四天王、今出来る事を考える
何とか姿を隠して落ち着けそうな場所に全員で身を潜め、輪になって相談を始める俺達。
一刻も早く魔王様をお救いしたいと主張するジン・レオン。それに対し、出来れば冥府魔法を阻害する魔道具等を用意したいと言うビオレッタだが、そういった護符とかお守りとかは外の大陸の教会とかに行かないと手に入らないらしい。
いっそ軍隊を連れて来ようかという話も出たが、濃い瘴気や即死魔法であっさり全滅、更に操られて死に損ないの軍団にされてしまうのがオチだろうという結論に。
「あっちのエボニアムは全然平気そうだったけど、ブラックドラゴンってのは瘴気に耐性が有るのか?」
と、俺が率直な疑問を口にする。
「ブラックドラゴンにとって、瘴気は栄養だよ。平気どころか、あの環境の下ではブラック先輩は絶好調だろうね。多分あの魔法が無くても今の先輩には誰も勝てない、ここに居る全員で掛かってもね。」
対してジュウベイが、あまり愉快で無い情報も込めて答えてくれる。
「…となると、魔王様に瘴気を出すのを止めていただくのは必須って事だな。」
俺がそう、達した結論を口にするが…。
「魔王様と意思疎通をする手段が無い。あのエボニアムが邪魔だし、それが無くても魔王様に物理的に近付く事も出来ない。念話での通信も試みたが魔王様の心の波長が高次元過ぎて無理だった。」
ジンが即座に異を唱える。
「それに、瘴気の放出を一時的に止めてもらったとして、その後はどうするの? 瘴気は魔族にとっては必要でしょ? ミドナ火山、枯れちゃったって言ったわよね。」
「ああ、もはや死火山…という事の様だ。」
ビオレッタの疑問に対し、ジンがそう答える。が、ジンの言葉の中の或る単語に俺はちょっと引っ掛かりを覚えた。
「…奴は…、ブラックドラゴンは、"死"を司るのが最大の能力だって言ったよな。」
とりあえずドラゴン事情には一番詳しそうなジュウベイに質問を投げる俺。
「ああ、そうだけど。」
ジュウベイ肯定。
「その…、まさかとは思うが、その力で活火山を"殺して"死火山にするなんて事は…、さすがに無理だよなぁ。」
俺のこの質問にちょっと考え込んだジュウベイだったが…、
「…竜神であればそれも可能かもしれない。」
何と! 突拍子もないと思った俺の考え、肯定されてしまった。そしてこの会話を横で聞いていたジンが目を剥く。
「おいまさか…、お前はこう言いたいのか、ミドナ火山を死火山にしたのは、そもそもエボニアムの仕業であると⁈」
「その可能性も有るって事に…、なっちゃうかなぁ…。」
と、俺。
「ちょっとまさかでしょ⁈ あぁでも、1000年近くも活動を続けていたと言われるミドナ火山がこの数十年で突然死火山なんて、確かにちょっと不自然だわ。そう考えちゃうとこの状況、心象は真っ黒ね。」
ビオレッタがそう見解を述べると、やおら立ち上がり、怒りに震え出すジン。
「もし…、もしそれが本当だとしたら絶対許せんっ、魔王様に対する、そしてこの大陸に生きる全ての魔族に対する裏切り以外の何物でも無いではないかっ!」
激昂して今にも飛び出しそうなジン・レオン。
「気持ちは分かるわ、わたしも少なからずキレてはいるわよ。でもまずは落ち着きなさい。有効な手立てが無いっていう状況をどうにかしないと。」
そんなジンをビオレッタが宥める。ワナワナと打ち震えながらも、一旦腰を下ろすジン。
「考えるべきはどうやって魔王様と意思疎通するかよね。あなた、魔王様と念話を試みたって言ったわよね。全然通じなかったの?」
「ああ、相手の存在があまりにも高次元だった場合は相手側が心を開いて下さらない限りこちらの念は届かない。今魔王様の意識は絶えたまま完全に閉ざされている。私程度の語り掛けには答えて下さらない。」
ビオレッタの問いに、苦しそうに答えるジン。
「あなたはどうなのボニー、魔神なんだから神に準ずる高次元の存在とも言えるでしょ? 」
「いや…、念話はやった事無いな…。」
