表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
72/85

ロマンに則って


 岩に囲まれた円形の闘技場リングを二機のロボットが駆ける。


 走る、引き寄せる、蹴る、避ける、また走る。

 ステップ、ダッシュ、殴る、受ける、また殴る。


 常に高速で動き続け、隙を見ては残骸ボールを蹴り込む〈スケルトン〉。

 時折、急加速しては拳を突き出す〈ガリバー〉。

 

 「……はぁ……はぁ……」


 「ぜぇ……ぜぇ……」


 もうどれくらい、この攻防を続けているだろう。

 リアルで全力疾走しているわけでもないのに、お互いに息が乱れる。

 電脳世界でロボットの身体なのに息が切れるなんてのは、どうにも納得がいかないが、これは俺自身の体力が疲労しているというより、極度の集中による精神の疲労から来ているものだ。

 逆に言えば、それほど俺と〈ロボキチ〉の意識は自らの機体にシンクロしているということ。

 実際にリアルで走っているわけではないが、脳みそが走っていると錯覚し、疲労を感じるほどの入れ込み具合。


 つまり、お互いのボルテージは最高潮に到達しつつある。

 

 そして、現時点でどちらが優勢かというと……残念ながら〈ロボキチ〉であると言わざるを得ない。

 紙一重でほとんどの攻撃を避け、攻撃の手数はこちら勝っているから、一見〈スケルトン〉が優勢に見えてしまうが状況はかなり厳しい。


 ダメージレースで言えば、俺の方が攻撃を当てている。

 しかし、その攻撃は多少怯む程度の致命打クリティカルからは程遠い攻撃。

 頭部か胴体(急所)の破壊が撃破判定《決着》の『バープラ』において、重要箇所以外のダメージは部位破壊以上の効果を期待できないのだが、〈ガリバー〉は今も五体満足だ。

 しかも〈ロボキチ〉は迎撃が上手く、的確に拳のガントレットで攻撃をパリィしてくる。

 〈シュート〉が決まった時を見計らって、こちらも近接攻撃《殴る蹴る》を試みたりもしたが、致命傷を狙う攻撃は確実に捌かれた。

 そもそも、防御の選択指が〈ロボキチ〉は避けるか拳で迎撃するなのに対し、こちらは避ける一択。

 〈スケルトン〉は一撃食らうだけで、致命傷になりかねないのだから必然だ。


 オバーヘッドキックの様な、アクロバットな動きを交えて、何度か〈シュート〉を当てたが、大した成果が上がっていないのが現状だ。

 そして、その様な無茶苦茶な動きは集中力をゴリゴリ削っていく。

 同時に複数の情報を処理するのは脳が燃える様な(オーバーヒートする)感覚だ。

 〈スケルトン〉を追い続け、攻撃のチャンスをうかがっていた〈ロボキチ〉も相当疲労している様だが、常に走り続けなければならなかった俺の方が疲労度で言えば上だろう。

 

 「オォォァ!!!!」


 咆哮を上げて〈ガリバー〉が一気に距離を詰めてくる。

 俺がちょうど〈残骸レムナント〉でクリア装甲(ボール)を引き寄せた、〈シュート〉を放つまでのわずかな間隙を突いた突貫。

 〈残骸レムナント〉で引き寄せたクリア装甲(ボール)が足元に来るのを待つ時間は無い。


 「くっ!、オォォォォォォォォォラァァァァ!!!!!」


 右から飛来するクリア装甲(ボール)の位置を確認し、その場でジャンプ。

 右足を伸ばして一秒でも早くクリア装甲(ボール)を足に接触させる。

 目の前の地面に叩き落とす様なイメージで右足を振るう。


 「ぐっ!!ゥォォ!!!」


 このままでは〈ガリバー〉の頭部に至近弾が命中すると察した〈ロボキチ〉がアッパーカットを放つつもりだった右拳の軌道を無理矢理変えた。


 バァァァァンンン!!!!!


