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#2


「…門手くん?手紙、みたよ」


 校舎裏には、手紙の差出人である門手(もて) (てる)が、背中を向けて立っていた。

 夕陽が彼の輪郭を照らし、影が長く延びている。冷たい風が吹き、木々の葉がカサカサと音を立てる。

 名前を呼ぶと、彼はゆっくりと振り返る。


「来てくれたんだ、木美月(きみづき)さん」


 門手くんの顔には緊張が浮かび、その拳を強く握っていた。

 その顔を見て心臓が一瞬だけ跳ねた。まさか、彼はわたしに告白しようとしているのかな?そんな考えが一瞬頭をよぎった。


「木美月さん、俺と…」


 その声はかすかに揺れているが、目はわたしにまっすぐ向けられている、ドキドキと胸が高鳴り、息を飲んだ。

 そして突然、深く頭を下げた。


「…俺と!可愛(かわい)さんの恋を手伝ってください!」


「…へ?」


 想定外の言葉に考えが固まってしまった。

「門手くんが薫のことを好きなの?」と疑問が頭の中でぐるぐると回り始めた。


 固まって喋れなくなったわたしの代わりに、声を出したのは彼だった。


「…可愛さんを一目見た時、すごくかわいいと思って、それから何度か話してみて、自分の気持ちに気づいたんだ」


 深呼吸をするように一度息を整えた。

 そして、わたしの目をしっかりと見つめながらも、言葉を探して話す様子、声、それは真剣そのものだった。


「彼女と話すたび、どんどん好きになっていった。彼女の笑顔や声、ちょっとしたことが、頭から離れなくなった。好きだったわかったんだ」


「…えっと」


 言葉が出てこない。彼の気持ちはわかる、つもり、好きなのが薫じゃなかったら喜んで協力するのに、なんで薫なのかな。


「その…門手くんの言ってることはわかる、けど…考える時間が欲しくて…明日また話そう?」


 そう言って連絡先を交換し、逃げるように帰った。ちゃんと話せてたかもわからない、わたしはどう答えればよかったかな、家に着くまで冷静にはなれなかった。


 家に帰るとすぐベッドに沈むように倒れた。空を見ればすでに太陽は沈み、厚い雲が空を覆って星一つ見えなかった。


 わたしはどうすればいい…昔みたいに、女同士の恋は笑われるかな…


「好きだよ、薫」


 休みの日に、門手くんを駅前のカフェに呼出していた。窓際の席に案内され、外の景色をぼんやりとしながら眺めながら、注文したカフェオレを飲んでいた。

 店内には穏やかな音楽が流れ、周囲のざわめきが心地よい背景音となっていた。


 しばらくすると、彼が道を歩いてくる姿が見えた、小さく手を振ると気づいたようで彼も小さく手を上げた。

 カランコロンと店のドアが開き、照が入ってきた。わたしが座っている席を確認し、緊張した表情でこちらに向かって歩いてきた。


「遅れてごめん、待った?」


「大丈夫だよ、何か頼む?」


「…じゃあ…そうだな、木美月さんは?」


「頼んだから大丈夫」と断れば、店員を呼びクリームソーダを注文した。

 クリームソーダがくるまで、他愛もない話をする。


「いい雰囲気のカフェだね」


「いいでしょ?わたしここで本読むの好きなんだ」


とか、


「カフェの場所はすぐわかった?」


「ちょっと迷ったよ、こっちの方まで来ることないからさ」


 とか、関係のない途切れ途切れの話ばかりする。彼は来たけど、なかなか本題に入ることができない、

 わたしが本題に入らない方が楽かもと考えたとき、一瞬店内の音楽が途切れた、ふたりの静かな時間が際立つ。音楽は流れ始めたが、会話は渋滞した道路のように流れが止まっていた。


 その沈黙を終わらせたのは、お待たせしました、と机に置かれたクリームソーダだ。

 ありがとございますと受け取ると、一口飲む。おいしいと言い満足そうに軽く微笑んだ。


 その後は、薫に関する話をはじめた、わたしと薫で話すことや、小さい頃の薫の話。


「ははは、可愛さんのことはすらすら出てくるね、さっきまでが嘘みたい」


 彼が笑いながら言うと、わたしは少し恥ずかしくなり、目を逸らしてカフェオレを飲む。

 私たちの緊張はクリームソーダのアイスクリームのように、ゆっくりとも解けていった。


 ふたりのコップが空になった頃、少しの間視線をコップに向けながら、最初に切り出したのは今日も彼だった。


「昨日の返事、聞いてもいい?」


 わたしは一瞬凍りついた、分かっていた、待っていた言葉だけど、昨日の出来事を思い出すとその言葉が重く響いてくる。冷静を装おうと努めたが、手がわずかに震えているのを感じた。落ち着かせるように、深く深く深呼吸をしてゆっくりと口を開く。


「ごめん…わたしは門手くんの恋は応援できない」


 その目は一瞬大きく開かれ、彼の顔には驚きが浮かび、そして落胆したような表情に切り替わる。門手くんといろいろ話してみて、彼の恋がが本気であることを知り、わたしも心が痛い。


「っ…そっか」


 震える唇を噛み、目を閉じ、鼻から空気を吸う、そして照の目を見つめ直し、決心して話す。


「わたし、薫のことが好きなの」


 門手くんはえっ!と驚いた表情で固まった、大きく開いた口はなかなか閉まらず、俯いて何か考えてるようだった。

 その沈黙の中で、わたしは彼の反応をじっと見守っていたが、耐えられなくなったのはわたしだ。


「ほんとにごめんね門手くん、でもそういうことだから」


 わたしはそう言い帰る準備をはじめ、立ち上がろうとしたとき。

彼はつぶやいた。


「…俺はふたりの恋を応援する」


 その言葉に衝撃を受けた、次はわたしが驚いた顔で固まった。


「木美月さんが、可愛さんのことを話してる時の表情はすごく楽しそうだった。友達以上のものを感じた」


 一度大きく息を吸い込み、しっかりとわたしを見つめながら続けた。


「だけど、俺も本気で可愛さんのことが好きだ」


 彼の声には、揺るぎない決意と感情が込められていた。その目は真剣そのもので、少しも揺らいでいなかった。


「木美月さんが薫のことをどれだけ大切に思っているか、よく分かった。でも、俺も可愛さんを好きな気持ちは変わらない。だから、俺たちはライバル、だね」


 そう言い、手を差し出す。わたしの胸に熱い感情が湧き上がった。彼の真剣な表情には、わたしの感情を肯定してくれる。


「ありがとう、門手くん!」


 溢れそうな涙を堪えて、その手を取り握手に応じる。

 言葉以上に、その握手は大事な意味を持っていた。


 本音で、わたしの考えを打ち明けられたことで、太陽の光が差すように、心の迷いが晴れていった。

 今日はよく眠れるかもしれない。


「帰ろうか」と門手くんが立ち上がると、窓の外を見て固まった。彼の視線の先では、

 大きな目でこちらを見つめている薫と目が合った。



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