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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
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堂に入った決めポーズ


 「……ふはぁー……勝てたかぁ……」


 〈ロボキチ〉との激闘に何とか勝利し、自室に戻された俺は早々に腰をドカっとソファに落とす。


 ……ギリギリの勝利だった、としか言いようが無い。


 『WIN』と書かれたウインドウが目の前に表示されてすぐ〈スケルトン〉は地面に墜落した。

 右腕以外の三肢を失い、まともな飛行能力を失った〈スケルトン〉が着地なんて当然できるはずもなく、勝ったのに爆散とか……なんとも締まらない。


 我ながら危ない橋を渡った……。


 受けなくてもいい勝負にノッかりまくった末の辛勝なのだから、どうしようもない。

 俺にとってはこの後の試合が本命だというのに、まったく、バカなことをしたもんだ。


 だが、気分は良い。


 こういう”納得”を求めた殴り合いは気持ちがスッキリするものだ。

 本来、勝負事ってのは終わればこうなるのが正しいんだろうな、って気さえする。


 ……ふと、思う。

 昔、健堂との最後の試合に足りなかったのはこういう後味だったのかもしれない。


 俺はとにかくあいつに勝ちたいだけだった。

 ”納得”なんて求めてなかった。

 

 負けたら悔しく思うのは当然だろうが、あの時……俺は”納得”していたのか?

 突き付けてやろうとした敗北という”結果”を逆に突き付けられて、打ちのめされただけで、”納得”はしていなかったんじゃないのか?

 もしかしたら、健堂も……。

 


 思考の続きは控室の扉を叩くノックの音で遮られる。


 「おーい、入んぜ……なんだ勝ったくせにシケた面してやがんなぁ」


 来訪者は〈ロボキチ〉。

 そして、


 「〈ジーク〉……」


 「あはは……決勝進出おめでとうございます」


 「そこで会ってよぉ、ちょうど良いからお前の部屋でこの後の試合見ようって話になったぜ」


 俺の部屋を勝手に鑑賞会場にするな……と言おうとしたが、〈ロボキチ〉の控室に我が物顔で出入りしていたことを思い出し口が止まる。

 おのれ、意趣返しかこの野郎……!


 テーブルを挟んで目の前に〈ロボキチ〉、俺から見て右斜め前……、モニターの正面のソファに〈ジーク〉が座る。

 モニターと俺達三人でテーブルを囲む形だ。


 「しっかし、やられたぜ……砕けると思ったんだけどなぁ……」


 〈ロボキチ〉と〈ジーク〉が今終わったばっかりの試合でのことを話し出す。

 砕ける、というのは超必殺ウルトのぶつけ合いのことだろう。


 「いや、砕けてたと思いますよ、〈フルカゲ〉さんが追加で〈スケルトン〉の手足を投げ込まなければ」


 「え、それって手足を引きちぎって……ってことか?俺からじゃ見えなかったからなぁ……突然パワーが上がったのはそれかよ」


 「良い勝負でしたよ?」


 「自分で作った土俵で負けてちゃなぁ……」


 「……なぁ〈ジーク〉」


 なんか普通に話始めているが、〈ジーク〉に関しては聞いておかなければならないことがある。

 

 「お前……」


 『バープラ』引退するってマジなのか?

 そう聞こうとした言葉は〈ロボキチ〉に遮られる。


 「〈フルカゲ〉、その話はまだ早ええ」


 先ほどまでとは打って変わって、真面目な顔をした軍服幼女の顔が二の句を許さない。


 「〈ジーク〉も今話すなよ。トーナメントはまだ終わってねえんだ、見るもんを全部見て……それから話そうぜ」


 チラっと〈ロボキチ〉は俺を見る。

 口に出さなくてもわかる。

 ことの発端として責任を感じ、〈ジーク〉の決断に水を差すなら、決勝戦でお前が何を見せるかだと。

 

 「そうだな……すまん」


 「……ありがとうございます、お二人とも」


 〈ジーク〉は礼を述べたが、申しわけなさが隠しきれていない。

 ……俺達が何を言おうが、決断を変えることはできないんじゃないかと思うには十分な声色だった。


 「で、そろそろ話せよ」


 空気を変えようと思ったのか、嫌な結末から目を背けようとしたのか知らないが〈ロボキチ〉がわざとらしく身を乗り出して、俺を問い詰める。


 「……なんのことだ?」


 「第一位の機体情報、どっから手に入れた?随分詳しかったよなぁ?この二週間、《《誰と》》何してやがったんだぁ?」


 それかぁ……《《誰と》》、って言ってる以上、〈ロボキチ〉は目星がついてるな。

 まあ当然か、〈ロボキチ〉は確かやり合ってたし。


 「まさか……〈カロリッパー〉と会ってたんですか!?」


 逆に〈ジーク〉はわかってないな。

 まあ、〈カロリッパー〉が俺の中学生時代の旧友ということを踏まえればその結論になるのはわからなくもない。

 