念話に関しては今迄受け身オンリーで、自分から語り掛ける方法がイメージ出来ない。第一神の本質が"意識"の方だというのであれば、アバターであるこのスペアの肉体にパンピーの意識が宿っただけの俺は、高次元の存在とは多分言えない。それよりはむしろ…、
「だったら本物の神様に頼んでみたらどうかな?」
俺がそう提案するが、ジンとビオレッタは明らかに(何言ってんだコイツ)の顔。
「どこに居るのよ神様なんて、ここは"魔大陸"よ!」
「真面目に考えろっ、何処の神様に魔王を助けに来て下さいとか頼むつもりだっ、それとも何か、お前には神様の知り合いでも居ると言うのか!」
ビオレッタとジンからの突っ込みの嵐に晒されながら、俺はどう説明するべきか悩んで沈黙していたのだが…。
「まさかあんた、勇者パーティーに頼もうとか思ってるんじゃないわよね?」
「なっ、ゆ…⁈」
ビオレッタの口から飛び出した思いもよらぬ単語に思わず口あんぐりのジン。
「確かに連中のところに神様らしき存在を託しては来たわ。あの神様、あんたが救い出したようなもんだしね。でもあの勇者共、あんたに恩義なんか感じているようには見えなかったわよ。」
「それはまぁ、連中は神様があんな状態になった事自体俺のせいだと思っているしね。交渉は…難航するだろうなぁ…。」
「当たり前よっ、そもそもあの連中のこっちへ渡って来た目的が"魔王討伐"なんでしょ? そんな連中に魔王様を助けてとか頼もうって言うの⁈ 聞く訳無いじゃない! 」
そんな俺とビオレッタの会話が理解出来ず、俺とビオレッタの顔を順番に見比べているジン。
「いや、俺が助けを求めようとしているのは、勇者パーティーと言うよりは、神様本人に…だな。」
「は? 余計接点無いでしょ。ずっと寝てたじゃない。」
「根拠については俺もはっきりとは言えない。だが、力を貸して貰える気配は有るんだ。」
俺のその答えに、身を乗り出して来るビオレッタ。
「気配? どういう事?」
「現に昨日、クリムを救う手助けをしてくれたのは、あの神様だった。」
「クリムって…、あのハーフの娘さん?」
クリムの名が出て、それまで成り行きを見守る態勢だったジンが腰を浮かす。
「あれはっ、あの神の奇跡は、本当の神の奇跡だったのか!」
「うん、あの時確かに神様の声が聞こえたんだ。"願いを聞こう"ってね。」
さっき迄の少し馬鹿にした空気はどこへやら、俄かにざわつくジンとビオレッタ。
「でも、さすがに"魔王を助けてくれ"なんて願いを聞き入れてくれるかしら?」
「いや、もうこうなったら駄目元だ。その"神"とやらに賭けてみるしか無い! …我が人生で神に祈る時が来ようとは思わなかったがな。」
一度決断したら行動は早いジンは既に出立の構えだ。懐から何かの小道具を取り出すと、何やら唱えた後、自分の胸に当てる。するとそれはいきなり帯状に伸びてたすき掛けの様な形になったかと思うと、更に背中の方が大きく伸びて、気付けば黒い翼状に広がっている。
「わ、それ、フライト・ユニットじゃない、超高いのに使い捨てのやつ、お大尽ねぇ。」
「いざという時用に持っていたものだ。今使わなくて何時使う! で、何処へ行けばいい⁈ 」
ビオレッタの突っ込みを意にも介さず鼻息の荒いジン・レオン。
「えっと…、あそこでいいのかしら?」
「あそこ以外心当たりが無い。それ程日数も経ってないし未だ近くに居るんじゃないか?」
すっかり前のめりなジンに追い立てられるかの様に、目的地を定めて飛び立つ俺とビオレッタ。ジンはその後にぴったり付いて来る。やや遅れてジュウベイ。ネビルブは俺の懐で大人しくしている。
「いやもう、四天王にドラゴンに勇者パーティー、そこへ今度は神様ですクワ。さすがのアタシも場違い感に身が縮む思いでクエ。」
と、らしくもなくしおらしい。正直そこは俺も全く同感で、この話のでかくなり方には少なからず気後れはしている。そんな中、ひとえに今この場面で俺には出来る事が有るという想いから、かなり虚勢を張って行動しているのは事実だ。逃げ出したいという気持ちは常に心のどこかに有る。だけど…、俺の逃げ場、昨日四散して無くなっちゃったんだよなぁ…。