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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
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リング・イン


 バトルステージは〈岩峡谷キャニオン〉。

 まるで岩でできた迷路の中にいる様に、谷底にいる〈スケルトン〉は四方を岩で囲まれている。

 空は日が傾き、夕暮れといった時間設定の様だ。

 暗闇に包まれるのに、そう時間はかからないであろう時刻。


 「……まずいな」


 遮蔽物しゃへいぶつの多い岩の迷路。

 岩を登れば上階からの攻撃も可能な地形。

 そして、夜になれば視界は今以上に悪くなるだろう。


 …この地形は罠や計略に向きすぎてる。


 〈スケルトン〉は待ちかまえて、迎撃を狙うタイプの機体じゃない。

 基本的には敵を追っかけて殴る機体だ。

 当然、罠なんか仕掛けられるわけもない。

 

 〈ロボキチ〉も同じであることを願いたいが、相手は〈ジーク〉に悪だくみの才能があると太鼓判を押された男だ。

 仕掛けようと思えば罠でもなんでも作りあげるかもしれない。

 地形を利用するくらいはお茶の子さいさいだろう。


 「…罠を張る前に速攻で仕掛けるしかねえな」


 〈ロボキチ〉がなんの機体で来てるか知らないが、罠やら策の準備が完成する前に殴り合いに持ち込む。

 一度接敵さえしてしまえば、例えこちらが一時離脱しても〈スケルトン〉のスピードを警戒して隙の大きい行動は取れなくなるはずだ。


 「爆速で見つけて、不意打ちでぶっ飛ばす!!」


 バーニアを吹かして一息で飛び上がり、四方を囲む岩の上に足をかけて、そのまま駆け出す。

 そのまま岩の上を進み、谷底を見下ろす様に捜索を開始する。


 「クソ…!思ったより広いな……!」


 岩の囲いから飛び出しては見たものの、ステージの広大さに早くも暗雲がかかり始めた。

 上空まで飛び上がってステージ全体を見下ろそうかとも考えたが、こちらが発見されるだけの様な気がするので却下。

 かといって、谷底を走って岩の迷路の中をさまようのも時間がかかりすぎる。

 故に間を取った選択なわけだが、トーナメントのバトルステージは横に広く、縦は無限という解放感タップリの伸び伸び仕様。


 先に発見することができても、十分な時間がかかりそうだ。

 〈ロボキチ〉が待ち構えるつもりなら、接敵時点でもう準備万端の可能性が高い。

 

 状況によっては一撃離脱の戦法も視野にいれながら動かなければなるまいと、頭の隅に書き込んでおく。

 

 とりあえず走り回るしかないか、と思っていると、


 ドォォン!!!ドォオン!!!


 突然、爆発音が〈岩峡谷キャニオン〉に響き渡る。


 明らかに落石とかの音じゃない。

 証拠に爆発音はその後も断続的に、……なんなら少しリズムを刻んで響かせている気がする。

 おいコラ、遊ぶな。


 「…お誘いってことかよ……!」


 十中八九、罠であることは間違いない。

 しかし、早すぎる。

 まだ試合開始したばかりだというのに、もう罠を準備したのか?という疑問は残る。


 しかも響いて来る音からして、バズーカ砲の様な射撃武器を使用していないか?

 俺が誘いに乗らなければ…いや、すでに無駄弾だ。

 俺を、おびき寄せるにしたって、一発で良い。

 何発も、それこそ射撃武器なぞいらねえ、とばかりに連発する必要はない。

 ならば〈ロボキチ〉の使用機体は〈ナパーム・スラッガー〉の様に弾薬が豊富にあるタイプか?


 〈ロボキチ〉も俺が何の機体で来てるかはわかっていないはずだ。

 だが〈スケルトン〉を知っている〈ロボキチ〉が、その機動力を警戒しないとは考えられない。


 大体の位置がわかれば、〈スケルトン〉なら接敵は数秒で可能だとわかっているはず。

 

 ……もしかして、こう言いたいのか?

 

 ”罠も…飛び道具もないが近づかれても問題ねえ”。


 ”〈スケルトン〉(お前)の得意で殺してやる”。


 「……はっ!舐めてくれるじゃねえか、ガラクタ野郎!」

 

 こんなのは被害妄想に近い、ただの思い付きだ。

 だが、不思議とそうに違いないという確信があった。


 もちろん罠の可能性は捨てきれない。

 誘い出されてハチの巣にされるかもしれない。

 少なくとも、相手は準備ができている状態なのは確かだ。


 だが、それならそれで良い。

 どっちにしろ、俺にできることは多くない。

 少ない選択肢を高品質でお出しするだけだ。

 

 「ぶっ飛ばす!!」


 早く来い、と言わんばかりにリズムを刻んで鳴り響く爆発音の方へと駆け出す。

 

 だから遊ぶな!

