疲労回復には?
結局次の日も休診になっていた。
軟禁されてた日、来る村人ごとにラルクが「明日も休診」と告げていたそうだ。
結構過保護だなぁ、ラルク。
「女神様もお疲れになるんですねぇ?」
おっとりとアンが言う。
休診日だから、4人でのんびり昼間っからお茶なんかしてる。
久しぶりのゆっくりした空気。
「ほら、私ってば女神様とか神様じゃないし?疲れるんですよ。」
ここぞとばかりに主張する私。
ああ、やっとそこつっこんでくれましたか!!
「まあ、お休みもなかったですしね?お疲れも溜まっていたのですわね」
でも、シエルはまるっとスルーしてくれた。
まあ、ほんとに疲労で倒れたんじゃないから、ちょっと良心が痛んでしまうのはナイショでーす。
「こういう時には、アロマのいい香りで癒されたいもんですね~。」
ふう~。アンの淹れてくれたお茶を両手に持って、はふはふしながら飲む。
「「アロマってなんですか?」」
声をそろえて、ツインズが問う。
小首の傾げ方。角度がおんなじだよ?
ああ、そうか。『アロマ』ってリアルワールド用語だ。わかんないよね。
「えーと、アロマっていうのはですね~、アロマセラピーと言って、いい香りの薬草を乾燥させたり蒸留したりして、その香りを利用して疲れを癒したり、病を癒したりするものなんです」
アロマセラピーについて説明する。
今まで見てきたが、こっちにはそんな薬草の利用法はないみたいだ。
「まあ、薬草にそんな使用法があるのですね!知りませんでした」
アンがラピスの瞳を見開く。
「ぜひ、知りたいものですわ!教えてくださいます?」
シエルのラピスはキラキラと輝く。
「いいですよ~。今すぐ乾燥ハーブはできないけど、蒸留くらいはできますもんね。泉のほとりにラベンダーという薬草、あ、ハーブっていうんですけどね、が自生してました。採りに行きましょう」
基本のハーブだ。応用範囲も広いから、まずラベンダーをゲットしに行こう。
すると、今まで寡黙にお茶を飲んでいたラルクが、
「じゃ、行くか?」
と、腰を上げてくれる。
たった数メートルの距離だけど、必ずこうしてついてくる。
私が一人でふらっと出かけてラルクに見つかって睨まれるのは『面倒起こしやがって』と言うよりは『何かあったらどうするんだ』という心配から来てるのかなって思う。
あ、あくまでも私の主観だけど。
「はい、ラルクさん。お願いします」
私も素直に返事するようになった。ビビらずにね☆
ハーブをレクチャーするためにも、今日は4人で出かけることにした。
「これがラベンダーです」
ひとつを手に取ってアンとシエルに示す。
「まあ、ただの花だと思っていました」
手に取ったラベンダーをしげしげと観察するアン。香りを嗅いでみたり、いろんな角度から眺めてみたり。
「この辺りではよく見かける花ですもんね。ハーブと言う種類の薬草だったんですね」
自分でも摘んでみて、観察し、メモしたりするシエル。
「「いい香りですね!!」」
キラキラ満面の笑みを浮かべるツインズ。その笑顔だけでも癒し効果は抜群です☆
二人ともこの香りが気に入ったみたいだ。
私もラベンダーの香りは大好きだ。
この香りを嗅いだ途端にタイムトリップとかしたらびっくりだけどね☆
「じゃあ、摘んで帰りましょう」
手に持てるだけ摘んで帰る。
たくさん摘んでもできる精油ってほんのちょっぴり。
家に帰り、簡易の蒸留装置を作る。
蒸し器のような物の上に漏斗のようなものを蓋代わりにし、そこから出てきた蒸気を採取。冷却。
うん、まあ、こんなもんだろう。
精油とフラワーウォーターに分離していた。
こんな蒸留の実験なんて中学?高校?そんな時代の理科の実験以来だわ。
なんとか成功してよかったよ。
ちょっぴりできたそれを使って、アロマ講習。
「オイルに、さっき作った精油をちょっと加えて、マッサージすると、血行が良くなったり、リラックス効果が期待できます」
シエルの腕を取って、軽くハンドマッサージ。
「とっても気持ちがいいです」
アンも、オイルを手にとって、ラルクで実践。
が、
「オレはあんまりなんだけど・・・」
ちょっとしかめっ面のラルク。男の人、そんなにアロマとか興味ないもんね~。
「あら、実験台として我慢なさって?」
そんなしかめっ面のラルクにお構いなしのアン。貴女、意外に強いですね~。
兄の不機嫌なんのその~、ぐいぐいマッサージしてます。
「精油をアルコールで希釈すると、香水などができます」
試しに作って、ツインズにつけてあげる。
ここはやはり女子。
「とっても素敵な香りです!」
感激~な、アン。
「これは村で自慢してこなくちゃ!!」
シエルはそういうと、早速村へと繰り出して行った。
「お~~~い、シエルさーん、て、もういないよ・・・」
すでに閉じられた扉。
「シエルは行動早いからな」
ラルクが扉を見ながらぼそりと呟いた。
「そうなんですか。」
同じく扉を見つめながら応える私。
そーいや何かしら行動起こしているのはシエルだな。
「いつもそうなんですよー。軽はずみなことが多いのはシエルですね。父親似かしら?」
小首を傾げて、頬に手を当てながら呆れ気味に言うアン。緩やかな金髪が肩のあたりで揺れる。
その言葉にラルクもうんうん、と肯く。
あー。そうなんだ。村長さん似なんだ。
「ラルクさんとアンさんは似てますよね?性格と言うか?」
あ、無愛想じゃないよ?軽はずみとかそういうとこね。落ち着いてるっていうか?
