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のどかな街道をてくてく歩く。
拠点と拠点の道は舗装されており、歩く分には十分である。
「この異世界もそこそこ技術があるみたいなんだよね」
「個人の移動は浮遊板に乗ってしていた、わたくしたちの世界よりかはかなり低いようですけれども」
「まーねー。あの世界がとんでもなく技術力があったからね」
この世界はそんなでもないかな。
地球で言う、マシンガンと鉄条網がない第一次世界大戦のような技術力を持っていると思う。
近代鉄砲も初期型の車もある。
大工業化時代が到来しているのだ。
それを支えているのは石油ではなく魔法なんだけどね。
ごうごうと大気汚染をまき散らす石油ではないためか環境汚染は進んでおらず、緑が深い植物が生い茂っており、また、様々な色の花々を付ける野草が沢山生息する。
木々は成長が早く、太く強く鎮守しており、自然が凄く綺麗。
豊富な植物に支えられている動物類も生息数が多く、この2年間はのんびりと狩りや採取をして暮らしてきた。
ジンきゅんを助けるという目的が発生しなければ一万年位は暮らしていたかもしれないね。
そんなことを思いながら歩いていると、一人の男が私たちの歩みを妨害するように躍り出てきた。
「金目の物を出せ。容赦しねえぞ」
「あらー、賊か。そんな情報あったっけ」
「あわわわわ、カネメノモノカネメノモノ」
「ジンきゅん慌てないで。金目の物なんて村を出るときにもらったトマト200個しかないわ。おきつね陰陽術式空間保全に入れてあるから身軽に歩いているけど」
「いや、賊ですよ!? 助かりませんよ!?」
「まー大丈夫だって。この程度なら私が守ってあげるわ、デュフフ」
などとのんびり喋っていたらしびれを切らしたのか男が剣を抜いた。
「色々うるせえぞ、亜人間! よし、お前らの角と尻尾を貰うとするか!」
言うが早いが、ジンきゅんに素早く近づき剣を振り下ろす賊。
なにしろこちらは手ぶらだ、武器がないと思ったようだね。
「あまい」
バッと飛びかかるとそのまま前蹴り。
賊の頭を見事に蹴り飛ばしてやった。
飛び散る頭、吹き出す血液。
「あばばばばば」
「ジンきゅん救出成功、っと」
「いよ、賊さん死にましたよ!? いいんですか!? 犯罪では!?」
ジンきゅんはまだまだ甘いなあと思いながら賊の血液を採取する。
「六壬っていう簡易占い道具に血液をセットしてっと。いい、ジンきゅん。こいつは賊なの。社会のゴミなのよ」
「でもでもだって。人ですよ!」
六壬が光を放ちぐるぐると回転をし始める。けん玉に天板を乗せたような物なんだよね、これ。
「人だから何? こいつを殺さなければここを通りかかる農民が被害を受けるわ。農民は武器を持っていないし戦闘訓練を受けていないからたちまち殺されてしまうわよ。私達が殺しておくに限るの」
「でもでも」
「それより、この惨状には耐性あるの? ビクンビクン痙攣している身体から血が噴出していて、爆破されたような顔が周辺にころがっている状況だけど」
アイエエエエエエエと叫ぶジンきゅん。
色々と体験が新鮮そうでうらやましいでござる。
「きつねも300万年生きているとな―、そういう反応しなくなるからなー」
「おえおえおえおえおえ」
っと、ゲロを吐いたと同時に六壬が止まり光が消え、今度は一定の方向へ光を放つ。六壬探知完了、住処はあっちか。
「あらあらまあまあ。賊が差し出したこの剣をあげるから少し休んでおいで。私は住処にいって他に賊がいないか見たついでに住処を破壊してくるから」
あ。そうだ。あれも付けておこう。このごんぶともごんぶとな、見事なしっぽの毛を一本取って。
「式神よ、式神よ。たすけてもうれ、たすけてもうれ。おーん・ふぁりょん・ざっきゅ・もあか。臨兵即是」
毛を前方にふっと吹き流し、真言を唱えて二字を切る。
切ったのは縦と横に一回だけだね。だから二文字の二字。
すると、私のしっぽの付け根から武具を揃えた狐の戦士がぽわんと出現した。
体長はだいたい60センチくらい。
「簡易式神だけどまあこんなもんでいいでしょう。ここら辺はのどかだから。式神ちゃん、ジンの守護をお願いするね」
「げほげほ。のどかって出るんですか、なにかが」
「ほら、いわゆるモンスターってやつ」
「アイエエエエエエエエエエ!! 僕のいた異世界にはそんなの居ませんでしたぁ! 基本世界の地球にだってただ悪いだけの生物なんて存在しませんでしたよ!?」
「うーん、数時間で人間を食らいつくすバクテリアとかいたけどなあ。まあ賊の生き残りとかも現れるかもしれないしね」
ガクガク震え出すジンきゅん。風邪引いたかな?
んなわけないか。
まだこういうのになれてないんだね。
「簡易式神だけどここら辺のモンスターよりは強いし、ジンきゅんも剣があるから【龍人剣】放てるでしょ? 子供でも神龍系の龍人だもんね」
「は、放てますけど、この剣、ろくな剣ではないから一回放てば壊れちゃいますよ……」
「一回放てばあとの奴らは逃げていくって。じゃあちょっと行ってくるね」
ままー、ままーって泣き叫ぶ(ように聞こえるけど幻覚ではないはず、絶対、多分、きっと)ジンきゅんをその場に残し、私は住処を探りにへと向かったのだ。
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