私はこんなにも
「うちのダンナ詩集」の一篇です。夫が他界して5年と2ヵ月。
私はこんなにも
あなたの赦しを待っていた
夢に現れたあなた
死んでいるあなた
生きている私
抱き合って昼の光の中
「ここに居て、ずうっとここに居て。
私が死んでから一緒に逝こうよ」
あなたは私にしか見せなかった
リラックスのふにゃけた笑顔
あなたは私の頭を胸に押し付けた
「俺が死んだら日本に帰ると言ったくせに」
あなたは面白がってる
あの日あなたの病床での質問に
あなたの家を守ると言えなかった私を
からかうように
あの時の、私の返事はこうだった
「日本に帰る。
だってあなたが居るからこそここに居るんだから。
頼むから居なくならないで」
私の懇願も死ぬと判っていたあなたには
薄っぺらに聞こえたのだろう
淋しそうに天井を見た
今私はここに居る
ちゃんとあなたのおうちに居るよ
それを見届けに来てくれて嬉しくて
私は夢のあなたの腕の中
「何かチクチクする」
とあなたが私の頭を離すから
今度はゆっくり体重をかけずに
胸に頬擦りしてみた
ああ、やっぱりあなたは笑ってる
瞳を見つめて
もうひとつの悔いを口にしてみた
「私が仕事に行かなくて失望したって、
結婚してガッカリしたって言ったよね?
ごめん、もっと頑張れたのに、あなたに甘えた」
「そんなこと言ったか?」
わかってる、これはウソだ
私の夢が都合よく
優しい言葉を吐いてるだけ
だとしても
私はあなたと寝たベッドの上で
ぱあっと明るく目を醒ました
持病の発作に出勤できなかった朝に
あなたが赦しをくれた
ずうっと心にかかっていた後悔を
灌ぐ機会をくれたんだ
赦されたとは思えない
生死の境を超えて
私の言葉が届いた確証はないから
そんな相反する思いを抱えながら
私は窓の外の秋を見る
優しすぎるあなた
家の中でも
空の上からでも
どうか見守っていて
5年と2ヵ月
あなたは不在なんかじゃない