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3メートルはあろうかというドアを開く。
巨人族やケンタウロス系統でも入れるような工夫がされているってわけ。
ドアの重さは魔法で解消しているんだって。魔法凄い。
ドアを開くとカランカランという鐘の音が響いた。
こういうところはどんな世界へ行っても変わらないね。
収束進化みたいだねえ。
鐘の音に反応した事務員がこちらに顔を向ける。
男性の方かな、『ようこそこちらにおいでくださいました』みたいなかんじでカウンターの奥から出迎えてくれる。
ギルドの内部は端の方にバーみたいな物が設置されていて、そこでは即席のパーティを作ったり、依頼で得た貴重品などの自慢話をしていたりと、楽しく冒険者が騒いでいる。
バーはギルドの端の方に設置されているけど、こういうキツい依頼をこなす冒険者は厳つい人ばかり。
依頼者にとっては恐怖を感じるだろうね。
ギルドの事務員はそれを払拭するための出迎えをしているって寸法よ。
少なくとも一年前に来たときはそうだった。
「やあやあギルドの事務員さん、よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします。本日はどういったご用件ですか?」
「ギルドの会員登録と、拉致された女性の保護要請ですね」
私みたいな優しいギルド会員だと要人・貨物の護衛依頼とか、そういった、人とコミュニケーションとりながらの依頼も舞い込んでくる。
ジンきゅんもゆくゆくはそういう依頼が舞い込んでくるだろう。
スバルはここで救出完了かな。
「じゃあ龍族のお方、この用紙に必要事項を入力してきてください。魔法は使えますか? 魔法で入力するのですけれども」
「い、いえ。ぼくは異世界から飛んできたので魔法は使えません。ごめんなさい」
「謝る必要はないのよジンきゅん」
「まあ異世界ジャンプはよくありますからね。じゃあ魔法の代理人呼んできますので少々お待ちくださいね。そちらの女性は保護、という形でよろしいですか?」
よろしいです――
と、言おうと思ったらスバルが先に。
「いや、この街で装備調えたらついていくわ。いや、ついて行かせてくださいませんか」
「え゛、なんで?」
「宿とるやろ? ついて行かせてくれるならそこで話すわ」
まあ、ええか。ぼいんぼいんだし。夜毎日揉もう。
ギルドの事務員さんに登録と身体調査――スバルのね――が終わったら3人でパーティ組みますと言って、残っていたトマトでギルドの宿を取った。
お金じゃなくても泊まれるのが冒険者ギルドの特徴である。
魔物退治に失敗してボロボロのパーティでも、そこら辺の草獲ってくればとりあえず眠れるってわけよ。どんな草でも漢方では使うしね。
冒険者にリスクがあるから、ギルドは可能な限り何でも引き受けるし、できる限りの支援をする。
そういう関係なのだ。まあ、この異世界は、ですが。
地球に冒険者とかそのギルドとか、ありえねーっす。
「ご主人様、書き終わって提出してきました。これが冒険者ギルド会員の証だそうです」
といって手のひらでメダルを見せる。
割と大きい。
紐を通せる部分がある。
「おー私も持っているよ。これね、超鋼金属で出来ているから防具の内側、急所部分に縫い付けたり、無くさないように紐でぶら下げられるようになっていたりするのよね」
「へー、便利なんですね。ところでスバル様は?」
「健康診断と癌検診追加だって。首都の総合検診センターに行ったよ。だから時間かかりそうだ」
「そうですか。総合技術はあまり高くない世界のようですが、医療技術は魔法のおかげで高いのかもしれないですね」
うーむ。
日露戦争とか第一次世界大戦前夜くらいの技術文明レベルで、癌検診だもんね。
そんなことをくっちゃべっていたら、冒険者ギルドにスバルが帰ってきた。
「おー、お帰り。どうだった?」
興味津々で訪ねる私。
私は300万年生きているきつね族だから――つまり化け妖狐――そもそも深刻な病にかかることはないし、陰陽術でさらに守られているからね、検診とか行ったことがない。
ああ、エキノコックスは私でもかかるけど、幼いころワクチンとお薬で駆逐したから問題ないはず。
再感染しているかどうかは、ジンきゅんかじればわかるかな。
「どうもなにも、身体の隅々まで検査したってだけやで」
「何もなかった? 骨折とか」
「特になにも。冒険者のためのワクチン基本セットってのを打たれたわ」
なにそれずるい。私の時はなにもされなかったぞ。
「基本セットって、何を打ったんだろうね」
「さすがにわからん。関係あるか?」
「まあ何打ったか知っておかないと出来ること出来ないことあるからねえ。明細書を見せなさい、明細書―!」
小競り合いをしながらもぎ取った明細書には、性病関連のワクチンを打ったとの記述が!
「へー、性病関連とかあるよ。真人間の冒険者が媒介源になるからってわけか。拠点を頻繁に変えるもんね」
「うちには関係あらへんな。この身は誰にも渡しとらん」
ふふんと鼻を鳴らすスバル。
でもそれって。
「処女って事か。成人後数年経っていそうだけどね」
「う」
「う?」
「うるっさいわぼけー!!」
なんかブチ切れちゃったスバルが私に向かって腕を振り下ろす。
早すぎて回避できなかった。
スパァン! と、私の頂点に思い切りハリセンが撃ち込まれる。
くっそ痛い。
「え、というかなんでハリセンがあるの? しかもこれ金属だよね、すんげー痛いんだけど」
「いや、うちもチョップするつもりがいつの間にかハリセン持っていて……なんでや」
「突っ込みクイーンスバルということで活動していこう、それがいい」
「突っ込みで一体何の冒険ができるんや……」
よくわからない才能を開花させたスバルを連れて、今日は早々と冒険者ギルド二回の宿泊施設へと移動したのだ。
――くっくっく、ここで眠れば、夜間ジンきゅんのショタのショタをショタれる。
楽しみだ、くっくっく――