第1話 王子様への断罪①
「賢者の石が、盗まれました」
朝の紅茶がまだ冷めないうちに、ロザリア様が告げた。広間にいた十数人の使用人が、みな静まり返った。
「フィオレンティナ、そこに直りなさい」
僕はフィオと呼ばれることが多い。少年らしい見た目をしているから、中性的な愛称で呼ぶのが好まれるらしい。他の使用人たちも、当主であるグレイヴ卿もそう呼ぶ。ただ唯一、奥方のロザリア様だけが女性らしい本名で呼ぶ。
もちろん本名で呼ぶのがダメな理由なんてないけれど、そこにロザリア様なりの悪意があるのを、僕は知ってる。
僕は、ロゼリア様の指先が合図するのに導かれ、広間の中央に立った。
十数人いる他の使用人は壁際で見守っている。取り囲まれているかのよう。居心地が悪い。
「……賢者の石、ね」
大切なものらしい、というのは僕も知ってる。魔術師の六大名家の一角グレイヴ家に、王族が貸し与えた宝物であるらしい。
けれど、知ってるのはそこまでだ。魔術師じゃない僕にとって、グレイヴ卿やロザリア様が口にする賢者の石への言及は意味不明だ。確か、生命を固定し価値を等価で循環させる触媒……とか言ってたと思う。あまりにもわけがわからなくて、それ自体が何かの呪文に聞こえてしまう。
ロザリア様が口を開く。
「王族からの預かりものが消えた。学のないあなたたちも、ことの重大さは分かるでしょう?」
ロザリア様の視線は僕だけを捕えている。必然、みなの視線も僕に一点集中する。
「盗んだのは貴方よ、フィオレンティナ」