 クリア装甲(ボール)を挟んで、〈スケルトン〉の右足と〈ガリバー〉の右拳が衝突する。

 スキルが弾ける音が闘技場に響き渡り、両者共に壁際まで吹き飛ぶ。


 「ぐっ……!」


 「ちぃ!……!」


 互いにこの壁際で立ち上がるのは、今日何度目になるだろう。

 岩の壁に手を着きながら、立ち上がる。

 離れた距離を元に戻すべく、お互いゆっくりと歩きだす。


 ……とても華やかとは言えない削り合い。

 現実の身体では確かに不可能な闘いではあるが、ゲームの闘いとするならば、あまりに地味すぎる辛いだけの泥試合だ。


 だが、〈スケルトン〉の胸部にいる白いギャング(自分)は薄っすらと笑っている。

 視線を〈ガリバー〉に戻す。

 表情はわからないが、闘志漲る〈ガリバー〉の中で〈ロボキチ〉も同じ様な表情をしているのではないかと思う。


 

 互いが再び走り出す距離の一歩手前で、〈ガリバー〉が足を止める。

 俺も、歩を止めた。


 「……〈フルカゲ〉ぇ……良い感じだなぁ……!」


 疲れた声で……でもまだ続けたいと伝わってくる言葉を、〈ロボキチ〉はこぼす。


 「……さあね……泥仕合とも言うんじゃねえか……?」


 同じ気持ちだと確信しつつ、俺は否定的な言葉をわざと選ぶ。

 言葉の通りじゃないことは、お見通しだとわかったうえで。


 「ククク……かもなぁ……だったら、幕引きが中途半端になるのは締まらねえよなぁ……そろそろ決めようぜ」



 ……来たか。



 〈ロボキチ〉が優勢だと断じた最大の理由。

 


 ああ、攻防を続けていく内に察してたよ。


 明らかに射程距離一歩外《レンジの外》なのに《《狙う》》視線。


 〈ガリバー〉には奥の手がある。


 そして疲労の差はここで響く。

 恐らく、〈リアクティブ・クリア・ミラー〉の様な超必殺ウルトスキル。

 基本的に超必殺ウルトは一度使用すれば、次に使用するのに再使用時間リキャストタイムが膨大なものが多い。

 当てられれば勝負を決めることができるが、外せば隙も大きい切り札的なスキルだ。


 機体《肉体》的には僅差で〈スケルトン〉有利だが、コンディション的には〈ロボキチ〉が確実に上回る。

 

 そして、”ロマン”を考慮するなら……。


 「……ヨーイ・ドンだ。名残り惜しい(なごりおしい)が、これで決めようぜ」


 ……まあ、そうなるよな。

 

 俺は一瞬、意識してまぶたを閉じ、考える。

 〈ロボキチ〉も俺が超必殺ウルトを持っていることに気づいていたのだろう。


 超必殺ウルトの打ち合い、否、ぶつけ合い。

 どっちかの凡ミスで締まらない幕引きになる前に、最大攻撃をぶつけあって、派手に勝負を決めようと〈ロボキチ〉は言っているのだ。

 

 しかし、今の状態では俺の敗色は濃厚だ。

 予測に過ぎないが、〈ガリバー〉の超必殺ウルトは素振りからして、拳の強化、もしくは拳から破壊力のある攻撃を放つ、直接破壊系。

 高確率で、一定程度の威力は保証されているシンプルなタイプだ。

 対して、〈スケルトン〉が〈リアクティブ・クリア・ミラー〉と変えてセットした超必殺ウルトは、同じく直接破壊系ではあるものの、威力に波があるタイプ。

 そして、状況を見るに今の俺の超必殺ウルトは最大威力からは程遠い。

 

 ……恐らく、超必殺ウルト同士をぶつけて相殺は可能だ。

 それくらいの威力は出る……と思いたい。

 だが、〈ロボキチ〉の超必殺ウルトを押しのけて決着まで持っていくことができるかと問われれば確実に否だ。


 そうなれば、また削り合いが始まる。

 直前の攻防からもわかる通り、俺の集中力は限界が近いし、〈ロボキチ〉は俺を攻撃するタイミングを掴み始めている。

 

