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アンナと母親(4)


初めての休みの日、寮の管理者からセイルさんが来ていることを伝えられて、私は身だしなみを整えてから部屋を出た。


寮から出ると、セイルさんは門柱にもたれかかっていて、俯かせていた顔を照れ臭そうに私に向ける。


目が合って笑いかければ、セイルさんは体を起こし照れた顔のまま無言でつかつか歩いてくると、手を取られ早々に家に移動した。


間髪入れずに後ろから抱きしめられ、首元に顔を埋めてくる。熱い抱擁に驚くも満更じゃない気持ちになり、私は両手をセイルさんの腕に押し当てると、ニヤけながら喜びの声を上げた。


「たまには距離を取るのも悪くないですねっ!」

「……どうやら寂しかったのは俺だけのようだな……」


不貞腐れたようにセイルさんは耳元で呟いた。

私は口元ががだらしなく緩みながら、手を左右に振った。


「いえ! 私も寂しかったんですが、まさかこんなに会えたことを喜んでもらえるなんて思ってなかったので……得した気分です!」

「俺は一年を損した気分だよ……」

「だけど、これから先もずっと一緒にいられますから、一年なんてあっという間ですよ!」

「あっという間なら、もう今日で終わりでいいだろ……」


セイルさんは私を抱きしめる腕に力を込めて、弱音を漏らす。

まだ数日しか経っていないのに、ここまで落ち込んでもらえるなんて。

悪いと思いつつもやっぱり嬉しくなる。


一緒に住んで三年は過ぎてるので、急に別れが来て寂しさに慣れていないのだろう。


だからきっと、数カ月もしたら――この抱擁はなくなるのかもしれない。


そう思えば今だけの特別な期間なのかもしれない――。(※と思っていたが、仕事を辞めるまで続いた)


暫くの間幸福を享受していたが、セイルさん以外にも久しぶりに会いたい子たちがいるので、私は口を開く。


「それじゃあ、私はベルやマユケたちに会ってきますね」

「……」

「あのセイルさん?」


私は暗に、腕を離して欲しいとお願いしているつもりなのだが、セイルさんは一向に抱き締めるのをやめない。

戸惑っていれば、セイルさんは恥ずかしそうに小さく囁いた。


「今日はずっと引っ付いて過ごすつもりだ……」


嬉しい。嬉しいけど……歩くのが、大変だ。

恐らくセイルさんも大変だと思う。

試しに動いてみるが、頑張っても半歩ずつしか移動できない。


「あの、少し! 少しの間だけ離してもらえませんか!? このままだとベルたちのもとまで行くのに時間が掛かっちゃいますよ!」

「……やっぱり寂しいのは俺だけのようだな……」

「あー! もう! 私も寂しいですよ!」


愛おしさが溢れ、私は顔が熱くなりながらセイルさんが回している腕を手でぎゅっと握った。


それから今日一日はできる限りセイルさんの要望に応えて過ごした。

ベルもマユケも鶏たちも元気そうで、私に会えたことを喜んでくれていた。


そして、寮に帰る時間が近づいてくるとセイルさんは正面から私を抱きしめた。


「ま、まだ……あと五分ある……! ギリギリまで大丈夫だろ……!」


セイルさんは抵抗と言う名の駄々を捏ねている。

とは言え、ここまで引き留められるのは正直嬉しい。


抱きしめ返して五分経って、私がセイルさんに「五分経ちましたよ」と優しく声を掛けて体を離せば、セイルさんは傷つき打ちのめされた表情で私を見た。


すると、なんだか外が騒がしい。

窓の外をチラリと見れば、窓に雪が打ち付けられている。


ふ、吹雪いている……!


前にセイルさんの気分によって気候が変わると言っていたけど、この吹雪は私が帰るから……!?

 

先ほどまでは春のような暖かさだったのに、庭先の光景が慌ただしい。


「あ、あのセイルさん! 外、吹雪いてます!」

「……あ? ああ……そういやぁ……最近ずっと……吹雪いてるな……」


私が指を指して訴えれば、セイルさんは落胆しながら虚ろな目で外を一瞥して、興味なさそうに空返事した。


こ、これじゃあベルとマユケと鶏たちが寒い思いをしてしまう……!


「セイルさん。次の休みも一緒に過ごしましょうね!」

「……!」


私が笑いかければ、セイルさんは口を噤みながら嬉しさを噛み締めるように頬に赤みがさした。


外の騒がしさが静かになり、窓を見れば張り付いていた雪は溶け、温かな白い日の光が室内に差し込んでいた。


いや、時間的に日が暮れているのだけれど……! 私がいない間だけでも、魔法を解除したほうがいいと思う……!


私は休みの日はできる限り、セイルさんと過ごすことを心に決めた。


·

·

·


働いてから三ヶ月が経つと、オバさんも周りに段々と心を開いたのか、よく喋るようになってきた。

もともと性格のいい人ではないので、内容は――私的には面白くないものだが、似た者はどこにでもいるようで、気が合う人とよく会話をしていた。


私にも友達が出来た。

マーガレットという同じ年の女性で聞けば姉弟が多くて家に仕送りをしているらしい。

性格はしっかりしていて明るく、話していてとても楽しい。


休みの日にお出かけの約束をして、セイルさんに事情を話せば、軽いキスだけを要求され納得してくれた。


そして休みの日になり、マーガレットと街で店をぶらついて見て回ったり、安価なホットドッグを買って店先のテーブルでお喋りした。


「マーガレットは家に仕送りまでして、偉いよね」

「家族間の仲が良いから、私も協力しようと思えるのよ。アンナの母親が私の親だったら、家に仕送りしてないわ。……よく考えたら、アンナの方が母親の面倒みて偉いじゃない」

「オバさんのためじゃなくて、どちらかというと妹のためなの。あの人、お金ないと妹に寄りかかろうとするのよ」

「初めて挨拶した日にも思ったけど……どうしようもない人なのね」

「あはは。性格が変わることはないと思うから、私としては取り敢えず働いてくれたらそれでいいかなって」

「まあ、最初よりは働く意志が見えてきてるわよね。相変わらず文句は多いけど。――オバさんが早く独り立ちするといいわね?」


マーガレットが冗談っぽく同意を求めてくる。

彼女が私を真似てあの人を、オバさんと言ったことがおかしくてクスクス笑った。

久しぶりに年の近い子と一緒に過ごすのは新鮮で胸が弾んだ。





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