3.ウィル
3.ウィル
「 ―― おい、へいきか?」
バートに頭をたたかれたとき、ぎゃ、という小さな悲鳴をこどもはもらしていた。
ひたいをつけたまま顔をあげたジュニアは、青い目にいっぱいに涙をためている。
「 《 あのクソヤローは いったいなんだ? おれの 頭をさわっていきやがった 》 」
おれのあたま、はげてねえか?と金色の巻き毛の頭をこちらにむける。
「ちなみに、あのクソヤローより『強力』なのが待ってるけど、へいきか?」
ジョー・ジュニアは、あかい鼻と目をこすって口をひきむすんだ。
「 《 ここは街中だからな『契約』でなにもできねえ だが おれのことを甘くみるなよ 》 」
「はいはい。ほら、鼻かんで」
ハンカチで顔とたれた鼻水をふいてやりながら、こどもを抱えなおして歩き出す。
「 《 いいか サウス一族のガキ つぎは バスってやつに乗るぞ 》 」
「遠回りだし、面倒だからやだよ」
「 《 いうことをきかねえと おれのあの声で なきさけぶぞ 》 」
「・・・・・・おまえさ、ジョーとどういう『契約』してるわけ?」
「 《 『死者の休日祭り』限定体験ツアーパック っていうなまえの契約だ 》 」
「・・・あんの・・・くそ聖父、おかしな商売はじめやがって・・・」
「 《 うそに決まってるだろうが サウス一族のガキ 》 」
「・・・・・・・・」
立ち止まり、こどもを両手でかかえあげ、顔を正面であわせる。
「 ―― いいか。つぎに おれのことを『サウス一族のガキ』ってよんだら、おまえのその小さな耳の穴にあの銀の弾をつめて、くさびをつかって銀のハンマーで脳にうちこんでやる。おれはおまえがどんな姿でも、『できる』からな。ああ、でもおまえに脳ってあるのかな?まあ、そうでなくても、きっと痛いとおもうよ。 ―― だからいいか?すこし、いいこのふりをして、おとなしくしとけ」
「 《 ・・・はい・・・ 》 」
「いい返事だね。 ―― よし、それじゃあ希望通り、バスに乗ってあげるとしよう」
それから乗った二階建てバスの風景は覚えていないと、のちにジョー・ジュニアは身内にだけ語った。