表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

五軒目

 


  ― Ⅲ ―





 ―― 五軒目 ――




 それは、湿地の近くにある教会で、いつもはシスターがいて、おいしいパイを焼いてくれるのだが、いまはシスターは大事な用ででかけていて、留守を守るのは元聖父である男だった。


 この国で大半の人間が信仰する聖堂教という宗教の、教えを守り人々を導く手伝いをする聖父。その役目を担っていたジョーこと、ジョゼフ・コーネルは、あるときから『魔女』や『鬼』がこの世界に実在するのを主張しはじめて、教会をおわれ、正式な聖父からおろされた。

 いまでは、うらのほうで聖父をやっているのだが、それに関しては、どの裏なのか、とか、どこでやっているのか、などは、口に出していえない。



 だが、この湿地の教会は、ジョーが仕事をする場所のひとつだということだけは確かだ。



 元聖父は、シスターの部下であるネズミたちに頼んで、教会の地下への扉をあけてもらい、ながくてきゅうな階段を、闇のなかへとおりてゆく。


 すると、しばらくして、若い男の声が暗いなかに朗朗と響いた。




『 なかなか、おもしろいツアーだった 』



 ジョーはそこで足をとめ、暗く冷たく、どこまでも広いこの地下に立つ男をみる。



 階段のつくられた壁に、ところどころ置かれたたよりないろうそくでみえたのは、浅黒い肌に黒い布をまとい、せなかには黒い羽がはえた男だった。

 

 黒く縮れた髪と魅力的に整った顔の男は、その真っ黒な目をジョーにむけた。

 目をふちどる濃く長いまつげが巨大な鳥の尾のようで、すぐそこでジョーをまるごと映す目玉は、どこまでも黒い。


 

 男は、巨人だった。





 階段のゆきつく場所はまだ見えないが、巨人の足はその最終地点にあるはずだ。



『 おまえの近くだからか、ちょっと人間らしくないヤツらが多かったが、まあ、満足したと言ってやろう 』



「それはなによりだったな。おれがきいたはなしじゃ、かなり収穫があったとおもうが」



『 うむ、まあ、報告書はじゅうぶんつくれる。なにしろ六百年ぶりほどになるからな 』



「まだ先住民たちが死者の休日を祝っていたときと比べるのか?あまり意味がないように思うが」



『 まあ、ここまで人間の暮らしが変わるとは、思ってみなかったからなあ。 だが、こんかいのおれの調査によって、確かなことがわかったぞ。 ―― 人間どもにはまだこの先も、死者の休日が必要だ。きゅうくつな墓の中から、死者が自由にでられる祭りだ。 古い習慣だからもういらないだろうなんて言ってるやつらは、このおれが黙らせる 』



「そうしてくれると、―― おれたちもたすかる。墓守のおまえからの意見ならば、ききいれられるだろう」



『 あ、思い出したぞ、いいか聖父、最後にレイのところにいた《番人》の男が、おれのこどもになった姿をゆびさしてわらいやがったんだが、あれはきっと尻についた矢印みたいなあのシッポのせいだろう?本物の墓守は、こんなに立派な尻尾だと、はっきり伝えておけ 』


 男のあしもとの闇の中から、しなやかな動きであらわれた巨大な蛇が、ジョーに赤い口をあけてみせた。



「そういう仕事はうけていない」



『 なんだと? それではこのおれの威厳というものが、 あっ、わかった。 ―― ならば、来年まで首をあらってまっておけ、と伝えておけ 』



「だから、そういう・・・  ―― おまえ、また来るのか?」








 死者たちが、年に一度だけ、《きゅうくつな墓》という《死者の国》から出て、すきなところへでかけることができる日がある。



 それは、『死者の休日』とよばれる祝日であって祭りでもあり、死者たちが、死んでいるのを休むことができる、《良い休日》のことである。














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