たとえ怪物になろうとも
「フハハハハ!おいおい、どうしたどうしたぁ!!」
「くっ!あからさまに調子にのって!!」
溶岩の様な、しかし確実に流体や物体ではない、いうなれば”凝固した炎”を身に纏った〈スケルトン〉が何かをしているわけではない。
ただ立って待ち構えているだけだ。
ただそこに在るだけで暴風と熱波をまき散らし、近づこうとする〈トリプル・ホイール〉をことごとく吹き飛ばす。
〈フルアーマー・スケルトン〉。
こうして鎧の生成に成功したのは初めてだが、なかなかどうして凄まじい。
〈スケルトン〉というプラモデルの特徴は言うまでもなく、”着脱できる装甲”だ。
鎧として着用していた装甲を排除することで、スピードアップという強化をする。
装甲は鎧であり重りだった。
クリア装甲ということで中のフレームが見えていたのも一因だろうが、だからこそ『バープラ』というシステムは装甲の下にある《《中身》》にこそ真価があると〈スケルトン〉を見なした。
だが、それは装甲を着込んだ状態の〈スケルトン〉をスキャンシステムが評した第一印象にすぎない。
そうなると〈スケルトン〉のさらなる高みを目指した俺が、とりあえず装甲を排除した状態……つまり『バープラ』内で知られる全開状態の〈スケルトン〉をデフォルトの状態として、〈スケルトン〉とは別の機体として、仮に〈フルパージ・スケルトン〉として、新たにスキャンした場合はどうなるのだろう?と考えるのは至極自然な流れではあった。
元々、装甲は磁石で簡単に着脱できる様に作っていたのだし、遠条さんから〈スケルトン〉を受け取ってすぐにできることなのだから。
結果から言うと、鎧の無い〈フルパージ・スケルトン〉に発現したのは鎧を作るコンセプトのスキル群だった。
あるはずの物《装甲》が無いことを特徴と捉えた。
鎧を脱ぐことでパワーアップするのではなく。
鎧を作って着ることでパワーアップする。
ある意味、元祖〈スケルトン〉よりも真っ当なコンセプト。
しかし若干の強弱はあれど、実のところ、これは大して意味が無い。
要は防御形態(装甲あり)→スピード形態(装甲無し)への変化がスピード形態(装甲無し)→防御形態(装甲あり)になっただけなのだから。
しかも、鎧を作ると一口に言っても、何もない無から作れるわけじゃなかったのだから、使い勝手が悪い。
強化のためにステージを駆け回り、良さげなオブジェクトを回収して鎧を強化していく……フィールドでただ遊ぶのであれば楽しそうではあるが、1on1のPVPでは工程が多すぎて使えそうもない。
まあ装甲の在る無しで得られる変化などこの程度だろう……そう思っていた。
そこに特大のピースがカチリとハマる。
超必殺スキル〈強敵と試練と恩恵〉。
こいつは《《常時発動型》》の超必殺で、その効果は《《スキルにおける解釈の拡大と強化》》だ。例えるなら”ビルの一部を使用して鎧にする”スキルで”ビルを丸ごと鎧にする”ことが可能になる。
つまるところ、超必殺スキル〈強敵と試練と恩恵〉は《《スキルそのものを強化するスキル》》なのだ。
しかし、そこは超必殺スキル、そう都合の良いことばかりじゃない。
超必殺であるにも関わらず、常時発動型。
そこにほとんど欠陥の様な大穴がある。
問題となるのは、強化の《《度合い》》だ。
この超必殺、ぶっちゃげ何もしないと効果がゼロなのである。
というのも……というか、名前からも察する通り、”強敵”もしくは”試練”が前提にあっての”恩恵”なのだ。
テキストにはこう書かれていた。
『強き敵、困難な状況、それらを乗り越えた時こそ、力は己を越えることができるだろう。乗り越えた壁が高ければ高いほど、恩恵は大きい物になる。《《これは真実でなければならない》》”世界との約束”である。』
”強き敵”、”困難な状況”とやらが具体的になんなのかは書かれていない。
……〈ロボキチ〉の〈巨人殺しの小さき拳〉もそうだったが、どうも超必殺は発動条件を曖昧にすることで使用難易度を上げようとしている節があるな。
だが具体的に書かれていないだけで、ノーヒントという訳でもなければ、読解できない訳でもない。
つまるところ、挑む敵か状況が大きければ大きいほど、その分スキルは強化される。
逆に試練や強敵と呼ぶには値しないなら、強化値はゼロということだ。
まとめると、
・スキルを上限なしで強化するスキル
・常時発動型ではあるが、なにもしなければ効果ゼロのお荷物スキル
・効力が欲しいなら欲しい分だけ、困難な状況や強敵をどうにかしなければならない
と言った感じ……。
……正直、これをメインの戦略に据えるかは、かなり迷った。
スキルそのものの強化……それもその強化の度合いに上限らしき表記はなく、どの程度強化できるかは自分次第……控えめに言って、かなり魅力的だ。
しか当たり前の順番として、〈強敵と試練と恩恵〉の”恩恵”を得て、対戦相手である〈カロリッパー〉との激突に使用するには、俺は《《まず》》”試練”か”強敵”に勝たなければならない。
要はこの超必殺スキル、困難への挑戦を二連続でやることが想定されている。
いったいどんな状況を想定しているのだ。
運営はボスラッシュでもやる気なのか?
