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アーティカとの和解(前)


アーティカさんの住んでいる大陸は砂で覆われているのが特徴で、私が住んでいる地域より太陽の日照りが強くて気温が高い。


彼女は大陸の中でも栄えている街に住んでいるようで、セイルさんと赴けば、街は大きなオアシスに隣接して造られていた。


日干しレンガで建てられた四角い建物が並び、日焼けした肌に、露出の多い服を身に纏った人々がすれ違う私たちの服装を物珍しそうにしている。


明らかに目立っていて、居た堪れなくなってしまう私に対し、セイルさんは特に気にしていないようだった。


「暑くないか?」

「大丈夫です」


魔女になったせいか体は暑くない気がするが、日照りは暑いと意識的にあるせいか暑い気もしてしまい曖昧な感覚だ。


アーティカさんは街の中心の大きな神殿を拠点にしていて、足を運んでみれば建物の前に門衛がいて、セイルさんが名乗るだけで通された。


大きな広い間の奥に、縁が金の白い豪華な台座があり、アーティカさんは大きなクッションを下にし、座ってこちらを見ていた。


台座の側には黒髪の二十代くらいの女性が頭を伏せて控えている。

台座に近づくと、私は笑顔で挨拶した。


「お久しぶりです、アーティカさん」

「ええ。久しぶりね。……」


アーティカさんは軽く返事を返すと、セイルさんに目を向けた。以前のように怖がったりはしておらず、なんだか複雑な目を向けている。セイルさんは睨むわけでもなく、ただ真顔で見つめ返している。


アーティカさんはセイルさんから顔を逸らし、私の方を向いた。

台座に置いた大きなクッションに寝転ぶと、顔の下で手を組んだアーティカさんはジト目で私を見据えた。


「……話はマージから聞いているわ。魔女になったんですってね、貴女」

「は、はい」


少し機嫌が悪いのか、微かに発言が刺々しい。アーティカさんは息をつき、閉眼すると足をブラブラと遊ばせながら再び話し始めた。


「別に文句を言うわけじゃないけど……良いわねぇ貴女は。魔女になったとしても他人から恨まれることなんてないのだから」


口をとがらせてアーティカさんは、ぶつぶつと不平を言った。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。


どうしていいか分からず私が苦笑いを浮かべれば、セイルさんがアーティカさんから顔を逸らし、諦めたようにため息をついた。


「アンナを魔女にした手前、お前のことを考え直そうと思っていたが――どうやら無駄足だったみたいだな。帰るぞ、アンナ」

「でかしたわっ!」


アーティカさんは力強く叫ぶと、勢いよく飛び起きて台座を飛び降り、私のもとへと走ってきた。そして両手を取ると、明るい笑顔を見せた。


「アンナだったわね! 魔女になったこと、歓迎するわ! 私は貴女の先輩みたいなものなのだから、分からないことがあったら何でも訊いていいわよ!」

「は、はい。ありがとうございます……」


一転して気分を上げたアーティカさんは分かりやすく都合の良い人のようだ。


「洋服暑くない? 折角ここに来たんだから土地柄にあった洋服に着替えましょうよ。ナジャー、アンナに服を用意してあげて」

「分かりました。アンナ様こちらに」


アーティカさんの頼みに、台座の側に控えていた女性が通路に繋がる場所を手で示す。

私はアーティカさんに確認する。


「いいんでしょうか?」

「ええ。構わないわ。どんな服がいいのか希望はある?」

「あまり目立たない服がいいです」

「可愛い服じゃなくて? 変わってるわね。まあ、いいわ。ナジャーお願いね」

「はい。分かりました」


私はナジャーさんのあとについていく。

セイルさんとアーティカさん二人きりになるけど、大丈夫かな?