「母似ですね。兄様と私は」
ラルクの方を見て、それから私に視線を戻しながら言うアン。
村長さんは嫌っちゅーほど会ってるけど、母親っていいう人には会ったことないな?
「そーいや、お母さんに会ったことないですねぇ?」
何気に言ったのに。
「いいえ?お会いしてますよ?」
「へ?いつ??」
「ほら、最初に泉から出てこられた時。あの時泉から引き上げたうちの一人が母ですよ?」
ふうん?
・・・・・・?
って、えええ?????!!!!
あの、肝っ玉母ちゃんズ(複数形)のどっちかぁ????
「ええええええええ!!!!!!!」
おーまいがっ!
今の私はムンクの叫び。
人は良さそうだったけど、美形とかそんな感じじゃなかったよ・・・?
どうやったらあの村長さんと肝っ玉母ちゃんの間にこんな美形兄妹ができるんだ??
DNAの不思議?!
なぜか不敵にラルクがニヤリと笑った。
そんな衝撃を受けつつ、すっかりシエルのことを忘れてた私たちだったが、しばらく後。
「あの~、女神様ぁ?」
おずおずと入り口の扉を開けて、それに隠れるようにしてシエルが中に声をかける。
綺麗な金髪が逆光に煌めく。
「あ、お帰りなさい、シエルさん」
3人で一斉に戸口に注目する。
「えっとですね、今、村で、香水のことを自慢してきたら、村の子たちが『私も教えてほしい!!』って言ってついてきちゃったんですけど・・・」
申し訳なさそうに言うシエル。
って、はぁ?今ぁ??
驚き固まる私の横で、
「シエル。疲れているミカにお前が負担を作ってどうするんだ。帰ってもらえ」
ラルクが怖い顔をしてシエルに言う。
あ、ミカって呼んでくれた!久しぶりの自分の名前!しかもイケメンが呼び捨て!
いきなり呼ばれたらキュンってしちゃうじゃないですかっ!!
・・・いや、今はそこじゃねぇ。
「だってぇ、断れなかったんですもの」
シエルが兄に食い下がる。
あー、女子の勢いって怖いもんあるからねぇ。
「いいから、帰ってもらえ。また過労で倒れたらどうするんだ。まだミカは疲れているんだぞ」
扉の方に近づきながら、ラルクは不機嫌オーラを醸し出す。
あ、ヤバ。
せっかく今日は機嫌よさげだったのに。
「私だったら大丈夫ですから、いいですよ?入っていただいて下さい」
不機嫌なラルクにビビりつつも、この場は私が何とかせねば!と慌てて声をかける。
あ、ラルク、睨まない!慣れただけであって、基本のチキンは変わらないんだから!
「また倒れたらどうする」
不機嫌オーラの中にも心配げな表情をする。
「ちょっとだけにしますから」
不機嫌オーラに負けじと頑張って、揺れるラピスの瞳を見上げる。
「本当だな?」
「はい」
ここは素直にお返事お返事!
ああ、でもやっぱり過保護になってるよ?ラルク。
「ということですから、少しだけ。シエルさん、入ってもらって?」
シエルに向かって促す私。
「ありがとうございます!!・・・みんな、いいって!どうぞ!!」
嬉しそうにシエルが表に向かって声をかける。
都合の悪い兄貴は無視ですね!
アンにしてもシエルにしても、兄に強いね~!
シエルに招かれて、5人くらいの村娘たちが入ってきた。
中には最初に流行り病の話をしてくれたミュウもいた。
今はすっかり元気そうだ。
それからしばらくアロマ講習会。
女子の勢いに呆れたのか、ラルクは自室に引き上げている。
今やすっかり女子会状態。
「・・・これがおおまかなアロマセラピーです」
アロマオイルの作り方、マッサージ、香水の作り方など、おおまかな流れをレクチャー&実習。
「まあぁぁ!」
「いい香り!」
各々感嘆詞を上げてくれる。
そして、
「「「「「これが女神様の癒しの力の源なのでございますねっ!!」」」」」
って!!
えええ???これも女神様の『力』になるんですかいっ??
アロマの話が長々となってしまいました・・・。
おかしいところ、スルーしてください!!(笑)
今日もありがとうございました☆




