小さな巨人と残骸の意地
難産だった……。
超必殺スキルを起動した〈スケルトン〉が空高く飛び上がる。
すると、円形の闘技場を見下ろす〈スケルトン〉を追いかけ、砕けた岩や〈スケルトン〉のクリア外装、〈イン・ガリバー〉の抜け殻達、〈残骸〉も浮かび始めた。
〈残骸〉達は、〈スケルトン〉の目前でガシャ!ガシャ!と音を立てて一つの塊になっていき、元の質量からは考えられないくらい膨張していく。
あっという間に〈スケルトン〉を優に超えるサイズの巨塊となった。
砕かれ、はぐれた、小さな欠片たちの反逆。
これこそ、〈スケルトン〉;レムナントスタイルの切り札。
「〈残骸の意地〉!!!!!!」
巨大な質量を殴り、地面に叩き落とす。
下で拳を構える〈ガリバー〉を巨塊が圧し潰さんと迫る。
〈ガリバー〉は打ち合わせた自身の両拳を離し、構える。
拳を包んで隠すほどだった光が右の拳に集中し、ただでさえ強烈だった光がさらに強くなる。
その光景は、まるで地面に太陽が現れたかの様だ。
右の拳を腰の辺りで引き、〈スケルトン〉を見据えて、膝を曲げる。
巨大な敵を撃ち砕くためだけの、光り輝く小さき拳。
〈ガリバー〉の最大打点。
「〈巨人殺しの小さき拳〉!!!!!」
上空から落ちてくる巨大質量を迎え撃つべく、両の足で大地を強く踏みしめる。
迫る巨塊を粉砕し、〈スケルトン〉を殴殺するために。
二つの超必殺スキルが衝突する。
「オオオオオオオォォォォォッッッッアァァァァァァァァァアァ!!!!!!!」
隕石の様に飛来する巨大な質量を、光り輝く拳が咆哮と共に向かい打つ。
………………………………………
砕ける!!
拳と巨塊がぶつかった瞬間、〈ロボキチ〉は確信する。
スキルだけあって、〈ガリバー〉の肩に重い感触が圧し掛かって来る。
重量も範囲も余裕で〈ガリバー〉を叩き潰すのに十分。
だが速さはそこまで無い。
数秒前まで真夏の夜中に出てくる蚊よりも、ちょこまかと動きまわる奴を追い掛け回していたのだ。
この程度、余裕で合わせられる。
拳を突き出したタイミングは完璧。
全力の衝撃は確実に超必殺スキルの威力に上乗せされた。
そして質量では負けていても、密度《硬さ》は〈ガリバー〉の拳の方が上だ。
〈巨人殺しの小さき拳〉は繰り出す条件は『巨大もしくは強大な相手に対してのみ使用可能』というもの。
巨大・強大というのが、どの程度の相手を指すのかは検証する時間が無かったが、これほどの巨大質量が相手なら問題なく発動できる。
なにより、〈スケルトン〉が強敵でないわけがない。
そして〈巨人殺しの小さき拳〉の効果はシンプル故に強力。
拳打攻撃の超威力補正は当然として、拳を当てた対象がどんなに硬くとも、その耐久値を必ず1上回る威力を叩き出す。
平たく言えば、〈巨人殺しの小さき拳〉は究極のカウンターパンチだ。
どんなに強力でな攻撃、堅牢な盾も、この光の拳が打ち負けることはない。
耐えることは許さない。
はは、ぶつけ合いを提案した側がこれは、ちょっとインチキすぎるかよ……?
この闘いは全体を通して、〈ロボキチ〉の提案する”正面からのぶつかり合い”、”力比べ”に〈フルカゲ〉を付き合わせている形だ。
〈フルカゲ〉はそれが〈ロボキチ〉にとって有利で、準備万端だとわかったうえで了承している。
引け目は……まあ、当然ある。
あいつは『ノッたのは俺だ』とかっこつけやがるんだろうが。
理由はわかってる、余裕とか、ハンデとか、そういう舐めたもんじゃない。
お互いに、《《そういう勝ち方》》に価値を見出したからってだけだ。
そして、ここまでの大技を俺に突き付けて来た。
『壊せるもんなら壊してみやがれ』
この超必殺はそういうことだ。
だったら遠慮も引け目も侮辱に他ならない。
「ドオォォォォォォォォォォォォラァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
咆哮と共に拳をさらに前へ。
この拳、友に届くまで。
なにより、目の前の男を殴り倒すために。
………………………………………
やっぱ足りねえ!!
