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#1



桜の花が散り始め、葉桜の時期になった頃、

わたし、木美月(きみづき) 萌子(もえこ)は校舎裏の静かな場所に呼び出されていた。

薄曇りの空の下、桜の花びらが、地面に淡いピンクの絨毯を作り上げていた。


校舎裏に立っていたのは、制服のブレザーを着こなし、髪を整えた、まさに青春真っ只中の男子高校生だった。彼は緊張した様子で、背を向けてわたしを待っていた。その背中は彼の不安や緊張を物語っているようだった。

彼のを呼びながら近づくと、顔、体の順番でゆっくりと振り返り、とても緊張した面持ちで私の目をしっかりと見つめ、そして彼はその口を開き言葉を発する、




「…おれと!」




校舎裏に男女が二人、

心臓の高鳴りを感じながら、次の言葉が何なのかドキドキしながら待つ。

永遠にも感じられるこの時間、彼の次の言葉を待つ。

このシチュエーション、耳に入る言葉は想像通りのものだろう、きっと。




「…おれと!可愛(かわい)さんの恋を手伝ってください!」



「…は?」




わたしの勝手な妄想は、満開の桜が如く、一瞬で散っていった。

高校生になった私の青春は、どうやらまだ始まらないようだ。




窓の外を見ると、桜の花はすでに散っており、淡いピンクの花びらが、道行く人に踏まれて茶色になっている様子は、四月がもう終わることを教えてくれる。

ふと時計をみれば、もうすぐホームルームが始まる時間だ、朝の澄んだ空気の中、ドタドタと足音をたてながら、部活動の朝練を終えた運動部が教室に入ってくる。

その中から、前の席に座る予定の友達を探し、席に着くまでを目で追う。




「おはよ、」




声の主は、幼稚園より前の頃から、ずっと一緒に過ごしてきた親友の可愛(かわい) (かおり)。彼女の笑顔を見るだけでこころに温もりを感じる。


小川のせせらぎのような、薫の優しい声は心地良くわたしの耳に入ってくる、

シルクのように、薫のうつくしく輝く黒い髪は、彼女の可憐さをより引き立てる。




「おはよー、朝練、どうだった?」




彼女はかわいくあくびをしながら、わたしの質問に答える、




「ふぁぁ、まだ慣れてなくて眠いなぁ…お腹もすいちゃった。」




そう言いながら、カバンからお菓子を取り出した。昔からよく見る薫の姿だ。

ホームルームが始まるまでの時間、彼女の他にも、新しく仲良くなった友達と部活の練習のことや、新しい学校生活の話をする。


薫と時間を過ごしていれば、学校の一日はそれほど長くは感じない。すぐに放課後になる。

夕方のホームルームが終われば、教室は賑やかになる。逃げるように教室から出ていく人もいれば、部活動の準備を始める人たちもいる。




「じゃあ部活行ってくるね」



「うん、またあしたね」




運動部に所属してる彼女も、別れの挨拶をして、手を振りながら部活に向かう、今日の薫とはお別れだ。


帰る準備を終え、教室を出て、下駄箱に向かう。通学用の靴に履き替えようと下駄箱を開けると、中に小さな手紙が入っているのに気がついた。

手紙を見て急に胸が高鳴るのを感じる。

シチュエーションはまるで少女漫画、キョロキョロと人に見られてないことを確認してから、おそるおそると手紙を開く、




「放課後、校舎裏で待っています。 ―門手 照」




手紙に書かれた名前を見て、驚いた。門手(もて) (てる)、彼はクラスでも目立つ存在で、いつも周囲に友達がいるタイプだった。わたしは彼との特別なにか関係を持っているわけではなかったが、最近はよく、わたしと薫に話しかけてくることが多かった、それを思い出した。


そんな彼がわたしを呼び出すなんて、一体何の用だろう。疑問がいくつも浮かび、頭の整理はできてないものの、足は自然と校舎裏へと向かっていた。



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