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泉の女神  作者: 徒然花
本編
22/79

お呼び出しを申し上げます

ごぼぼぼぼぼ……


3度目だけど、慣れる気がしない。

いい加減違う召喚術考えてくれないかなぁ??

いや、今ここで愚痴っても仕方ない。

上と思しき方向を確認せねば。


ん?


誰か、こっちに来る?

今回はお迎えつきになったの?


水面の方から誰かがこちらに潜ってくるのが見える。

そちらの方に伸ばした手を掴まれると、力強く引き寄せられた。

よし! 今回は溺死の心配がなさそうだ☆

抱き込まれたまま、水面に向かって浮上していく。


水面に出てすぐさま、

「ぶっはぁ!!!」

って、また色気のない私。

今回はいつもより早く空気にありつけたぞ! お迎えさんのおかげだわ!

それから、自分が抱き寄せられている人を見て納得。

助けてくれたのは、やはりラルクだった。




そのまま岸まで泳ぎ着き、前回同様抱き上げられて帰宅だった。

今回は神殿じゃないから、もっと快適。

ツインズがちゃんとお風呂まで準備してくれていた。


「あ~! ありがとうございました」

さすがにそろそろ水の温度も下がり始めているから、お風呂は生き返るぅ!

私の後から温まったラルクとともに、リビングのテーブルに落ち着き、アンが用意してくれた温かいミルクをいただく。

って、ラルクはホットワインだけど。


「ラルクさんまで飛び込まなくてもよかったのに。私のせいですみません」

申し訳なくて、ラルクに頭を下げる。

「いや。いつか溺れてしまいそうで……怖くなった」

ふいっと、顔をそむけられた。

あれ? 顔が赤いですよ? ワイン飲みすぎとちゃいますかー?

「自分でもそう思います。息が持たなくなりそうです」

これからだんだん服が厚くなると余計だよね。

今でさえ溺れる一歩手前だし。

やばいやばい。

「とにかく、今回も無事に戻ってきてくださって、ほっとしました」

シエルが、温かいハーブティをはふはふしながら微笑んだ。

う~ん、無事っていうのはビミョーなんだけどね。

ちょっと向こうでハマったセンチメンタリズムの余韻がまだ残ってて、若干凹み気味だし。

ははは、と引き攣り笑い気味になる私。

すると、

「私たちはそろそろお暇しますね。お休みなさいませ」

アンが立ち上がり、ハーブティを飲み終えたシエルと自分のカップを片付けにキッチンへ向かう。

「はい。おやすみなさい」

まだミルクを飲み終えていない私は、もう少しリビングに残るつもりだった。




「……」

「……」

あれ? ラルクも残るんですか?

……みょ~な間が、二人の間を漂ってるんですけど?

「ラルクさんは、まだ寝ないんですか?」

手元のカップを見ると、すでに飲み干されているみたいだけど。

それに応えるようにこちらをちらりと見たラルクが、

「……向こうで、何があった?」

と、おもむろに聞いてきた。

ほへ? 何があったって?

「ええと? どういうことですか?」

キョトンとなる。

「表情が冴えない。いつもより……元気がないように見える」

へっ? うそ? 精神的ダメージが顔に出てる?!

そのまま両手でペタペタと顔中を触る私。

「くっ……」

それを見て、ラルクが噴出した。

「いや、笑わなくてもですね……」

むくれてラルクを見上げる。

「すまない。ミカは感情が顔に出やすいからな。で。何があった」

笑いを引っ込めて、再び問われる。

う~ん、お団子食べそびれたって言ったら笑われるよね~。

って、そもそもそんなんじゃ誤魔化せないとは思う。


「……家に帰ったらですねぇ、生まれてくる姉の子供一色になっていて、なんだか居心地が悪かったんです。姉夫婦と赤ちゃんの世話をすることにウキウキしてる母親を見ると、私の入る余地がないっていうか」

手元のミルクのカップを見つめながら、今日思ったことを話す。

「ああ」

肯首し、先を促すように相槌を打つラルク。

「それに、アルバイト先……あ、仕事先ですね。仕事先でも、私の後任がもう働き出していて。なんだか私のいなくなった穴がすぐに埋められているんですよ。私の居場所がなくなりつつあって。……それが怖くて」

あれ? マグカップの模様が滲んできたぞ?

「……そうか」

「そうなんです。ま、それだけなんですけどね」

そこが重要だったりするんだけどね。

心配かけるのも申し訳ないので、ことさら何でもない風に言う。

眼を数回瞬かせて、目に滲んだものを誤魔化す私。

心が汗かいただけだよっ!!