そう思って、クソでかゴリラが群れをなして襲い掛かって来る光景を想像してしまう。
……やりそうー……つーか、世界観考えたらありえなくねえのが怖すぎるな……。
そもそも1on1のPVPという整えられたステージ、〈スケルトン〉と〈トリプル・ホイール〉しかいない状況……〈カロリッパー〉の他に俺の障害となるものなど存在しない。
あくまで目的は第一位に勝つことなのだから、勝った後に効果を発揮するスキルなど意味が無いのだ。
それでも〈強敵と試練と恩恵〉、これをやるしかないと思った。
リアルの後輩であり『バープラ』の先人でもある協力者はこう言っていた。
『〈トリプル・ホイール〉の前身は〈スケルトン〉の前身である〈アファム〉のライバル機〈トリム〉です。もともと〈アファム〉は〈トリム〉に対抗するために開発された機体だっていう設定なのはご存じですよね?……私が長いことプレイしてる感じ『バープラ』が《《そういう歴史》》をスルーするとは思えないんですよね、だから新機体を作るにしても〈アファム〉を素体にすることで〈トリプル・ホイール〉のカウンターになる可能性が高いんじゃないかと思います。そうならなくても、〈アファム〉なら先輩は〈スケルトン〉で慣れてますから動きやすいでしょうし。』
愛機〈スケルトン〉はこう言っている気がした。
『俺は足りてる、後はお前しだいなんじゃねえの?』と。
考えても見ろ。
”上限なし”なんて効果のスキルを〈スケルトン〉は用意したんだぞ?
確かに条件は厳しいが、試練と栄光は釣り合ってる。
そして、このスキルは順番こそメチャクチャだが確かに強者に対するカウンター的な意味もある。
そして、俺は考え、〈スケルトン〉に必要な改造を施し、答えを出した。
それが、単機による《《大気圏の往復》》。
地上から宇宙へ飛び出すことを”試練”と捉え”惑星”そのものを”強敵”とみなした。
このトーナメントバトルの決勝補正ありきだったが、なんとか”試練”を乗り越え”強敵”を降した〈スケルトン〉は勝利者の権利を得る。
越えた困難が大きければ大きいほどその効力を発揮するのが〈強敵と試練と恩恵〉。
そして超えた相手は、”惑星の力”。
極大の壁を越えた〈スケルトン〉に〈強敵と試練と恩恵〉は極大の恩恵を授ける。
その恩恵によって”鎧を作る”スキル〈スケルトン・アーマー〉の効果を大幅強化・拡張。
拡張されたスキルは対象物の範囲を大きく広げ、”大気”や”熱”すら鎧として固める。
〈スケルトン〉は再び地上を目指して大気圏に突入し、そこで惑星が鎧の様に纏っていた”大気圏”という鎧を簒奪したのだ。
つまり、今の〈スケルトン〉……〈フルアーマー・スケルトン〉は大気圏突入時のエネルギーそのものを鎧として纏っている。
高密度に圧縮された大気は暴風となり。
鎧として固められた摩擦熱は鉄をも溶かす熱波を放つ。
人が、生物が、惑星と殴り合いをして勝てるか?
