がいいのかしらと思いましたから」
「そうか」
見上げた私の視線を受け止め、ふわりと笑うラルク。
緊張とけた後のキュンは、心臓に悪いです。
ラルクがさり気なく腕を出すので、来た時同様腕を組む。
お次は魔女様んちへGO! だ。
最近、遅々として進みませんねぇ(汗)
王都お上りさんターム、後1,2話続きます。
またよろしくお願いします。