それから、視線を上げてラルクを見たら、ばっちり目が合ってしまった。

そして、

「ここに、ミカの居場所があるだろう」

真剣に見つめられてますねぇ。

それ、昨日も言ってくれたよね。

「そうでしょうか? ただ、私はここで役に立っただけです。『村人』として受け入れられたわけじゃないです」

『流行り病から村を救った女神様』が、私のカタガキ。

しかも、『自分の意志』でここに留まっているわけでもない。

流され続けてここって感じ。

「『女神様』として、ここに受け入れられた。……そうじゃないのか?」

あー、違うんだよなぁ、そこ。

「そうじゃないんです。私はどうやったって普通の人間だから、能力以上のことはできないし、期待されても困るんです。そこなんですよねー」

「……」

「ま、私の努力が足りないからみんなに理解してもらえないんですよ。また、がんばります」

って、何をどう頑張ればいいのか不明だけどね☆

無理やり笑顔を作り、ラルクに向ける。

「別に、これ以上頑張らなくてもいい。ミカらしく振舞えばいいし、出来ないことはできないと言えばいい。村の者たちもおいおい理解していくさ」


ふわりと優しい笑顔になるラルク。


あ、反則。

弱っている時にその微笑みはすごい衝撃。キュンキュンしちゃうじゃないですかー。

思わず固まり、ぽかんとラルクを見つめてしまう。

「さ、今日も遅い。寝るぞ」

そう言うと椅子から立ち上がり、私の分のマグまで片づけてくれる。

まだ衝撃から立ち直っていなかった私は、ハッとなるとラルクを追って立ち上がる。

「ありがとうございます」

「何が?」

「話を聞いてくれて。それと、後片付けと」

今度は作った微笑みではなく、自然と笑顔になれた。

「ああ」

また微笑むと、ぎゅっと抱き寄せられた。


最近、スキンシップ過多ではありませんかー?

私をキュン死にさせるつもりでっかー?




次の朝。

朝の診療を始めようかという時間に、そのお客様はやってきた。


「ここが『泉の女神様』の診療所ですか?」


かっちりとした紺色の詰襟の上着を着、ボトムはタイトな白いスラックス。上着の上から臙脂のマントを羽織った男の人が、うちのドアを開けた。

村では見たことない人だし、すっごいカッコイイ服装だし。

まんま、騎士様って感じ!

栗色の髪は艶々サラサラ、無造作にかき上げたりなんかしたらお星さまがこぼれてきちゃいそう☆ 爽やか系のイケメンだ。

いや、そこじゃない。はて? 誰だ?

キョトンとしながら入り口を見つめる私とツインズ。

みんなの顔にはばっちり「アナタダレ?」って書いてる。

「……ドリイじゃないか」

固まる私たちを他所に、驚き顔のラルクが声をかける。


ラルクの知り合い?


また顔に出てしまったのだろう、ラルクが私を見ると、

「王都で騎士をしていた時の同僚だ。ドリイと言う。で、『女神様』に何の用だ?」

前半は私たちに向けて、後半はドリイに向けて話す。

「久しぶりだなぁ、ラルク! 国王陛下と魔女様が女神様の評判を聞きつけてね、ぜひ会いたいってさ。で、王都まで来てほしいから招待状を持ってきた」

無駄に爽やかな笑顔を振りまきながら、一通の封筒を取り出す。

ラルクが受け取り、中身を確認してから、

「……どうやらドリイの言うとおりだ。王都に来いと書いてある」

なかの書状を私に見せてくる。けどさぁ、読めないんですけど? さすがの『月の雫』にも文字の翻訳という機能はついていないみたいだ。

「ひぇぇぇぇぇ!」

またまたムンクな私。

そんな私に気付いて、ドリイが、

「あなたが泉の女神様ですか。ずいぶんおかわいらしい方でございますね」

にっこり微笑みながら私に声をかける。

このムンク顔を見てどこが『おかわいらしい』なんだろう?? 君の眼は節穴か?

この人、軽い人だわ~と見ていると、

「無駄口を叩くな。では、明日にでも参上すると奏上してくれ」

突然不機嫌モードに切り替わったラルクが、ドリイの体をくるりと回転させて、元来た入口の方へと押し出す。

「ちょ、ラルク! なんでいきなり不機嫌なんだよ? 明日だね? そう伝えておくよ。では、女神様、また明日~!」

押し出されながらも、こちらに笑顔を向けて手を振るドリイ。

あ、蹴りだされた。


って、ちょい待て。王様がなんだって? 魔女様がどうしたって? んでもって明日王都に行くってぇ???


今日もありがとうございました!(^^)

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