案内された場所は客室のようでクローゼットやベッドなどが置かれていた。

ナジャーさんは私のサイズを確認すると、部屋から出ていき、しばらくして洋服を手に持って戻ってきた。


「お手伝い致します」

「え? い、いえ! 一人で着れるので大丈夫です」

「そうですか? 何かあれば気軽におっしゃってくださいね」


ナジャーさんは一礼してから部屋を出た。

私は服を脱いで渡された服を着ようとしたが、上の服の丈が短いような気がした。


取り敢えず着れなくはないので着てみれば、上の服は胸を隠すだけの役割しかなく、上からシースルーだけのノースリーブを着るが肌を隠せておらず、露出が目立つ。下はバルーンパンツなので問題無さそうだ。


私は本当にこの服でいいのかと不安になり外にいるナジャーさんに声を掛けた。


「あ、あの……この服……」

「サイズは丁度良さそうですね。さあ、(あるじ)のところに戻りましょうか」


ナジャーさんが見るには変な所はないらしい。

彼女も似たような服を着ているので、これがこの地域では一般的なのだろう。


しかし、私は普段見せることがない部分が曝け出されているので羞恥が芽生えてしまう。


下で手を組み合わせ、前を隠しながらアーティカさんのもとへと戻れば、アーティカさんが明るい声をあげる。


「よく似合ってるじゃない!」

「あの……少し露出が多くて恥ずかしいんですけど……」

「あら? そうなの? この辺では普通だから、貴女が思ってるほど皆気にしないわよ。時期慣れてくると思うから、我慢しなさい」


確かにこの街に足を踏み入れた時、女性は露出が多い服を着ていた。

寧ろ私の服が厚着すぎて物珍しそうに視線を向けられるくらいだ。


目立たず溶け込むには必要なことなので、アーティカさんの言うように我慢するしかないようだ。


恥ずかしながらセイルさんをみれば、私の姿を見て絶句しているようだったが、ハッと我に返ると顔を赤くしながら首を振って怒鳴った。


「だ、駄目だ駄目だっ! そんな露出した姿で外を歩かせられるか! 他に、他に服はないのか!?」

「ええ!? ナ、ナジャー! 布地が多い服を持ってきなさい! 今直ぐに! 今直ぐによ!」

「で、ですがっ! 布地が多い服は身分が高い服になりますので、逆に目立ちますよ?」

「いいからっ! セイルの言う通りにするのよ! 折角のチャンスを些細なことで潰したくないのよ! 私は!」

「そ、それではアンナ様こちらにどうぞ」

「なんだか手間を取らせてしまってすみません……」


再び部屋に戻った。

洋服ひとつで騒ぎ立ててしまって、申し訳ない気持ちになった。


次、用意されたのはベアトップの丈の長い白いシフォンドレスで水色の刺繍が入っていて可愛らしい服だった。


「アンナ様、こちらはお手伝い致しますね」


ナジャーさんの敬称に私は落ち着かず、声を掛ける。


「あの、様なんて呼ばれるほど私は偉くないので、気軽にアンナって呼んでください」


しかも、ナジャーさんは見たところ私より年上なので恐縮してしまう。


「ですが、アンナ様は魔女なんですよね?」

「い、一応そうなっていますが……」

「なら神様のようなものなので、敬わなければなりません」

「か、神様ではないですよ」

「いいえ。(あるじ)を含め、根源である魔女様たちは神様なんですよ」

「え?」


私が首を傾げると、ナジャーさんは着衣を手伝う手を止めることなく語りだした。


「この世界を作った創造主の代理人として、アーティカ様たちは人の地へと降り立ってきたのです。そんな彼女たちの魔力を貰ったセイル様とアンナ様は、神様からの寵愛を受けているのですよ」

「そ、そんな話初めて聞きました」

「この地域では神様を信仰しているので、周知の事実ではありますが、他の地域だと魔女様たちは……残忍さが目立っているので崇めるというよりは畏怖されていますね」

「確かに……私の地域でも畏れられていました」


神様、か。言われてみれば確かに全員が神秘的な雰囲気がある。


だけどやっぱり、私の地域では畏れられている話の方が語り継がれているので、魔女と魔法使いの方がしっくりくる気がする。


ナジャーさんは落ち着いた口調で話を続ける。


「人から魔法使いになられたセイル様も、六百年以上生きているので、(わたくし)たち人とっては神様のようなものですね。そしてアンナ様もいつか神様として、崇められることとなるでしょう」


うーん……私が神様として崇められるのは違和感しかない。

ミラさんにも人じゃないことを指摘されたが、何百年生きようが人として見られたいと思う。


とはいえ、なんだか貴重な話を聞けて良かった。






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