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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
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ゴング


 ガワを脱ぎ捨て、外気に姿を現した〈ガリバー〉を見て、俺がまず思ったことは『やっぱこいつ頭おかしいわ…』だった。


 「……やっぱりフルスクラッチかよ…」


 「おう、作んのに一番苦労したぜ…思い入れがあり過ぎて、引退前《最初》はこいつばっか使ってたくれえだ。…つってもアプデ前は脱ぐの(ギミック)に時間がかかりすぎて〈ガリバー〉にはほとんどならなかったけどな」


 ゼロからの作成(フルスクラッチ)

 プラモデルは基本的にメーカーが想定した完成予想図というのが元にある。

 バラバラ(パーツ)の状態から組み上げるのが基本だが、一つ一つのパーツはその完成予想図に基づいて整形されているのだ。

 その完成予想図のシルエット()を自分好みに加工して変えるのが”改造”と呼ばれる楽しみ方で、カジュアルに楽しむなら、メーカーが発売しているカスタムパーツを加える…所謂、”ミキシング”という手法がスタンダートだ。


 しかし、一部の凝り性(狂人)はさらに先を行く。


 発売されているカスタムパーツでは規格(スケール)が合わない。

 再販未定で入手できない。

 作中で一度しか使われなかった装備で商品化されない。


 そういった、通常の販売ルートでは手に入らない立体物に対して彼らはこんな結論を出した。


 ”メーカーが発売しないのなら自分で作ればいいじゃないか!”


 ……プラ板という商品がある。

 読んで字のごとく、ただのプラスチックの板だ。

 彼らはこのプラスチックの板を切り、張り合わせ、削り、時には炙って曲線を作り、造形用の粘土パテと組み合わせて、メーカーが金型を使って生成するパーツを自らの手技のみで再現する。

 

 そこまでいくとプラモデル制作というより、”プラスチック造形”とでもいうべきジャンルだ。


 もはや創作活動に対する執念すら感じる。

 どれほどの手間、どれほどの時間、どれほどの技術が必要な作業なのか…。


 少なくとも俺はやろうとは思わない。

 気が狂う自信しかない。

 仮にやるにしても、剣とか銃とかの小物で限界だろう。


 それを、羽刈 鋳造(ロボキチ)はロボット一体分やりやがったのだ。

 いや、中身の〈ガリバー〉とガワの〈イン・ガリバー〉を合わせると二体分か?

 店で買うキットを丸々自分で生み出した様なもんだぞ。


 そこまで派手なネジの飛び方してるなら、もはや尊敬するしかない所業だ。


 「まあ厳密に言うと〈ガリバー〉自体は全部(フル)じゃなくて、ほとんど全部(スクラッチ)なんだけどな…しっかし、よく一目でフルスクラッチだとわかったな」


 「そんな特徴的なギミックの機体がいたら知らねえはずねえだろ。それに…」


 俺は抜け殻になっても倒れることのない〈イン・ガリバー(ガワ)〉を指差す。


 「お前が作ったにしたって脱着ギミック余裕や間隔(クリアランス)がいくらなんでも完璧すぎる……まるで改造する(手を加える)前からそういう設計で作られたみてえに」


 『バープラ』サービス開始当初の〈リアルプラモ〉下火時代でも自作の〈リアルプラモ〉を使っていた〈ロボキチ〉だ。

 こいつが使ってる機体は十中八九、〈ロボキチ〉自身の手が入っているはず。

 それはつまり、改造を施されているということであり、元あった可動域やギミックを多少なりとも犠牲にしていることを意味する。

 そこをうまいこと調整する腕を持っているのも認める所ではあるが、ロボットの中にロボットをしまうなんて芸当はやりすぎだ。

 ありものを組み合わせただけでは、ここまで違和感を感じさせずに中の〈ガリバー〉とその展開ギミックを実装することはできないだろう。

 ゼロからそういう予定で設計したのでなければ、ここまで完成度の高いギミックにするのは難しい。


 「…一目見ただけでそこまでわかるお前も十分俺と同じ側の野郎だと思うけどな」


 「本当に一緒にしないでほしい。俺はなにごともカジュアルに楽しんでいる」


 「………エアブラシ使って、改造に手ぇだしてる奴が…カジュアル…?」


 「趣味の世界とはかくも奥深い…俺なんかまだまだ入り口で足踏みしている若者にすぎないだろう…」


 「…激しく意義を唱えてぇとこだな……お前は確実に山の麓にはいねえよ」


 「意義は認めん」


 「お前の作るモンは絶対カジュアルの枠に収まってねえからな!?」


 少なくとも俺はプラ板からロボットを錬成しようとは思わねえよ。

 そりゃ、ちょっとはパテとかプラ板も使う時があるけどな?




