バギーではなく
「 《 なんの問題がある? 見ろ かんぺきな かわいいこどもだろう 》 」
『ジョー・ジュニア』は、ウィルにまるい顎をあげてみせた。
「だって、その声でしゃべったら終わるよ」
「 《 ばかめ 声などどうにでも 》 」
「変えないということで『契約』してる」
とうぜんだというようなジョーの声がわってはいる。
「 《 なんだと!? おのれクソ聖父 》 」
「この容姿で声もかわいくなったら、なにをするかわからないからな。『よい休日をおくってる?』だけ、こどもの声でしゃべれる『契約』にしている」
ジョーのそれに、まあいいとしよう、とジュニアが口をとがらせるのをながめながら、ウィルは、この場から自分が逃げるほうをえらんだ。
「 《 まて サウス一族のガキ 》 」
ジュニアの声をききながらドアに手をかけたのに、あかない。
「いや、ぼくは関係ないんだからここから出してくれ。おまえらがどこでなにをしようともぼくはとめないし、邪魔はしない。 ただ、 ―― ぼくはそこにはいないからな」
「ああ、それはいいんだ。おまえに『こども』の面倒をみてもらおうとは、おもってない」
わかってるというようなジョーの言葉におもわずふりかえる。
「さきに、はなしはしてあるんだ。だが、おれはこれからすこし、仕事がある」
「 《 つまり おまえはおれを そいつのところまで はこべばいいだけだ 》 」
はこぶ?
ジョーとそのジュニアはそろって微笑みを浮かべている。
いやな予感。
「おれがそいつをつれてく?冗談だろ?」
「すまないが、そうしてくれ。 おまえじゃないと、こいつがこの街中で好き勝手にうごきまわってなにをするかわからない」
「そんなの、おまえがここに連れてくるからだろう?」
「たのむ、ウィル。 この『契約』は、もう成立してる」
「なんだよ、『契約』におれが運ぶっていうのでもはいってんの?」
冗談にしたくて確認したのに、ジョーは困ったような顔で返事をしない。
クソ、と毒づくとその《こども》が喜びそうな気がしたので、ぐっと我慢してのみこむ。
「 ・・・わかったよ」
あきらめて、ソファになげやりに身をなげだす。
「バギーに押し込んでけばいいわけ?」
「 《 だっこ だ 》 」
バラ色の頬をしたこどもが小さな歯をみせながら、ウィルにわらいかけた。