〈スケルトン〉の超必殺スキル〈残骸の意地〉が〈ロボキチ〉の超必殺に受け止められたのを見て、心の中で舌打ちをする。
〈残骸の意地〉は〈残骸〉が対象とする周囲のオブジェクトを一つに集め、巨大な質量として相手にぶつける超必殺スキル。
その威力の多寡は集めた〈残骸〉の量と質によって変わって来る。
問題なのは、そこそこ上等な部類《質》の〈残骸〉であった〈スケルトン〉の外装パーツを相当量、消費してしまっていたということだ。
なるべく蹴り込むボールに岩を選び節約したつもりだったのだが、〈ロボキチ〉との攻防で蹴り込まざるを得ず、砕けて消滅したクリア外装の数は少なくとも10個以上。
〈イン・ガリバー〉が〈残骸〉判定だったのはラッキーだったが、それでも足りない。
このままでは超必殺のぶつかり合いは負ける。
それは同時に、この喧嘩の敗北も意味する。
そう、《《このままでは》》、だ。
つまるところ、手は……ある。
しかし、それをやると本当に後に引けない。
超必殺のぶつかり合いが終わった後、万が一の幸運に賭けてあがくことすらできなくなる。
これをやるなら〈ガリバー〉はここで完全大破にさせなければならない。
ミリ残しは許されない。
〈ガリバー〉の超必殺の威力もかなりのものだ。
相殺で終わる可能性も十分にある。
確実に、〈ガリバー〉を葬れる確証はないのだ。
……先を考えるなら、やらない方が賢い選択なのかもしれない。
だが、賢い選択は先ほど捨てたばかりだ。
「オリャァ!!!」
俺は〈スケルトン〉の右足を両手で掴み、バキっ!と外す。
制作者なのだから、どんな風に力を加えると破損の危険があるのかは理解している。
股関節の関節を残し、右足を失った瞬間、〈スケルトン〉のバランスが崩れた。
体を左に傾けるのが重くなり、逆に右に傾くのはとてつもなく軽くなった。
平行を保つことができなくなり、そのまま一回転してしまいそうなほど転倒へと引き寄せられる。
一体型での操作、四肢欠損時のデメリットによって機体の操作性が落ちたのだ。
「ぐっ!」
痛みはシステムによって遮断されているので無いが、喪失感はある。
在るはずのもの、あって当然のものが無い感覚は筆舌に尽くし難い。
滞空すらおぼつか無くなり、徐々に落下しながら、外した右足を〈残骸の意地〉へと投げつける。
そう、〈残骸の意地〉はまだ〈残骸〉を引き寄せ続けている。
そして、〈残骸〉の”質”は大本の存在の中で、どれだけ重要な部分であったかで決まるのだ。
機動力特化機体〈スケルトン〉。
しかも今は〈シュート〉をメインの攻撃スキルとしている機体の脚部。
その脚部の重要性《質》が、その辺に転がっている石ころや使い捨ての外装などと比較になるはずもない。
だが、まだだ。
まだ、食わせられる!
俺は右手で左腕を掴むと、引きちぎる様に勢いよく肩から左腕を外して、そのままぶん投げる。
「おかわりだ!!!」
右足と左腕。
本体である者の二肢を投げ込まれた巨塊は止めていた膨張を再開させる。
光の拳があと一歩で砕くところだった、と一目でわかる亀裂も膨張によって無かったことしていく。
いくら胴体と頭部以外の破壊は許容範囲だと言っても限度がある。
これ以上の自傷は胴体などの重要箇所《急所》にも損傷を与えかねない。
そう直観しつつも、さらに左足にも手をかける。
もはや〈スケルトン〉の滞空能力は失われている。
とっくに〈スケルトン〉本体も〈残骸の意地〉に向かって自由落下中だ。
「だぁ!めんどくせえ!!」
左足を右足と同じ要領で外そうとしたが、片腕だったせいで手こずった。
ので、膝の関節部分を殴り砕いて、力づくで分離させる。
〈残骸の意地〉は目の前だ。
もう投げつける必要すらない。
腿から下の右足は巨塊の一部となり、さらに膨張を加速させる。
ここまでやれば俺にできることはもうない。
……いや、最後に重要なことが残ってた。
意味はほぼないが、これはやっとくべきだろう。
《《見栄を張らなきゃあ、ロマンに欠ける》》。
「オオオォォォォォォォォォォォォォォォォォラァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
上から巨塊を叩きつける様に、残った右腕で〈残骸の意地〉を押し出す様にぶん殴る。
巨大な質量が岩の闘技場の地面全体を押しつぶし、円型の大きさを広げながら、破壊の音を響かせた。
もはや光る拳は辺りを照らさない。
『WIN』
土煙と砕ける巨塊の瓦礫と共に地面へと落下しながら、勝利の通知が表示された。
相手の耐久値を必ず1上回る拳である〈巨人殺しの小さき拳〉が打ち負けたのは、左足や右腕などの〈残骸〉が追加されていくことで〈残骸の意地〉が二弾、三弾と階段状に威力を上げていたからです。
要は、”1上回る威力”を計測したのは一段階目の〈残骸の意地〉だけで、その時点で〈巨人殺しの小さき拳〉威力は決定し、追加の威力を越えられなかったんです。
カウンターパンチに後出しジャンケンをぶつけた形ですね。