 俺は岩の上から降りて、岩で囲われた闘技場の中に入る。


 「まあいいぜ。付き合う義理はねえが…ここまでお膳立てされてノラねえのもダセェしな」


 言いながらスキルを起動し〈スケルトン〉の纏うクリアの外装が弾け、辺りに飛び散る。

 これで、お互い全力モードだ。


 「…さすがだな、ロマンを理解して(わかって)やがる……男比べに上着はいらねえ」


 「……言っとくが、バカ正直に拳だけで闘う気はねえぞ?」


 右腕に内蔵されたエネルギーブレードを起動し、〈ロボキチ〉に見せつける。


 「構わねえよ。そこまで合わせてもらっちゃぁ、さすがに気が引けちまう」


 「開始の鐘(ゴング)は?」


 「…そうだな」


 〈ロボキチ〉が背後の〈イン・ガリバー(抜け殻)〉に手を伸ばす。

 そのまま頭部をバキッ!と外す。

 

 「こいつを放る。そんで地面に落ちたら開始(ヨーイ・ドン)だ」

 

 「……随分とまあ古風っつーか…地味なゴングだなぁ…」


 「うるせえなぁ、いいんだよ大事なのはゴングの後なんだからよお」


 「違いねえ」


 これから全力で喧嘩を始めようとしているとは思えない、あまりにもいつも通りすぎる会話。

 

 実際、俺の肩に力は入っていない。

 恐らく〈ロボキチ〉も同じだろう。

 緊張感に欠けるのは……まあしかたない。


 別に親友というわけでもないし、どちらかと言えば俺達は淡交な方で、しかし、どうしようもなく同じ趣味の持ち主(同好の士)なのだ。

 

 だからこそ、いざ競うとなったら負けたくない。


 〈ロボキチ〉は俺に事情があると理解したうえで、本気で負かしに来るだろう。

 まあ、俺が逆の立場でもそうする。

 ”俺に負ける程度なら、どっちみち無理だったでしょ”とか、それっぽいことを言うと思う。

 どんな形であれ、こいつに負けるのが嫌だったから…というガキくさい感情で。

 酷いとは思わない。

 空気を読めとは思うが。



 「そんじゃぁ、いくぞぉ!」


 

 〈ロボキチ〉の操る〈ガリバー〉が〈イン・ガリバー〉だった時の頭部を空高く投げる。

 

 ……今更だけど、頭部それ、数分前まで自分の頭部だったわけだよね?

 もうちょっとこう……躊躇とか…気味悪がるとかねえのか……ねえか…いかんな。


 この後に及んで、まだしょうもないことを考えている。

 さすがに気を引き締めないと…と思っていると。


 「〈フルカゲ〉……〈ジーク〉に見せてやろうぜ」


 と、先ほどまでとは打って変わった真剣な声で〈ロボキチ〉が言う。


 「まだ、遊びたい(やりてえ)って思うくらいのバトルをよぉ…!」


 頭が落ちてくる。

 戦端せんたんが開くまで、もう数秒もない。


 だが、十分だ。

 というか、〈ロボキチ〉の言葉を理解した瞬間に、これ以上ないくらい気は引き締まった。

 

 「…ああ、そうだな……!」


 同時に、俺と〈ロボキチ〉は構えをとるべく動く。


 俺は腰を落として、ブレードのある右手を引く。

 一秒でも早く動き始めるために身体の準備を整える。


 〈ガリバー〉も右手の拳を頭の横に構え、左の拳で腹を守る様な…まるで金剛力士像に似た力強さを感じる構えをとった。

 その狙いは恐らく、迎撃。

 先の先は取れないと判断して、後の先(カウンター)を選択したのだろう。


 落ちて来た頭部が俺達の目線を一瞬、遮る。

 しかし、目線は切れない。

 

 頭部が地面と接触する。

 思ったよりも高く放られ、物理エンジン(重力)によって加速した頭部が砕け散る。



 バガァ!!


 鈍い音の開始の鐘(ゴング)




 同時に〈スケルトン〉は〈ガリバー〉の左肩から腹まで、エネルギーブレード()を走らせた。

 

ただ勝敗を決するのではなく、胸躍る闘いを求めて。

それが友に送るメッセージ。

不器用な仲間思いの選択。

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