タネ明かし
アロマ講習会が、とてもウケた。
診療所をしながら、時折アロマ講習会を開いたりすることになっちゃった……
2日の休診の後、また忙しい日々が始まった。
あまりに忙しいと、ラルクの機嫌が悪くなる。
私が疲れすぎないように目を光らせている。
疲れた顔したら、有無を言わさず強制終了、自室軟禁。
本当、最近過保護兄さんです。
「あー、これは風邪ですね。お薬出しますから、これ飲んで熱が下がるまで安静にしてくださいねー」
今日最後の患者さん。
普通の風邪の症状だ。
「シエルさーん、風邪薬をお願いします~」
「はーい」
シエルが『風邪薬』と書かれた瓶から、必要分だけ薬を取り出し、小分けにする。
それを、ぴっかぴかの笑顔付きで、
「お大事になさってくださいね」
と、手渡す。それだけでも癒されるというもんだ。
「ありがとうございました、女神様!これはほんの気持ちでございます。お納めください」
と村人は言うと、畑で採れた作物をアンに渡す。かぼちゃのような作物だ。
今が旬だそうだ。
「ありがたくいただきますねー。お大事になさってください」
アンやシエルと一緒にお見送りする。
ふう、今日も業務終了。
肩をコキコキと、まわす。ちょっとばばくさい?
すると、
「ミカ、早く休め。お茶を淹れた。」
と、ラルクにテーブルへと引っ張っていかれる。
暖かな湯気が、今日の疲れを癒そうと揺らめいて誘っている。
「ありがとうございます!早速いただきます!」
今日の仕舞いのお茶に、思わず笑みがこぼれる。ヤバ、締まりない顔しちゃったよ。
「ああ」
それを見てか、ラルクもふと、微笑んだ。
・・・・・・って、微笑んだ?!
笑ったよね?今、確かに微笑んだよね??ちょ、疲れてて幻視??
でも今の微笑み、あんまりレアすぎてなんだけど(いや、初物か)、すごい破壊力だよ?もっそいきゅんきゅんしちゃったよ?
「・・・・・・兄様、女神様ばっかり」
「ほんとほんと。女神様だけに甘いわよね」
「私たちなんてアウトオブ眼中よね、シエル?」
「そうよねー。私たちの分も淹れてくれてもいいのにね」
じと目でラルクを見ながら、ツインズがひそひそと内緒話をする。
初めて見るラルクの微笑みに乙女心殲滅状態の私には聞こえてなかったけど。
ごーりごーりごーりごーり・・・
夕食後、私は明日の薬を調合しだした。
「女神様のお薬って、数種類の薬草を混ぜるんですね?」
好奇心に満ちた目で私の手元を見つめていたシエルが言う。
今日のお片付け当番はアン。キッチンでいそいそと作業している。
ラルクは隣で私たちの会話を聞くとはなしに聞いている。
え?調合って、薬草使う時の基本じゃね?ここでは違うの?
「そーですよー。色々な効能の薬草を混ぜることで、高め合ったり相殺したりして、より効果の高い薬になるんですよー」
分けていた薬草を全部放り込み、すり潰す。
「へぇぇ、そうなんですねぇ。お婆さまのお薬はそのようなことをしていなかったような?」
あー、そういやお婆さまの薬は、なんだかあさっての方向を向いた感じだったものなぁ。
単品を使ってたのだったら、効能なんて知れてる。
いやむしろ、単品で使う方が珍しいか。
ああ、そうだ!
ここで流行り病を治したタネ明かしをしたら、特殊な能力なんてない、普通の人間だとアピールできるのでは?!
『魔法の力』ではなく、薬を調合する『知識』だったと!
よし!『ネタばらし大作戦』だ!!
そこで、私は薬を作る手を止め、
「あちらでは漢方と言ってですねぇ、色々な種類の薬草を混ぜて薬を作る学問が発達してるのですよ。こないだの、流行り病に使ったのはこれと、これと、これと……」
乾燥させて取り置いている薬草や、採りたての薬草を示しながらシエルにレクチャーする。
「これが発汗作用、これが鎮痛作用、これは咳止めですね。これとこれが副作用を抑える。そういう風に組み合わせていくと、目的の薬が作れるのです」
私の言葉を聴きながら、熱心に薬草を見つめるシエル。
「そうなんですね。組み合わせを変えたら効能の違うものになるんですか?」
薬草から視線を外し、小首を傾げて質問する。
おお!シエル!君はなんて呑み込みが早いんだ!!
綺麗なすらりとした指が、薬草の一つをつまみ、弄ぶ。
「そーですよー。それにね、その人の体力とか体調によってちょっとずつ量を変えたり処方を変えたりもするんですよ」
シエルは指につまんだ薬草をしげしげと眺めて、
「なんとも奥の深い学問なのですね!面白そうです。私も学んでみたいですわ!」
ラピスの瞳がまた輝いた。
シエルのラピスが煌めく時。それは大抵好奇心にあふれかえっている時なのだ。
しかし、
「またお前はミカに負担をかけようとする」
それまで黙って聞いていたラルクがおもむろに口を開いた。
シエルと同じ色の眼が、シエルを睨む。
でも、そんなことじゃあやっぱりシエルはひるまない。慣れかな?すげー。私、無理すー。
「まあまあ、ラルクさん。学びたいという気持ちは大事なことですよ?これから先、お婆さまにもしものことがあった時、どうするんですか?知識があるということは素晴らしいことですよ!」
ここは私が場を収めねば。兄妹喧嘩はダメですよー。
「さすがは女神様!!ほーら、兄様みたいにケチじゃない!」
私の腕に抱き付いてくるシエル。うわ、ちょ、かわいいよーーー!!
いやーん、お姉さん、デレデレしちゃう~~~☆
「シエル!!!」
地を這う声で、また睨んでくるラルク。
私の腕にぎゅーとくっついたままあかんべしそうな勢いのシエル。
「もう、喧嘩はなしですー!!!じゃ、明日から、少しずつやっていきましょうね」
ラルクとシエルのおかあさーん、ちょっと止めにきてくださーい。
確かに。
明日から少しずつやろうねって言ったよ?
学びたいという気持ちは大事だよ?
でもさ、あくまでシエルと私の話だったよね?
ただ今、10名ほどの奥様方がうちのリビングにいらっしゃる。
「家に帰った時に、ちょっと母に話したんですよ。『女神様にお薬の作り方を教えてもらうの』って。そしたら母がその話をいろんなとこで言っちゃったらしくて……」
私も私も~と、マダム達が押しかけてきたのだ。
「おーまーえーはー!!!」
拳をフルフル震わせてラルク、超ブリザード!!
さすがのシエルも小さくなってるよ。
金色の髪に覆われた頭のてっぺんしか見えないくらいに深く項垂れてます。
「まあまあ、ラルクさん。そうシエルさんを責めないでください。私なら大丈夫ですから、皆さんで楽しくお薬作りましょう」
またもや仲裁に入る私。おかーさーん、おかーさーん!!この中にいねーのかよ!
「まずは基本的な考え方から……」
私のレクチャーは始まった。
それ以来、入れ替わり立ち代わり奥様方が漢方を学びにやってくる。
リアル家庭の医学?
種明かしして、魔法でも何でもないことを証明するだけのはずだったのが、漢方講習会になっちまったよ……。
これがまた、奥様方に好評でさぁ。
「「「「これが女神様の治癒魔法の一環なのでございますねぇ」」」」って!!
ちょ、学問だっつったでしょーーー!!!
2012/2/29 誤字修正しました m( _ _ )m




