白虎の騎士ヴィラン-6
白虎の騎士ヴィラン-6
帝都が赤く燃えている。ドラゴンの進行が帝国の中枢にまで及んだのだ。帝国の崩壊はもはや誰の目にも明らかであった。
ドラゴン達が、いつの間にか結束していた。ただ一人のドラゴンの元に。
オルドロス、ヴォルス、フローゼ、アルベスト、かつてその力を誇っていたドラゴン達はもういない。
ドラゴン達は、同族を倒してその力を吸収することで、飛躍的に力を高める。無名のたった一人のドラゴンに、4人は喰われたのだ。
ヴィランは目の前にいる男が、そのドラゴンであることを理解している。誰かに説明されたわけではないが、体中の全細胞がそう言っている。
強者と戦ったことは何度でもある。不死隊に入った直後に手合わせをした総隊長には、赤子のようにあしらわれた。その総隊長から一本取れた時の感動は忘れない。
オルドロスは強かった。何度も死ぬかと思ったけど、アイツとの戦いは楽しくもあった。
それらの経験が言っている。
俺は、この目の前の男には、絶対に勝てない。
これは次元が違う。
男は誰かを、大切そうに抱きかかえている。ミレリア様だ。見間違えようもない。
ヴィランは怒りのあまり、全身の体毛が逆立つのを感じた。
何ということだ、ミレリア様すら負けたのか。それなのに男には傷一つ無い。ミレリア様と戦って無傷などありえない。
怒りを鎮めつつも、ヴィランは冷静に状況を分析する。いや分析するというていで、諦める理由を探していたのかもしれない。
男は、ミレリアの亡骸を、大切そうに床に寝かせた。逃げるなら、今しかない。
「ミレリア様…」
ヴィランは思わず呟きつつ、縋るようにミレリアの亡骸を目で追った。その時にヴィランは見た。見てしまった。
ミレリアの死にざまの表情を。苦痛に苦しむのではなく、幸せそうに微笑む、その笑顔を。
ヴィランはこれほどにまで幸せそうな、ミレリアの表情を見たことが無かった。笑ってはいても、いつもどこか寂しげ、それがミレリアの笑顔だったのだ。
「何故だ・・・」
ヴィランの喉から、思わず声が零れ落ちた。
この男は敵なのだ。ドラゴンども支配者、帝国の宿敵。なぜその男に、そのような顔を見せるのか。
この男はいったい何なのだ?なぜそいつには、俺はしてくれなかった笑顔をくれてやるのですか、ミレリア様!!!
恐怖、怒り、冷静さ。ヴィランの中の三つ巴の均衡を崩したのは、嫉妬だった。
・・・・
体中の全細胞から、制御が失われていくのを感じる。どだい、最初から勝ち目のない戦いだった。いや、戦いであったのかすら、怪しい。
うつぶせに倒れたヴィランは、霞ゆく目でミレリアの亡骸を見つめ続けた。
男は再び、ミレリアを抱きかかえた。とても大切そうに。
どうして俺じゃないんだ。どうして俺じゃなくてアイツなんだ。
教えてください、ミレリア様!ミレリア様!
ちくしょう、ちくしょう。なんなんだよお前、ちくしょう。
ちくしょう、返せ!俺たちのミレリア様を返せ!
返せ!俺のミレリアを返せ!
ちくしょう!どうして?ちくしょう!どうして?
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!




