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第3話 王子様への断罪③

 目を覚ました時にはもう、僕は奴隷(どれい)として競売にかけられることが決まっていた。


 肩書は犯罪奴隷(はんざいどれい)らしい。どういう理屈なんだろう。所詮(しょせん)はグレイヴ家の内輪(うちわ)粛正(しゅくせい)で、正式な裁判(さいばん)で有罪になったわけでもないのに。



「今日のうちに競売(オークション)か。このスピード感、ロザリア様も必死だな」



 グレイヴ卿が戻るまでに決着(けり)がついてないと不味(まず)いのか、賢者(けんじゃ)の石紛失(ふんしつ)後処理(あとしょり)に時間をかけたと王族(おうぞく)に思われたくないのか。多分(たぶん)両方だ。


 背筋(せすじ)を伸ばし、静かに歩いた。


 地下で開かれたオークションの会場(かいじょう)は、空気(くうき)そのものが気持ち悪かった。


 (あせ)(さけ)と、欲望(よくぼう)(にお)い。


 視線(しせん)が、(はだ)()めるように()い回る。


「ずいぶん若いな」

「顔もいい」

「ほら、姿勢(しせい)を見ろ。あれは仕込(しこ)まれてる」


 褒め言葉も、舌なめずりが混じっていては(よご)れて聞こえる。ただ、彼らのねっとりとした視線も、グレイヴ卿の気持ち悪さには遠く(およ)ばない。


 グレイヴ卿のような本物は、唾液(だえき)混じりの言葉なんかに(たよ)らない。無言(むごん)()めてくる。(ほお)や首に舌を()わせ、何を味わったか知らないが、満足(まんぞく)していた。あの時は、なるほどこれが『生理的に無理』というフレーズの使い所かと感心(かんしん)し、死ねと思った。


 奴隷市場(どれいしじょう)の客たちの噂話(うわさばなし)が聞こえてくる。



「知ってるか? 今日の競売(きょうばい)にはあのノクス・ネクロヴァルトが来てるそうだ」


「誰だ?」


「知らんのか。悪名高(あくみょうだか)き、六大名家(ろくだいめいか)異端(いたん)再生(さいせい)魔術師(まじゅつし)


「再生……? 善人(ぜんにん)らしい(ふた)()に聞こえるが……」


「他人を治癒(ちゆ)する力はあるだろう。奴はそんなことに使わんがね」



 突如(とつじょ)悲鳴(ひめい)が聞こえた。客同士(きゃくどうし)での()(ごと)があったらしい。


 腰まで届く黒髪(くろかみ)の男が、貴族(きぞく)のボンボンらしい男を()め上げていた。足元(あしもと)には、ボンボンの護衛(ごえい)(おぼ)しき二人の大男が(ころ)がっている。


 黒髪の男の左腕は、明らかに人間のものではなかった。黒い(うろこ)(おお)われている。

 何だあれと思っていたら、野次馬たちのざわめきが教えてくれた。



「あれは、(りゅう)の腕じゃないか」


「奴は自身の身体(からだ)魔物(まもの)死骸(しがい)(つな)ぐことができる」


「馬鹿な。そんなもの、癒着(ゆちゃく)するはずが……それどころか、つなぎ目が()んで死ぬぞ」


「死なない。再生の魔術師だからだ。奴は命の法を()()げてるんだ」



 じっと彼の背中を(なが)めていると、ふと彼が振り返り、目があった。



「あれが、ノクス・ネクロヴァルト」



 整った顔立(かおだ)ち。僕とは真逆(まぎゃく)の、女顔の男だ。


「……綺麗な人だな」


 けれど、その眼差(まなざ)しは(こおり)のように(つめ)たい。まるで視線でこちらを()すかのようだ――というか、あれ? こっちを見てないか?


 オークションの支配人(しはいにん)らしい片眼鏡(モノクル)の男が、()(あせ)混じりにノクスに近づいてきた。



「またトラブルですか。ネクロヴァルト卿。次は出禁(できん)と伝えたはずですが?」


「奴らがふっかけた」


穏便(おんびん)にやり過ごす(すべ)などいくらでもあるでしょう、貴方様ほどの魔術師なら」


「その子を」


「は?」


「その子を買う」



 ノクスが僕を(ゆび)さしてくる。



「ご冗談(じょうだん)を。今のご自分の立場を理解しておいでですか? 六大名家の当主(とうしゅ)様と言えど、暴力沙汰(ぼうりょくざた)を起こした方を、競売に参加(さんか)させるわけ……」


「買う」



 支配人が手を出すと、ノクスは金貨(きんか)を一枚()せた。



「いや、彼女は今日の競売品(きょばいひん)でして」

「今すぐ連れ帰る」



 ノクスが金貨を二枚重ねる。支配人が(つば)をのみ、その声が(ふる)える。



「お、お金で解決できる問題ではありません!」



 支配人がノクスに耳打(みみう)ちする。



「ここだけの話、あの娘は非売品(ひばいひん)です。グレイヴ卿の奥方のご希望で、どこぞの変態に売られたように見せかけつつ、秘密裏(ひみつり)処理(、、)する手筈(てはず)で……本当に売ってしまえばウチの信用(しんよう)()らいで……」



 声がでかいぞ支配人。僕の位置まで聞こえて大丈夫なのか、その話。


 ただ、肝心のノクスが、誰よりも話を聞いていなかった。



「連れ帰る」



 彼はそう言って、支配人の手のひらに金貨の雨を降らせた。

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