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泉の女神  作者: 徒然花
本編
20/79

三度(みたび)、満月

とうとう、こちらに来て2度目の満月。

先日、シェンロンと話をしてちょっと気持ちと折り合いはついたかな。

って、今月もリアルワールドへの凱旋は叶わないってことを確信しただけだけどねっ!

まあ、散々流され倒して抗わなかった私が悪いんだけど。

って、この考えすらも流されてる?!




今朝もいつも通りな朝を過ごしている。

まずは薬草摘み。

私がいない間に急な患者さんが出たら困るから、基本の薬だけは置いて行こうと思って。

作っておけば、シエルが何とかするだろう。彼女はそこまで成長している。


薬草採りに行く途中、

「今夜、満月だな」

横を歩くラルクが何気なく言うもんだから、聞き逃しそうになった。

あまりに普通に、普段通りに朝が来て日課の薬草摘みに出てきてしまったから『今月はまさかのスルー?!』と内心ひやひやしていたんだけど。

「そうですね。今日こそ帰してもらえるでしょうか?」

無駄な期待をしつつ、彼を見上げながら問う。

「……難しいだろうな」

眉間に少し皺を寄せて答えるラルク。

「やっぱりですよねー。そんな素振り、ちっともないですもんね」

ま、かなり諦めてたから、ダメージは少ない。

流され続けたツケだもん。

「……やはりミカは向こうに帰りたいか?」

前を向き、目的の薬草の自生しているところを目指しながらラルクが問う。

「……ええ。やはり自分の世界ですからね。いつまでもここでお世話になっているわけにもいかないですし」

ラルクは私を女神様なんて思っていないって言ってたから、帰ってもいいって思ってくれてるんだよね?

「こっちに、ミカの居場所はないか?」

前を見ていたラルクが、不意にこちらに向き直る。

「ほへ?」

突然だったので、おかしな返事しちゃったよ。

「ミカの居場所。家もあり、診療所もある。村人もミカを頼りにしている。」

はい。流され続けた結果でもあるんですがね。

「そうですね……。でも、馴染めているかと言えばそんな感じではないような……」

「そうか……」

ラルクは視線を前に戻しながらつぶやいた。

何が言いたいんだ? ラルク?? 私にはわからん……


それから後は黙々と薬草を摘んで帰った。




家に帰ると、村長さんが来ていた。


おお、村長さん、久しぶりだなぁ!! って、そう言えば捻挫してから家に籠っていたらしいから、久しぶりの外出かな?

「あれから捻挫はどうですか?」

患部を診ながら問診する。うん、大丈夫そうだけど。

「女神様の杖と、毎日届けてくださる湿布薬のおかげでほぼ完治しております。本当にありがとうございました」

にこやかに抱き付いて来ようとする。げげっ!!

「ぐはっ!!」

私が一歩後ずさるのと同時に、村長さんが変な声を出したなぁって思って見たら、後ろからラルクに首根っこを引っ張られていた。

グッジョブ! ラルク!! おっちゃんに抱き付かれても萌えない!!


「で、今日は満月ですけど。今月は帰してくれるんですよね?」

はい、ここ重要!

「え~~~え~~~~え~~~~とですねぇ」

マイクのテストじゃねーんだよ。

「今月もダメなんですか」

じと目で村長さんをガン見しながら言う。

最初から諦めモードっていうのもなんだけど、だってまだみんなに女神様じゃないって認めてもらえてないんだもんね。

「ええ、まぁ、そういうところで……」

汗を拭き拭き、村長さんが言う。

ま、分ってたことだけどね。

はぁ~、とため息をつきながら、

「帰るだけは帰してくれますよね? 私、やり残してきたことがあるんで」

ああ、諦めモード全開。流され体質も全開。

「戻って来ていただけるのですね?」

ウルウルお目目で念押しされる。

「……はい。戻ってきますから」

帰す気ないのはそっちでしょ。

「ありがとおおおおおございますううううう!!!」

……盛大に感謝されてもですねぇ……




夜。

また、村人総出で泉に向かう。


もう9月だからそろそろ夜は半袖だと肌寒いかなぁ?

水の温度は大丈夫かしら?

この儀式、まだ気温が暖かいからいいけど、寒くなってきたらやばくね?

リアルワールドからウェットスーツかなんか持ってきとこうかしら?

「ちょっと、冷たくなったかなぁ?」

ちゃぷ、と足先を水につけて温度を調べる。

ま、一瞬だ。我慢しよう。


「女神さま、大丈夫ですか?」

アンが心配そうに見つめる。

「大丈夫……だと思います」

「お待ちしております。お気をつけて」

シエルも、私の手を握り締めて心配する。

「ありがとう」

でもなんだか複雑な気分だよ……

「では、お願いしま……」

村長さんに向かってお願いしようとしたら。


「ミカ」


ラルクが声をかけた。

「はい?」

振り向くと同時に、抱きしめられた。

ひょっ?? どうした? ラルク??

「ちょ? ラルクさん??」

また慌てる私をさらにギュッと抱きしめなおすと、

「待ってる」

一言。

あれ? 帰ってこなくていいぞ、とかじゃないの?

まあ、帰ってこなくちゃならないのは約束だから、

「はい。わかりました」

素直に答えると、腕から解放される。


切なく見つめられる。

すごく甘い。

甘ったるいんだけど。


……村人みんなに見られてるんですけど……?


そこに居合わせた全員が、生暖かい目で見守ってるよ……


恥ずかしい!!

この場を乗り切るには……


ええい、さっさと飛び込もう!!

「村長さん!!! お願いします!!」

一声かけて、


どっぱーーーーーん!!


迷いもなく飛び込んだ。

村長さんは、満月の度に渋ります(笑)

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