 〈ロボキチ〉は普通に続けても〈スケルトン〉をノック・アウトできるが、俺はいくら直撃ゴールを決めても〈ガリバー〉を倒せないというのが現状だ。


 格闘技と球技の差が如実にょじつにでたとも言える。

 ボールを人にぶつけてぶっ倒すのはサッカーではないが。


 つまり、何が言いたいのかと言うと、俺には超必殺ウルトスキル以外に決め手が無いのだ。

 超必殺ウルトをしくじれば俺の勝ちはほぼなくなる。

 

 一番賢いのは〈ロボキチ〉のこの誘いを受けたフリをして、〈ガリバー〉の超必殺ウルトを回避し、その直後に超必殺ウルトをぶつける……そうでなくても超必殺ウルトを温存するというものだろう。


 相手の超必殺ウルトは撃たせて、こちらは超必殺ウルトを持ち続ける。

 それだけでも、勝率は上がる。

 いや、〈ガリバー〉が超必殺ウルトを撃った直後を狙えば、ほぼ確実に勝てるだろう。

 〈ロボキチ〉が〈スケルトン〉の動きに慣れ始めたのと同様に、俺も〈ガリバー〉の動きに慣れ始めている。

 意識していない隙があれば、お互い確実に刺せる。


 『いいぜ、受けてやる』


 一言、偽りの承諾をすれば良いだけだ。

 いや、これは偽りとは言わない。

 〈ロボキチ〉だって本当に超必殺ウルトを撃ちあうつもりか定かではない。

 俺の超必殺ウルトを消費させるのが目的かもしれないじゃないか。

 じゃんけんで相手がグーを出すか、チョキを出すか、読み合って裏をかくのと同じ。

 このやりとりは高度な戦略の選択、十分に正々堂々とした闘いだ。

 なに一つ、卑怯なことは無い。



 バァァァン!!!!



 〈スケルトン〉の足が地面を踏みつけ、震脚の轟音が岩の闘技場に響く。

 大股を開き、両膝を深く、深く曲げる。

 足の力が出せる最大の出力を叩き出す準備だ。

 同時に、ただのスキルではないと一目でわかる一際大きい輝き(エフェクト)が〈スケルトン〉を包み込む。


 超必殺ウルトスキル。


 負けたくはない。

 しっかり勝ちたいという気持ちはある。

 しかし、そんな勝ち方で良いのなら、こんな急ごしらえの岩の闘技場(リング)には始めっから上がっていない。



 了承の言葉は不要、行動にてを認めた。



 「……やっぱりお前は、ロマンがわかってるぜ」



 言葉では無く、行動で勝負を受けた俺を見て、〈ロボキチ〉が感嘆の声を漏らす。


 おい、お前の流儀ロマンに合わせてやってんだぞ?

 お前もノれよ。

 


 「おい……言葉それ必要いるか?」



 発するつもりの無かった音を、小さく発する。



 ガァァァァンンン!!!


 

 〈ガリバー〉が自身の両拳を打ち合わせる。

 同時に、〈ガリバー〉の拳も一際強いエフェクトに包まれる。

 光の強さは〈ガリバー〉の方が強い。

 証拠に、太陽の様な光量の光は拳の輪郭すら覆い隠し、もはや拳というより小さい光球が腕から生えているかの様だ。


 

 俺が突然始めてしまったから、合図ヨーイ・ドンは無い。

 お互いのタイミングはこれまでの攻防でわかっているのだから、もはやそれは必要ないということでもある。

 

 ……しかし、言葉は不要と言っても、最後に一言、ロマンに則って(のっとって)叫ぶとしよう。


 だから、次の言葉を決着の合図とする。



 「「超必殺ウルト!!!!!」」



 俺と〈ロボキチ〉は同時に叫び、自信の切り札。

 その蓋を解き放つ。

ボールは人にぶつける物ではありません。

ボールは友達です。友達で人を傷つけるなんて最低なことです。

え?ドッジ・ボール……?知らない子ですね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