 「いやいや、会ってたのは〈トリプル・ホイール〉の製作者だよ。〈カロリッパー〉本人じゃない」


 別に裏切ってたりはしてないよー、という弁明も込めて言う。


 「……製作者本人って……どうやって探したんですか?」


 「あいつだよな?第一位との待ち合わせ場所を守ってたやつ、けっこうな腕前だったぜ」


 「そうそう……お?」


 協力者について説明をしようとしたところで、壁のモニターが映像を映し出した。

 二回戦第二試合——つまり、〈カロリッパー〉の試合が始まったのだ。


 まあ、勝つのは〈カロリッパー〉だとわかっているが、次の対戦相手の動きを見ておくのは大切なことだ。

 それを二人も理解しており、俺に配慮して映像が動き出してからは質問を中断してくれた。


 〈カロリッパー〉の相手は〈スタリアン〉というプレイヤー。

 残念ながら、どんな人物かは寡聞にして知らないが、このトーナメントに招待されたということは順位称号持ち(ランカー)で実力者のはずだ。

 まあ〈ジーク〉が勝てなかった以上、残念ながら現状〈スタリアン〉氏に勝ち目があるとは思えないので、哀れみの感情が沸いて来なくもない。

 頑張って試合を長引かせて、俺に〈トリプル・ホイール〉の動きをできるだけ見せてくれって感じだ。


 〈スタリアン〉氏の尊い犠牲に心の中で十字を切っている内に、試合が始まった。


 〈トリプル・ホイール〉はスタート直後にスキルを使用、高速で移動、敵機発見、接敵、切り捨て、勝負あり。



 「んん!?」


 早すぎねえ!?

 試合時間、たぶん一分いってないだろ。

 まさしく、あっという間って感じだった。

 つーか、迷うことなく一直線に相手のところに走っていかなかったか!?


 「……妙ですね」


 直近で第一位と対戦した〈ジーク〉が疑問の声を漏らす。


 「どうした、〈ジーク〉?」


 「第一位……焦っていた、というよりは……イラついていた?」


 「イラついてた?」


 言われてみれば、今の〈トリプル・ホイール〉の挙動は 何でも良いから早いとこ、剣を振り回したいって感じに見えなくもなかった。


 「……なんかあったのか?」


 〈ロボキチ〉が言う。


 何のキッカケも無くイラつく人間なんてそうはいない。

 いや、世の中にはそんな人もいるのかもしれないが、健堂 斬加(けんどう きりか)はそういうタイプでは無かったはずだ。

 なにかあったかとすれば、俺と〈ロボキチ〉の試合と……その後のわずかな準備時間だが……、そんな短い時間の間に何があったというのだろう。


 「……なんにしても、都合は良いです。冷静じゃないなら、つけ入る隙が生まれるかもしれません」


 とは、〈ジーク〉の意見だが、残念ながら俺は逆の意見だ。


 「いや、まずいな。今みたいに速攻で決めに来るのなら、俺の作戦は完全に瓦解する」


 そう、俺の対〈カロリッパー〉機には時間がいる。


 〈ジーク〉の時の試合を見ればわかることだが、健堂 斬加(けんどう きりか)は最初っからフルスロットルで敵を斬りに行かない。

 戦いの時間をなるべく設けようとするのだ。

 だから準備時間のいる機体でも問題視していなかったのだが……。

 

 「……やべえな、いや今さら作戦は変えられねえ……やるしかねえのか……」


 ここに来て前提がひっくり返った。

 いや、これかなりまずいぞ?

 内心で焦りが止まらず、考え込んでしまう。


 そこで、コンコン、と控室の扉がまたノックされる。


 「誰だぁ?」


 身内と呼べる人間はもうすでにこの部屋に集まっている。

 となれば完全に部外者の来訪ということになるだろう。

 決勝戦を控えた奴の部屋に押しかけるとはどんな礼儀知らずだ、とでも言うような面持ちで〈ロボキチ〉が扉を開けると、そこには《《白いスーツ》》に帽子の、緑がかった髪を肩まで垂らしたの女の子が立っていた。

 

 「あれ?キッカちゃん?」


 俺と同じ、白いギャングの姿で現れた女の子は俺の協力者であり、健堂 斬加(けんどう きりか)の実妹でもある健堂 切活(けんどう きっか)だった。


 「……なにその恰好?」


 明らかに俺を意識した服装に、〈ジーク〉が怪訝な声を向ける。

 ……いや、狙いが俺に見えるからってのはわかるんだけど、その言い方だと俺の服装もなんか変に聞こえちゃうんですけど……。


 

 問われた人物。プレイヤーネーム〈キッカ〉は帽子を押さえてこう言った。



 「ペアルック」



 堂に入った決めポーズとは正に、このことだった。

ちなみにフルカゲの白いスーツと帽子のセットはちょっとした物。

キャラメイク時に選べばタダだけど、後から店で買おうと思うと『服にしてはちょっと高くね…?』ってなるやつ。

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