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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
77/85

天はいつだって頭上にある


 目論見は成功した。

 

 背中に背負った翼状の増設バーニアで上昇しながら遠くなった地面をチラと見る。

 すでに〈トリプル・ホイール〉の姿は豆粒ほどにも見えなくなっていた。

 これだけの高度へと至れば、もう撃ち落される心配はない。

 優秀な後輩のアシストに心の中で感謝する。


 キッカちゃんが〈カロリッパー〉に俺の名前で伝えた伝言の内容はこうだ。


 『一分以内に俺を倒せなければお前の負けだ』


 一見ただの挑発。

 戦略的な観点で見れば”速攻”に弱いと自ら暴露しているアホだ。

 普通なら、じゃあなるべく早くブチのめそう、と考えるだろう。


 だが《《自称》》”怪物”健堂 斬加(けんどう きりか)はこう考える。

 

 『一分待てば私を倒せるの?じゃあ、準備させてあげるから全力で闘おう』、と。


 〈ロボキチ〉との試合を見て、そういうのも《《アリ》》だと学んだつもりなんだろうが……わかっていない。

 俺が〈ロボキチ〉との力比べに応じたのは、〈ロボキチ〉を軽く見て、塩を送ったからじゃないのだ。

 俺達は互いに”勝ち方(過程)”に拘ったから、ああいう闘い方をしただけであって、有利不利や勝敗を考えてやったわけじゃない。

 どうなるかなんてわからなかった、だからこそ成立した”男比べ(ロマン)”。

 

 俺達と〈カロリッパー〉ではやってることは同じでも中身が違う。

 奴は”どうせ私が勝つ結果は変わらないのだから”と俺を舐めた。

 俺達がロマンを求めたのならば、健堂のはただのおごりだ。


 直近で過去一を塗り替えた〈ジーク〉との戦いを越えたいって気持ちも相まって、必ずそういう選択を取ると思っていたよ。



 そして、そのおかげで俺は空に向かって昇ることができた。

 これで《《本命の相手》》に集中できる。

 


 「ぐっ……!」


 高度が上がるに連れて、重力が身体を引っ張る力が強くなっていく。

 

 「第一セットパージ!第二セット、点火スタート!!」


 〈スケルトン〉に新たに増設したバックパック〈アポロ〉。

 飛び立つ時に起動した八基の内二基のバーニアを分離し、入れ替わる様に別のバーニアが二基起動する。


 二基を四セット。

 計八つの大型バーニアが二基づつ順番に起動し、バトンを渡す様により高い場所へと機体を運んでいく。

 それが八基の大型バーニアを扇状に広げた鳥翼型ちょうよくがた《《大気圏突破仕様》》大型ブースター〈アポロ〉だ。

 

 「くっ……!宇宙そらまで持つか!?」


 残りのブースターは六基。

 あと三セットでどうにか宇宙へと到達しなければ……。


 実を言うと、この大気圏突破という試みは事前の検証でも成功したことがない。

 上昇する分には制限がなく、決勝に進むに連れて強力な補正バフがかかる……大会の仕様を最大限利用することで何とか届くのではないか、という賭けであり、勝負だ。


 ブースターを全て使い切っても宇宙へ出ることができなかったら俺はただ高く上昇して墜落しただけ……控えめに言っても大マヌケ。

 さすがに健堂も呆れて失望すること間違いなしだ。


 下に向かって引っ張られている。

 巨大な壁をずっと押して入る様な感覚。


 「第ニセット、パージ!第三セット、点火スタート!!」


 バーニアの分離と点火が行われた瞬間、重い荷物を下ろした様に身体が軽くなる。


 スピードは出ているはずだ。

 それこそ〈ジード・フリート〉に負けないくらい。

 だが、こうも果てしないと全く進んでいないのではないかという錯覚しそうで、本当に上昇しているのかわからなくなってきそうだった。


 空間識失調バーテイゴー現象。

 現実リアルの飛行機パイロットも陥ることがある、自機の姿勢がわからなくなる状態だ。

 人は視覚によって平行感覚を支えている。

 霧や雲の中に入った時……要は景色を見ることができなくなった時に自機がどの方向を向いているのかがわからなくなる現象だが、とっくに下を見る余裕などなく、視界が空で埋め尽くされていることでそれを起こしかけているのだ。


 今の〈スケルトン〉のスピードで一瞬でも地面に向かってしまえば、もう上昇することは叶わないだろう。


 バーニアの推力が弱まり、重力を感じる瞬間に上下を理解して軌道を修正しているが、元気一杯のバーニアが点火した直後は空間識失調バーテイゴー現象に怯えなければならない。