 




 ………………………




 爆心地に到着すると〈ロボキチ〉は俺のスポーン地点と同じような四方を岩に囲まれた袋小路の様な場所にいた。

 その袋小路の空間はそこそこに広く、円形の空間で闘技場を連想させる。


 〈ロボキチ〉の機体は〈イン・ガリバー〉。

 どうやら、唯一の通り道を二丁のバズーカ砲で崩して落石を起こし、この場の上空以外を完全に囲うのが目的だったらしい。

 〈イン・ガリバー〉の足元には、役目はすでに終えたと言わんばかりに弾切れであろうバズーカが放られている。


 「よぉ、やっぱり〈スケルトン〉で来たな」


 岩の上から見下ろす俺を見上げて、〈ロボキチ〉が言う。

 俺も隠れているわけじゃないので、普通に返す。


 「お前は〈イン・ガリバー〉か、てっきり〈ナパーム・スラッガー(ナパスラ)〉で来ると思ってたぜ」


 これは適当なことを言ってる。

 というのも、〈ロボキチ〉の意図がわからないのだ。


 まんまとおびき出されておいてなんだが、〈イン・ガリバー〉は遅いわけじゃないし、パワーもそれなりにあるが格闘向きの機体じゃない。

 背に柄の長い斧(ハルバート)を装備しているが、あんな取り回しの悪そうな武器で有利が取れるとは考えないはずだ。

 〈スケルトン〉を想定していたみたいだが、〈イン・ガリバー〉では相手になるのか微妙なところだろう。


 それなのに、明らかに待ち構えている。

 どころか無駄弾を撃ち、退路を塞ぐ様なマネまでしている。

 その不気味さが、何をしてくるつもりなのかという興味が、俺に不意打ちを躊躇ちゅうちょさせた。

 

 「それで?わざわざ広いステージの中にせせっこましい舞台をこさえて、何がしてえんだ?まさか〈イン・ガリバー〉(そいつ)で〈スケルトン〉と接近戦やろうなんて思ってるわけじゃねえんだろう?」


 ここまで堂々と待ち構えているんだ、〈ロボキチ〉も隠すつもりは無いのだろう。

 ストレートに聞く。


 何かあるのは確実だ。

 〈イン・ガリバー〉を見るのは初めてじゃない。

 確か、初めて〈宇宙〉エリアを発見した時に乗っていたのが〈イン・ガリバー〉だったはずだ。

 その時も違和感があった。


 同じ規格の大きさ(同スケール)のはずだが、やけにデカい体躯。

 〈ロボキチ〉の作品にしては武装が多いわけでも、装甲が増加されている(フルアーマーな)わけでもない。

 そしてなにより、|何の作品のプラモデルか《原典が》わからない。

 

 例えば〈スケルトン〉なら『起動戦討記アファム』というロボットアニメが原典《元ネタ》であるように、そういう原典のあるプラモデルは特定の位置にボルトが必ずあったり、腰の作りなどが独特だったりと、その世界観特有の雰囲気を放つものだ。

 ビーム兵器の無いリアル思考の作品が原典なら実弾攻撃がメインになるし、変形機構が基本装備の世界観なら、飛行形態による急加速が可能など世界観がわかれば、できることも予想できる。


 それが、〈イン・ガリバー〉にはそういう独特の雰囲気が感じられない。

 

 

 俺が知らない作品の出、というだけなのか、それとも……。



 「おう、リングも整ったしな……ボチボチ始めるか」



 そう言って、〈イン・ガリバー〉が動く、否、《《弾ける》》。


 バガァっ!と太い胴体が観音開きで勢い良く開かれ、巨大な体躯の中で眠っていた者の目に光が灯る。

 

 「……なるほど、外見の正体は鎧だったわけだ」


 〈イン・ガリバー〉の脚部の正面にも一直線の亀裂が走り、胴体と同じ様に開く。

 胴体の中から伸びた細い、しかし確かな力強さを感じる腕が腰の前掛け部分を掴んで放り捨てれば、もはや目覚めし者が外に踏み出すのに障害はない。


 階段を一歩下りる様に進み、随分と小さな体になった〈ロボキチ〉が言う。



 「〈ガリバー〉……これなら、〈スケルトン〉に不足はしねえぜ?」



 外気に触れ、湯気の様なエフェクトを纏う〈ガリバー〉は俺の背にある夕焼けの様なオレンジ色に鬼の様な一本角を持つ。

 

 全体的に細いフォルムで、〈イン・ガリバー〉の時と比べると、だいぶダウンサイジングした(小さくなった)が、外見はスタンダートな二足歩行ロボットだ。

 

 「〈イン・ガリバー〉ね……中には小さな巨人スモール・ジャイアントが入ってるってか?」

 

 何をしたい機体かは一目でわかった。


 拳。


 所謂、メリケンサックの様な握りが付いている防御よりも攻撃のためにあるかの様なデザインの篭手ガントレット


 手に握っている武器が、物語る。


 

 さあ、殴り合おうぜ。

最終決戦仕様。

それはフルアーマーや重武装の様な大きな戦いのためにできる限りの準備をした形態…だけのことではない。

己の全力全霊をぶつけられる形態、たった一枚の手札に全てをかけられる形態だって含まれる。

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