四軒目
―― 四軒目 ――
「どうしなすった?レイさまだけですかい?ウィルぼっちゃまは?」
そのドアをあけたのは、年寄りの男だった。
レイの運転する車で街からはなれ、丘陵のつらなる農地のなかの牧場についたとき、ジョー・ジュニアはチャイルドシートにがっつりと守られて眠っていたのだが、起こされたとたん、身震いしてあたりをみまわした。
「きゅうに景色が変わって驚いちゃった?ここはね、ウィルのパパがもってる農場でね、そのなかのこの牧場でジョーはトムを手伝ってるんだ」ジュニアはまだ来たことがないって聞いたから、ぜったい連れてきたかったんだ、とレイはわらっていたが、だっこされたこどもは顔をあげずに首にしがみついていた。
丸太で建てられた二階建ての家にはいると、ひんやりと冷えていて、ぼっちゃまがつけてくださった、と音をたてて冷気を吐く機械を、年寄はしめした。
「『ぼくが泊まるのにエアコンがないなんて考えられない』って言いましたが、きっとわしら年寄を気遣ってくれたんでしょ」
「ウィルってほんと、照れ屋だからね」
レイがそう答えたとき、こどもが異議を唱えるかのように顔をしかめたのだが、二人とも気づかなかった。
ああ、そうだ、と年寄が手をうち、ちょっとまっててくだせえ、とキルティングカバーのかかった居間の長椅子にこどもをだっこしたレイを座らせると、二階へかけあがり、がたんがたんと音をさせて、ようやくおりてきたときには、子ども用の脚のながい椅子を手にしていた。
台所のテーブルには簡素な椅子が二つ、その間にその、子供用の椅子がおかれた。
「ウィルぼっちゃまがつかってたやつだが、ほうれ、ちょうどだ」
レイからうばわれるように抱き上げられると、ジョー・ジュニアはそこへすっぽりとおさめられた。
「うわ、かわいいなあ。これ、トムがつくったの?」
「わしがつくって、かみさんが色をぬって、絵をかきましたさ」
いいながら、年寄りは、テーブルから少し離れたところにおかれた椅子をみる。
それはテーブルにある椅子と同じもののようだが、そこには鮮やかな色の毛糸で編まれたひざ掛けがおかれている。
「レイさま、このチビに、うちの牛のミルクでつくったココアでも飲まそうかね?」
「わあ、おいしそうだね。あ、ぼくがやるよ」
年寄の男とレイは、楽しそうに台所へ行く。
こどもは、ひざかけのおかれた椅子をじっとみる。