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一軒目



 ― Ⅱ ―





  『死者の休日祭り』当日は、レイ特製のふわふわパンケーキからだった。

 

 これは、ジョー・ジュニアの《イカした朝食》という言葉に置き換えられて、のちに伝わることとなる。







  ―― 一軒目 ――




『 その家のドアをあけた女は、おれをみたとたん悲鳴をあげた 』と、ジョー・ジュニアは、仲間に吹聴した。




「きゃあああああ!おお、信じられない、なんてかわいいの!」


 腕にいるこどもの顔をのぞきながら、レイの頬にキスをした女に招き入れられリビングにつくと、キッチンに立つ大柄な男が作業をやめて片手をあげた。


「なんだ?ウィルが五歳くらいだなんて言ってたが、まだ三歳くらいじゃないか」


 愛嬌のある丸い目で、こどもをみると、いまジュースをつくってるからな、と止めていた手を動かしだす。

 柑橘類が男の太い腕がうごくたびにつぶされ、搾り機で果汁をぬきとられてゆき、部屋にはいい香りがみちる。

 女の方が、レイにもらったあの搾り機がとても役立っている、とわざと男のほうに大きな声で言い、得意げにうなずいた男は、しぼりあつめた果汁をかかげてみせた。


「ほら、ジュースをのむか?」

「ずるい、ニコル。ジュースでつるなんて。先にだっこしたしたいわ」

 女が男の太い腕の前に、わりこみ、両手をひろげた。


 ジュニアはレイのほうからその女の方へと身をのりだす。


「いいこね!まあ!なんて軽いのかしら!ニコルなら片手のひらで持てるわよ」

「わかったから、ターニャ、すこし落ち着け」

「ごめん。レイとこの子が目にはいったときから、なんか興奮しちゃって」

 わらいながら男からうけとった小さなカップを、片腕で抱いたジュニアの顔の前にもってゆく。


 ジュニアはレイの顔をみて、うなずかれるのを待ってから、小さな手をそれにのばす。


「どうだ?そんないそいで飲まなくてもまだあるから、ゆっくり飲めって」

 いっきに飲んだジュニアの口元をナフキンでぬぐった男が、もういっぱい飲むか?ときくのに、もうだめだよ、とレイが断る。


「まだここが最初なんだから、おなかが破裂しちゃうよ」

 わらってジュニアのやわらかい腹を指でおす。


 そうだな、と同意した男が、じゃあ土産をもたせないと、と思い出したように部屋の奥にむかう。



 そこで、ここに来た目的を思い出したジョー・ジュニアはいそいで言った。


  「 《良い休日をおくってる?》 」



 きゃあああああ!とまたターニャが悲鳴をあげ、駆け戻ったニコルが、もういっかいおれにも言ってくれと頼み、ふたりでジュニアの取り合いがはじまり、レイの仲裁(とりあえずいっしょに写真とろうよ)によって、ケンカにならずにすんだ。



 視界がチカチカするほどフラッシュをたかれ写真をとられたジュニアは、ぱんぱんにふくらんだ紙袋をもたされそうになるが、ターニャとレイのチェックがはいり、半分ほどにへったそれを、このお祭り専用に売り出されているこどもサイズの袋にいれてニコルからうけとると、堂々と首へかけた。


「せっかくめいっぱいにつめた特製の『おやつセット』だったのに、半分になっちまってごめんな」

「ニコル、あんなにチョコやキャラメルばっかりじゃ、虫歯になっちゃうわよ」

 ねえ?と同意をもとめられたジョー・ジュニアは、きれいなちいさい歯をみせてわらってみせた。





 もちろん、のちのジョー・ジュニアは、仲間にこう話した。


『 その屈強な男は、おれにそのみつぎものをさしだしながら、ゆるしを乞いやがったのさ 』

  








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