答えは否だ。
それは当たり前のごとく、健堂 斬加であっても例外じゃあない。
たとえ”怪物’だの”神童”だの呼ばれていようとも、今、俺の前ではただの人に過ぎない。
「近づけねえなら、こっちから近づいてやるぜぇ!!」
俺は意図して傲慢に、まるで力に溺れて人が変わった様な言葉を選ぶ
しかし、頭の中は至って冷静だ。
理性を失ったフリをしているのは、健堂に”怪物”としての意識を忘れさせ、矮小な人間としての意識を植え付けるため。
俺が大魔王になることで健堂を魔王から挑戦者に落とすのが狙いだ。
初めてだろう?
勝利したビジョンがこうも見えない戦いは。
常勝が故の不慣れな劣勢。
自分よりも異常な”怪物”。
どうしたらいいのかわからないはずだ。
負けられない戦いの緊張感で、その初めての体験が、致命的な隙に必ず繋がる。
「くっ!」
暴風に押し出され、猛追の勢いで接近した〈スケルトン〉の左手が〈トリプル・ホイール〉の左肘の辺りを掴む。
ジュっ!というフライパンに水滴を垂らした時の様な音と共に、掴んだ箇所が溶けて握りつぶされ、肘から下が地面に落ちる。
「あがぁ!!」
この暴風は結界でもある。
なにせこの暴風すら今は〈スケルトン〉の一部なのだから、どんなに早く動こうとも〈スケルトン〉影響化の風の中であれば動きは手にとる様に伝わってくる。
今の調子を乱された状態なら捕まえるのは簡単だ。
「ぐぅぅっ!!!クッソぉぉぉおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
人間が叫ぶ。
瞬間。
〈トリプル・ホイール〉の持つ刀が赤い光に包まれ、そこから放たれる奔流が〈スケルトン〉の暴風を押しのける。
っ!来た。
当然あるよな。
超必殺スキル。
片腕をもがれて破れかぶれになった……というよりそれ以外の対抗策が見つからなかったから、切り札を抜いたのだ。
その常勝の経験が導いたであろう直観は正しい。
俺の予想が正しければ、今の〈フルアーマー・スケルトン〉でもその超必殺は《《効く》》。
恐らく、超必殺は超必殺でしか貫けない。
そして、剣が届くのならば、ただのかすり傷を必殺の一振りにできるのが健堂 斬加だ。
例え、猫のひっかき傷ほどでも許せば、その傷が致命傷になると考えるべきだ。
〈トリプル・ホイール〉の元となった機体〈トリム〉は伊達に作中でライバル機などと呼ばれていない〈アファム〉が〈トリム〉に対してカウンター的な存在になり得るなら、逆もまたしかりと考えるべきなのだ。
「……ははっ!」
あまりの迫力に息が詰まりそうになるのを堪えて、無理やりひねり出した笑いを残し、俺はバックステップで後退した。
地面に突き刺したまま放置していたキッカちゃん製のブレード越しに〈トリプル・ホイール〉と対峙する。
今の〈スケルトン〉が武器を握れるのは一瞬だけだ、振り抜き様に柄が溶ける。
第一位、〈ナンバー・ワン〉、”怪物”、”最強”、そんな称号を欲しいままする存在が己の全てを掛ける様に叫ぶ。
「この一撃で、君を人間に戻してみせる!!!」
それは思い人を思う言葉というよりは、死に逝く友を救おうと力を振り絞る、ちっぽけだけど、強い《《人間》》の姿に見えた。
その勇姿をカッコいいと思いながら、しかし俺は一蹴する。
「背水の陣は似合わねえよ、お前には」
人間に戻す必要などない。
勝手に人を”怪物”にするな。
俺は人間だ。
人間のまま、お前をブチのめす!!
単機で大気圏往復とか通常は不可能です。
ただ、第一位の権限で開催されたトーナメントの仕様は公式仕様。つまり運営(世界)側のシステムが一部流用されている特別仕様なので、決勝ステージのスペシャルバフともなれば通常の三倍どころでは済まない強化を得れます。
フルカゲは協力者との作戦会議や熟考を得て、その状況にウルトを合わせるにはどうすれば良いかを考えました。




