三軒目
―― 三軒目 ――
その区画にはいったとたん、こどもは異変に気付いていた。
グウアアアア
カラスが、急にあつまりだした。
「こわい?平気だよ。このへんのカラスは人は襲わないんだ」
レイがだっこしたこどもをかかえた腕に力をこめて抱きなおす。
すこし歩いたところで、古いアパートメントの前に立つ男がこちらに手をあげてみせた。
「なんだかもう荷物がおおいなあ」
のんびりした口調とどこかなまりを感じさせる発音で、こどもがさげた『おやつセット』と、てにしたトートバッグをみてわらう。
「階段が急だからおれがだっこするよ」
そういって、その男に渡されたこどもは、男のむこうの道路ぎわにあるフェンスの上に座る、タキシード姿の男に、眼がくぎづけになる。
にっとわらうタキシード男は、こどもに手をふってみせた。
「 《 ・・・ウソだろ・・・》 」
つい声がもれた口を、こどもはふっくりした両手でおさえこむ。
「なに?ルイ、なんかいった?」
「ん?ああ、ジョー・ジュニアが、むこうのカラスに威嚇したのかも」
「もお、こどもがそんなことするわけないでしょ?」
あきれたようにわらうレイに、こどもをだっこした男は、アパートの門の鍵をわたす。
「玄関も先にあけておいて、はいっててくれ。この子をかかえて通るにはちょっと邪魔なものがあるとおもうから、どかしておいてほしいな」
「また骨董品ふえたの?」
「ちょっとだけだよ」
こどもから『おやつセット』とトートバッグをとりあげたレイは、あとで返すからね、といいながら、軽やかにせまい階段をあがりだす。
「 ―― ジョーから連絡がきたときは心配したけど、どうやら、『いい子』にしてるみたいだじゃないか? 」
こどもを片腕にかかえなおした男はわらいかける。
こどもはむこうのフェンスにすわるタキシード男をゆびさした。
「 《 あれは 魔法使いの下僕か?》 」
「あれは、カラスだよ」
知ってるだろう?と手をふってきたタキシードに、男も手をふりかえす。
「 《 そうか おまえが あの 魔法使いの血縁者か だからおれも しゃべれる 》 」
「そうだねえ。その声じゃ、あんまりひとまえでしゃべらないほうがいいとおもうよ」
顔をのぞきこんできた男は、レイに抱っこされてもなんともないんだね、と感心したようなことを言う。