 かと言ってバーニアを早めに分離してしまうと推力を無駄にしてしまって高度が稼げない。

 完全に停止するまで稼働させてしまうと停止した瞬間に減速がかかってしまう。


 分離のタイミングをしくじれば宇宙までは届かない。

 だが、上昇方向が垂直から逸れてしまっても届かない。


 その時、空にチカチカと不自然に点滅する光を見つける。


 「……!あれだ!!」


 

 そこで俺は二つ目の賭けに勝ったことを確信する。


 トーナメントのバトルフィールドは〈荒野〉や〈森林〉など、様々な場所が選ばれる。

 そこで俺は疑問に思った。

 なぜ通常のPVP(対戦)ですら〈宇宙〉のステージは無いのだろうか?と。

 〈コロッセオ〉では解放されたステージ……つまりプレイヤーが一人でも足を踏み入れたことのあるフィールドがバトルステージとして使用可能になるらしい。

 しかし、未だに〈宇宙〉ステージの話は上がって来ない。

 俺達は確実に〈宇宙〉のフィールドに赴いているはずなのに、だ。

 そもそも〈宇宙〉なんてデフォルトで使えても可笑しくないくらいのメインステージのはずだ。

 それがなぜ、あんな隠しステージの様な扱いなのだろう?


 ……詳しいことはわからないが、推測はできる。



 つまり、『バープラ』において〈宇宙〉とは世界観メインストーリーに関わる重要な場所なのではないか?



 それこそゲームシステムと称した謎技術ですらフィールドを《《区切って》》持ってくることができないほど、重要な意味をあの場所は持っている。


 だとすれば《《〈宇宙〉は切り取れない》》……もしそうならば、空だけはいつでも俺達の頭上にあるはずだ。


 だから、〈コロッセオ〉に来る前、意味があるかどうかもわからない指示を俺は〈アイギス〉に出してから来た。


 『これからしばらく俺の頭上の宇宙空間で合図を出しながら待機していてくれ』、と。


 遠く見える点滅する光点。

 あれは〈宇宙〉フィールドにいる戦艦〈アイギス〉の合図だ。

 さすがに対戦中なので通信はできないが、役割は完璧に果たしている。

 少しズルい気もするが、これも含めて〈アイギス〉攻略の恩恵だ。

 あれはちょっと目立つ観戦客というだけで〈アイギス〉が直接この試合に関わったわけじゃない。

 俺はあの光点目掛けて飛べば良い。


 さあ、三つ目の賭けの時間だ。

 はたして、試合中に《《ステージの移動》》は可能なのか?

 〈海中〉のステージから海面に上がることは可能だった。

 では地上から〈宇宙〉はどうだろう?

 ……もしかしたら理論的には到達できないと考えられているだけで、実際には高度限界はあるのかもしれない。

 宇宙に到達することは永遠になく落ちるまで飛び続けるシステムだったならまだマシで、突然見えない壁にぶつかる可能性だってある。



「第三セットパージ!!第四セット(ラスト)点火スタート!!!」



 最後のバーニア二基に火を入れる。

 


 「おおぉ…………!」



 これで重力圏を脱することができなければ俺の負けだ。



 「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉァァァあぁあぁぁぁあァァァァ………!!!!!!!」



 〈アイギス〉の輪郭が見えてくる。

 バーニアの推力が抜けていくのを感じる。



 「あああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



 雄叫びと言うよりは絶叫。

 無我夢中にただ上へ上へと昇る剥き出しの骨(スケルトン)


 

 今、俺が戦っている相手は惑星ほしパワーそのもの。


 いや、惑星ほしの引力すらもゲームの中で作られた仮想の物だとしたら、『バープラ』という世界そのものと張り合っている状態なのかもしれない。


 どっちにしろ、ちっぽけな存在《人間》が勝手に始めた惑星《世界》との綱引きだ。

 

 分が悪いなんてもんじゃない。



 だが、俺は思う。


 

 ここは楽しい空間《夢の中》で。



 現実では不可能な(ありえない)ことができる場所で。



 

 突拍子が無くても、おもしろいことなら受け入れてくれる。




 そんな世界ゲームだって。

対戦フィールドは通常〈コロッセオ〉内に解放されたフィールド(プレイヤーが足を踏み入れたことのあるフィールド)が展開されますが、今回の様な〈コロッセオ〉以上の広さでバトルフィールドが設定される場合、各種フィールドの一角にプレイヤーが転送され、そこを区切ってバトルフィールドとしています。

区切る場所は無人であるフィールドの一角が選ばれ、そのフィールドに元からいたプレイヤーはその一角を認識できなくなる仕様です。

高度制限が設けられていなかったのもそういうこと。

空に限界なんて作れねーでしょ?ってことです。


実はプレイヤーが多く活動している惑星に近づいたことで〈アイギス〉にイベントが発生していたり……?あ、ジークさん、お客様ですぅ……。

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